１
のっけから言うのもなんだが、「謝罪」したことを後悔している。「週刊オブィエクト」管理人JSF氏が、当ブログの「おぞましきもの〜ガザから始まるフラグメンツ・エクストラ� 廚砲弔い董∨佑�氏の記事の内容を捻じ曲げて引用し、論旨を設定した、すなわちそれは「わら人形論法」であると批判してきたことに対し、僕が当該エントリーの削除とメールによる「謝罪」という形でそれを認めた件である。
僕に誤りがなかったわけではない。誤りは何箇所もあった。結論から言うと、JSF氏が認識していない誤りすらあったのだが、それらすべてひっくるめて、JSF氏個人に対して謝罪するというのは、どうにも筋違いであった。僕のブログの読者に対して謝罪するのが正解であった、ということ。
その最も大きな根拠は、当然ながら僕がJSF氏に対する名指しを避けている、ということである（注：現時点ではすでに向こうから送られてきたTBを表示するなど、抗議を受けた相手を明らかにしてしまっているので、今さらここでは名指しを避けない）。名指しを避けた理由は、その文章の狙いが彼に対する論戦を挑むことではなく、彼の言説および似た系統の言説から、僕の中に感じられた「おぞましさ」の意味を考えることだったからだ。それは今ももちろん変わらず、この文章では謝罪を撤回する理由を解説するけれど、別にそれでもってJSF氏に「反論」を仕掛けるためではない。そんな欲求は元々ないし、今もない。
正直、僕は日常「おぞましい」と感じた言説などを、いちいちブックマークに入れたりしない。どこの誰が書いたものであるのか、それが著名な人物でない限りは、記憶しておこうという意志がまず働かない。週刊オブイェクトだのJSFだのの名前も記憶していなかったくらいなのだ（・・・なので、先方よりメールをもらっても、「週刊○○」という件名のスパムメールはよく来るから、その類だろうと思って危うくゴミ箱に捨てるところだった）。
調べ直そうと思えば調べ直せるのに、それを怠ってしまった。自分が書きたいことの主旨からすれば「必要ない」と思ったからなのだが、それがいけなかったと今は反省している。対象に対して批判的な内容であろうとそうでなかろうと、その怠慢は、結局は自分の書くものの質を貶めてしまう。それは、読者に対する怠慢ということである。
記憶に頼ってJSF氏の主張を見誤ってしまったことについて。
記事を書く上での主要な参照先、というよりほぼきっかけと言っていいものはJSF氏のガザ侵攻でイスラエル軍が白燐弾を使用という記事だが、この記事の中で僕が引っかかった主張は、以下の部分である。
「あの時（レイランダー注：ファルージャでの米軍による白燐弾使用をめぐって議論が盛んだった時）、あれだけ大騒ぎしていたのに、白燐弾について一過性で終わってしまいました。地雷やクラスター爆弾のように規制する動きはついぞ出て来ず、国際的にも国内的にも白燐弾騒動は急速に忘れ去られてしまっています。
これは白燐弾を非難していた反戦平和団体が、白燐弾の事を実態よりも遥かに強力な兵器として喧伝した結果「謎の超兵器」と化してしまい、その虚像が暴かれ、相手にされなくなった事によります。思えばあの時、常識的な範囲内での糾弾に徹していれば、白燐弾の規制は進んでいた筈でした。」
実際に反戦平和団体が白燐弾を「謎の超兵器」などと言っていたかどうかは別として（僕はまったく記憶がない）、彼のここでの主張は「白燐弾は煙幕弾に過ぎず、残虐な兵器ではない」ということを前提にしている。僕はその前提をよく読まず、「平和団体が虚像を作り上げたから規制が進まなくなった」というような、責任転嫁の物言いにカチンと来た、その印象だけを残してしまった。じゃあお前らは何をしてくれたんだよ？という。
さらに僕の失敗は、それまでに目にしたことのある、いわゆる「軍オタ」的な人々の言説を、これまたあいまいな記憶に頼って一緒くたにし、一人の人物の言説に結び付けてしまった、ということがある。
