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社説

憲法記念日 いま生きる手だてとして(5月3日)

 日本国憲法が施行されてきょうで六十二年となる。

 前文はうたっている。

 「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」

 これは、憲法の柱として、第九条の戦争放棄と、第二五条の生存権、すなわち「平和」と「福祉」が一体の関係にあることを示している。

 だが「派遣切り」に象徴される貧困問題が顕在化し、生きる権利そのものが侵害されている。国際貢献を名目に自衛隊を海外に派遣しようとする動きもやまない。

 人として生き、平和を守る手段としてこの憲法を活用したい。

*深まる「生存の危機」

 東京都内で三月下旬、「反貧困フェスタ」という催しがあった。

 会場の都心の中学校には派遣切りにあった労働者や支援の労組、市民ら約千七百人が参加した。校庭では歌舞の披露や炊き出しもあり、職を失った人たちを励ました。

 底冷えのする体育館でのシンポジウムでは、口々に雇用の厳しさを訴える労働者に交じって、釧路出身の四十七歳の男性が立った。

 「派遣会社の面接を受け埼玉、群馬の工場で働いた。でも首を切られ生活保護を受けている。やり直したいけれど先が見えない」

 年末年始に東京・日比谷公園に開設された「年越し派遣村」には、突然、仕事と住まいを失い路上に放り出された労働者が集まった。

 この春、同様の取り組みが各地に広がった。相談会にやってくる労働者には北海道、東北、沖縄など格差拡大と経済危機の打撃の大きい地域の出身者が目立つ。

 憲法二五