それらは実際には、それぞれ微妙に立場が違う（時期も話題にしている兵器も違う）複数の言説である。たとえば、白燐弾に限ってみても、「毒性が強い」「大した毒性ではない」「対人使用はまずい」「わざとじゃなければ仕方ない」「対人使用なんてそもそもありえない」等々、入り混じっている。確かにそこでは、思考の前提として軍事的合理性が優先されていて、その前提を共有できない「反戦平和主義者」は現実を知らないと揶揄する、というトーンにおいて共通している。しかしだからといって、僕の当初のエントリーのように、「その兵器の残虐性を熟知しているくせに、禁止に向けて動く人々をあざ笑う」という形で一本化してしまったのは、「白燐弾」という特定の兵器を例にしている以上、やはり的外れというか、少なくとも不正確だろう。
僕は言うなれば「架空のJSF氏」、JSF氏の言葉を借りれば「わら人形」を作り上げたのだが、問題はそれが「わら人形」であることではない。やりたかったことは、彼らの言説に通底するものを抽出して、自分の違和感の正体に接近することだったのだから、それが一種のわら人形になることは織り込み済みである。ただ、あまりにも出来の悪いわら人形であったことが問題なのだ。
ところで調べ直してみると、僕の記憶に残っていた白燐弾に関してのそれら複数の言説というのは、一つのブログなりサイトなりが論陣を張っていたというより、JSF氏の「週刊オブイェクト」や関連サイトのコメンター達の言説である場合が多いことにも気がついた。たとえばここなど、JSF氏のブログと「似た系統」どころか、「同じ系統」の場所らしいのだが、調べ直すまで気がつかなかった（＊注）。
さらにはアンチ「軍オタ」的な立場のブログなどでも、僕が「どっかで読んだことがある・・・」と記憶している白燐弾に関するコメントというのは、実はJSF氏当人が行なっているものだったりもして。白燐弾に限ってなのかどうかは知らないが（たぶん違うだろう）、JSF氏は実に様々なところに顔を出し、影響を及ぼしているようだ。そしてそのうちのいくつかが、僕の中に「複数の人物の言説」として印象付けられていた可能性も否めない。
そうしたことも含め、嫌いな言説をネタにしている時に、そのネタをよく調べ直すことをせず、記憶に頼って不正確な一般化をしてしまうという、悪い癖をやらかしてしまったこと、これは読んでくれている人に謝罪しなければと思う。
だが、JSF氏に対して謝罪するいわれはない。このことははっきり言っておかなければ、それこそ読者に申し訳がない。
ある特定の記事から受けた主観的な印象を、特定の「ある人」を批判するために用いたのではない。むしろそんなことをやりたくなかった（何しろ関心の外だ）からこそ、名指しや記事への直接の言及を避けたのである。わら人形を自分で作ってみて、「これにはどういう意味があるのだろう」と考えたかったのだけど、わら人形を作ったこと自体を、名指しもしていない誰かさんから抗議されるいわれはないのだ。
ではなぜ「謝罪」してしまったのかといえば、その当時の精神状況を含め、いろいろと複雑な経緯があって、一口には言えない。が、その中の一番肝心な部分は、上記の通り、よく調べもせずにいい加減な・ズルイ文章の書き方をしてしまった、というやましさをぼんやりと抱えていて、そこにもってきてJSF氏からの抗議のメールを読み、気持ちが一挙にグラグラとしてしまった、ということだと思う。まったく、自業自得である。
でも、それなら訂正なり、修正のエントリーを別個立てるなりすればいいので、削除することはなかったじゃないか、という意見もある。
確かに、本来はそうだろう。今までは自分自身そうしていた。今回は特に、そのエントリーにコメントをくれた人達に、自分の間違いに付き合わせてしまった、という罪悪感を強く持ったことが大きかったのだけれど、コメント部分だけ取り払ってもう一度アップし直すことだってできる。
ただ、実は、元のエントリーを書いたことについてわだかまっていた自分のやましさとは、ここまでに説明した話ばかりに起因するのではない。あのエントリーの問題は、「おぞましさ」の正体についての結論がそもそも怪しい、という点にもあるのだ。
２
自分は一体何に「おぞましさ」を感じたのか。
もう一度書くと、僕は当初それを「その兵器の残虐性を熟知しているくせに、禁止に向けて動く人々をあざ笑う」人々の心性、のようにまとめてしまった。しかしその誤りがわかった後でも、「おぞましさ」は消えない。「その兵器は残虐ではないから、禁止に向けて動く人々をあざ笑う」人々の心性、に変わればおぞましさは消えるかというと、これが消えないのである。
そのこと自体、後になってわかったというより、当初のエントリーを書きながらすでに感じていた。だから、その言わば「軍オタ」の論理と、一般の人々の冷淡さとを結びつけるようにして一旦結論をまとめておきながら、「うまく言えなくて腹が立つ」などと矛盾した言葉で締めくくっているのだ。
うまく言えないのは今でもそうなのだが、より正解に近いのはこういうことだと思う。
軍オタ連中が、ガザ侵攻の最中に「白燐弾」について論じているという、現実自体がまずかなりおぞましい。なるほど、イスラエル軍によるこの蛮行に関する話題の中で、彼らが胸を張って論難できるテーマの一つが、白燐弾に関する世間の「誤解」だった。それはいい。ある意味それは現実的な、実証主義的な立場からの真面目な反応だとも言えるだろう。
だが、それは極めて限定されたテーマの中の、つまり軍事的な諸問題における実証主義でしかないことも事実だ。軍事的合理性からある兵器の使用がどう説明されようと、その軍事発動に至る圧倒的な不正、「対テロ戦争」のロジックの圧倒的な不正をそれでもって覆い隠さんとする言説は──そうしている自覚があろうとなかろうと、それが単なる「示唆」にとどまっていようと──僕にとってはおぞましいのである。当たり前のことだけど、白燐弾が使われようと使われまいと、ガザの出来事は悲惨なのだし、白燐弾の使われていないその他の紛争地だって悲惨なのである。
そこで、このガザの白燐弾の件で、たとえばJSF氏の議論に純粋に軍事的な観点からのみ反論することに躍起になってしまうことがあるとしたら──自分にはそんな素養はないから免れているけれど、もしそれで氏を論破することができさえしたら、自分は満足だろうか？と想像してみる。
違う。何かが狂っている。何かが腐っている。議論は必要かも知れない。どんなテーマであっても、議論はする価値があるかも知れない。しかし今、自分が気にかけている人々が無残に死んで行く時、白燐弾がどうしたこうしたと言い合っていられる、この特権的な空間は何なんだ。彼らは死に、自分らは生きる、それが当たり前であり、誰も疑問を感じないこの空間とは──僕が直感したおぞましさというのは、そういうことに近かったのではないかと思う。こちら側にいて何を言おうと、当地で起こっている事柄に全く追いつけていない、そんな現実をまったく感じずにいられるこのインターネットという空間のおぞましさ。自分もその一部であるというおぞましさ。
念のため、僕はガザの白燐弾使用をどうでもいいと思っているわけではなくて、許すべからざる問題だという理解を一方では持っている。ただ、「おぞましさ」についての論旨とは関係ないので、ここでは語らない。
まとめると、つまり僕は二重のミスを犯していた。一つは、JSF氏らの主張を記憶に頼って不正確に一般化してしまったこと、二つには自分が感じたおぞましさの意味を見誤っていたこと、である。それで、JSF氏のメールによる反論を読んだ段階で、最初のミスの方に「やはりそうだったか」とうろたえるばかりか、二つ目の方の問題に対する自信のなさまで一挙に押し寄せてきて、反論しようとか手直ししようとかいう気概を失ってしまった。そしてエントリー削除に至った。
そこで「ちょっと待てよ」と踏みとどまれなかった自分の短絡を、情けなく思う。だが二つのミスを総合して考えると、あのエントリーをそのまま復活させるのは、それはそれで不適当であることも明らかだろう。今はこうして修正エントリーを立てたので、元のエントリーについてはブログ本体とは違う魚拓の方で閲覧してもらう、というこの状態をキープすればいいと思う。僕がとった魚拓ではないし、出たとこ任せな展開だが、結果オーライということで。
のっけから言うのもなんだが、「謝罪」したことを後悔している。「週刊オブィエクト」管理人JSF氏が、当ブログの「おぞましきもの〜ガザから始まるフラグメンツ・エクストラ� 廚砲弔い董∨佑�氏の記事の内容を捻じ曲げて引用し、論旨を設定した、すなわちそれは「わら人形論法」であると批判してきたことに対し、僕が当該エントリーの削除とメールによる「謝罪」という形でそれを認めた件である。
僕に誤りがなかったわけではない。誤りは何箇所もあった。結論から言うと、JSF氏が認識していない誤りすらあったのだが、それらすべてひっくるめて、JSF氏個人に対して謝罪するというのは、どうにも筋違いであった。僕のブログの読者に対して謝罪するのが正解であった、ということ。
その最も大きな根拠は、当然ながら僕がJSF氏に対する名指しを避けている、ということである（注：現時点ではすでに向こうから送られてきたTBを表示するなど、抗議を受けた相手を明らかにしてしまっているので、今さらここでは名指しを避けない）。名指しを避けた理由は、その文章の狙いが彼に対する論戦を挑むことではなく、彼の言説および似た系統の言説から、僕の中に感じられた「おぞましさ」の意味を考えることだったからだ。それは今ももちろん変わらず、この文章では謝罪を撤回する理由を解説するけれど、別にそれでもってJSF氏に「反論」を仕掛けるためではない。そんな欲求は元々ないし、今もない。
正直、僕は日常「おぞましい」と感じた言説などを、いちいちブックマークに入れたりしない。どこの誰が書いたものであるのか、それが著名な人物でない限りは、記憶しておこうという意志がまず働かない。週刊オブイェクトだのJSFだのの名前も記憶していなかったくらいなのだ（・・・なので、先方よりメールをもらっても、「週刊○○」という件名のスパムメールはよく来るから、その類だろうと思って危うくゴミ箱に捨てるところだった）。
調べ直そうと思えば調べ直せるのに、それを怠ってしまった。自分が書きたいことの主旨からすれば「必要ない」と思ったからなのだが、それがいけなかったと今は反省している。対象に対して批判的な内容であろうとそうでなかろうと、その怠慢は、結局は自分の書くものの質を貶めてしまう。それは、読者に対する怠慢ということである。
記憶に頼ってJSF氏の主張を見誤ってしまったことについて。
記事を書く上での主要な参照先、というよりほぼきっかけと言っていいものはJSF氏のガザ侵攻でイスラエル軍が白燐弾を使用という記事だが、この記事の中で僕が引っかかった主張は、以下の部分である。
「あの時（レイランダー注：ファルージャでの米軍による白燐弾使用をめぐって議論が盛んだった時）、あれだけ大騒ぎしていたのに、白燐弾について一過性で終わってしまいました。地雷やクラスター爆弾のように規制する動きはついぞ出て来ず、国際的にも国内的にも白燐弾騒動は急速に忘れ去られてしまっています。
これは白燐弾を非難していた反戦平和団体が、白燐弾の事を実態よりも遥かに強力な兵器として喧伝した結果「謎の超兵器」と化してしまい、その虚像が暴かれ、相手にされなくなった事によります。思えばあの時、常識的な範囲内での糾弾に徹していれば、白燐弾の規制は進んでいた筈でした。」
実際に反戦平和団体が白燐弾を「謎の超兵器」などと言っていたかどうかは別として（僕はまったく記憶がない）、彼のここでの主張は「白燐弾は煙幕弾に過ぎず、残虐な兵器ではない」ということを前提にしている。僕はその前提をよく読まず、「平和団体が虚像を作り上げたから規制が進まなくなった」というような、責任転嫁の物言いにカチンと来た、その印象だけを残してしまった。じゃあお前らは何をしてくれたんだよ？という。
さらに僕の失敗は、それまでに目にしたことのある、いわゆる「軍オタ」的な人々の言説を、これまたあいまいな記憶に頼って一緒くたにし、一人の人物の言説に結び付けてしまった、ということがある。
それらは実際には、それぞれ微妙に立場が違う（時期も話題にしている兵器も違う）複数の言説である。たとえば、白燐弾に限ってみても、「毒性が強い」「大した毒性ではない」「対人使用はまずい」「わざとじゃなければ仕方ない」「対人使用なんてそもそもありえない」等々、入り混じっている。確かにそこでは、思考の前提として軍事的合理性が優先されていて、その前提を共有できない「反戦平和主義者」は現実を知らないと揶揄する、というトーンにおいて共通している。しかしだからといって、僕の当初のエントリーのように、「その兵器の残虐性を熟知しているくせに、禁止に向けて動く人々をあざ笑う」という形で一本化してしまったのは、「白燐弾」という特定の兵器を例にしている以上、やはり的外れというか、少なくとも不正確だろう。
僕は言うなれば「架空のJSF氏」、JSF氏の言葉を借りれば「わら人形」を作り上げたのだが、問題はそれが「わら人形」であることではない。やりたかったことは、彼らの言説に通底するものを抽出して、自分の違和感の正体に接近することだったのだから、それが一種のわら人形になることは織り込み済みである。ただ、あまりにも出来の悪いわら人形であったことが問題なのだ。
ところで調べ直してみると、僕の記憶に残っていた白燐弾に関してのそれら複数の言説というのは、一つのブログなりサイトなりが論陣を張っていたというより、JSF氏の「週刊オブイェクト」や関連サイトのコメンター達の言説である場合が多いことにも気がついた。たとえばここなど、JSF氏のブログと「似た系統」どころか、「同じ系統」の場所らしいのだが、調べ直すまで気がつかなかった（＊注）。
さらにはアンチ「軍オタ」的な立場のブログなどでも、僕が「どっかで読んだことがある・・・」と記憶している白燐弾に関するコメントというのは、実はJSF氏当人が行なっているものだったりもして。白燐弾に限ってなのかどうかは知らないが（たぶん違うだろう）、JSF氏は実に様々なところに顔を出し、影響を及ぼしているようだ。そしてそのうちのいくつかが、僕の中に「複数の人物の言説」として印象付けられていた可能性も否めない。
そうしたことも含め、嫌いな言説をネタにしている時に、そのネタをよく調べ直すことをせず、記憶に頼って不正確な一般化をしてしまうという、悪い癖をやらかしてしまったこと、これは読んでくれている人に謝罪しなければと思う。
だが、JSF氏に対して謝罪するいわれはない。このことははっきり言っておかなければ、それこそ読者に申し訳がない。
ある特定の記事から受けた主観的な印象を、特定の「ある人」を批判するために用いたのではない。むしろそんなことをやりたくなかった（何しろ関心の外だ）からこそ、名指しや記事への直接の言及を避けたのである。わら人形を自分で作ってみて、「これにはどういう意味があるのだろう」と考えたかったのだけど、わら人形を作ったこと自体を、名指しもしていない誰かさんから抗議されるいわれはないのだ。
ではなぜ「謝罪」してしまったのかといえば、その当時の精神状況を含め、いろいろと複雑な経緯があって、一口には言えない。が、その中の一番肝心な部分は、上記の通り、よく調べもせずにいい加減な・ズルイ文章の書き方をしてしまった、というやましさをぼんやりと抱えていて、そこにもってきてJSF氏からの抗議のメールを読み、気持ちが一挙にグラグラとしてしまった、ということだと思う。まったく、自業自得である。
でも、それなら訂正なり、修正のエントリーを別個立てるなりすればいいので、削除することはなかったじゃないか、という意見もある。
確かに、本来はそうだろう。今までは自分自身そうしていた。今回は特に、そのエントリーにコメントをくれた人達に、自分の間違いに付き合わせてしまった、という罪悪感を強く持ったことが大きかったのだけれど、コメント部分だけ取り払ってもう一度アップし直すことだってできる。
ただ、実は、元のエントリーを書いたことについてわだかまっていた自分のやましさとは、ここまでに説明した話ばかりに起因するのではない。あのエントリーの問題は、「おぞましさ」の正体についての結論がそもそも怪しい、という点にもあるのだ。
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自分は一体何に「おぞましさ」を感じたのか。
もう一度書くと、僕は当初それを「その兵器の残虐性を熟知しているくせに、禁止に向けて動く人々をあざ笑う」人々の心性、のようにまとめてしまった。しかしその誤りがわかった後でも、「おぞましさ」は消えない。「その兵器は残虐ではないから、禁止に向けて動く人々をあざ笑う」人々の心性、に変わればおぞましさは消えるかというと、これが消えないのである。
そのこと自体、後になってわかったというより、当初のエントリーを書きながらすでに感じていた。だから、その言わば「軍オタ」の論理と、一般の人々の冷淡さとを結びつけるようにして一旦結論をまとめておきながら、「うまく言えなくて腹が立つ」などと矛盾した言葉で締めくくっているのだ。
うまく言えないのは今でもそうなのだが、より正解に近いのはこういうことだと思う。
軍オタ連中が、ガザ侵攻の最中に「白燐弾」について論じているという、現実自体がまずかなりおぞましい。なるほど、イスラエル軍によるこの蛮行に関する話題の中で、彼らが胸を張って論難できるテーマの一つが、白燐弾に関する世間の「誤解」だった。それはいい。ある意味それは現実的な、実証主義的な立場からの真面目な反応だとも言えるだろう。
だが、それは極めて限定されたテーマの中の、つまり軍事的な諸問題における実証主義でしかないことも事実だ。軍事的合理性からある兵器の使用がどう説明されようと、その軍事発動に至る圧倒的な不正、「対テロ戦争」のロジックの圧倒的な不正をそれでもって覆い隠さんとする言説は──そうしている自覚があろうとなかろうと、それが単なる「示唆」にとどまっていようと──僕にとってはおぞましいのである。当たり前のことだけど、白燐弾が使われようと使われまいと、ガザの出来事は悲惨なのだし、白燐弾の使われていないその他の紛争地だって悲惨なのである。
そこで、このガザの白燐弾の件で、たとえばJSF氏の議論に純粋に軍事的な観点からのみ反論することに躍起になってしまうことがあるとしたら──自分にはそんな素養はないから免れているけれど、もしそれで氏を論破することができさえしたら、自分は満足だろうか？と想像してみる。
違う。何かが狂っている。何かが腐っている。議論は必要かも知れない。どんなテーマであっても、議論はする価値があるかも知れない。しかし今、自分が気にかけている人々が無残に死んで行く時、白燐弾がどうしたこうしたと言い合っていられる、この特権的な空間は何なんだ。彼らは死に、自分らは生きる、それが当たり前であり、誰も疑問を感じないこの空間とは──僕が直感したおぞましさというのは、そういうことに近かったのではないかと思う。こちら側にいて何を言おうと、当地で起こっている事柄に全く追いつけていない、そんな現実をまったく感じずにいられるこのインターネットという空間のおぞましさ。自分もその一部であるというおぞましさ。
念のため、僕はガザの白燐弾使用をどうでもいいと思っているわけではなくて、許すべからざる問題だという理解を一方では持っている。ただ、「おぞましさ」についての論旨とは関係ないので、ここでは語らない。
まとめると、つまり僕は二重のミスを犯していた。一つは、JSF氏らの主張を記憶に頼って不正確に一般化してしまったこと、二つには自分が感じたおぞましさの意味を見誤っていたこと、である。それで、JSF氏のメールによる反論を読んだ段階で、最初のミスの方に「やはりそうだったか」とうろたえるばかりか、二つ目の方の問題に対する自信のなさまで一挙に押し寄せてきて、反論しようとか手直ししようとかいう気概を失ってしまった。そしてエントリー削除に至った。
そこで「ちょっと待てよ」と踏みとどまれなかった自分の短絡を、情けなく思う。だが二つのミスを総合して考えると、あのエントリーをそのまま復活させるのは、それはそれで不適当であることも明らかだろう。今はこうして修正エントリーを立てたので、元のエントリーについてはブログ本体とは違う魚拓の方で閲覧してもらう、というこの状態をキープすればいいと思う。僕がとった魚拓ではないし、出たとこ任せな展開だが、結果オーライということで。
（＊注）「週刊オブイェクト」のコメント欄におけるやりとりが大量に使われているから「同じ系統」と思うだけで、本当はいまだによくわからない。ただ、ページ最下部での以下のようなコメントが、僕が本文中で引用した「引っかかった部分」と重なるので。
「WPのような威力の殆どないものまで制限されるとなりますと，それより殺傷能力の大きい銃砲類まで制限しなければならなくなるでしょう．火縄銃すら使用不可．弓矢しか使えなくなるでしょうな（笑）．
そんな「制限条約」は，条約としての実効力を失わせるだけであり，本物のいわゆる「非人道兵器」を使用制限させる上で，かえって有害です．
結局，「白燐教徒」の正体は，「非武装中立論者」と同じ空想的平和主義者でしかありません．」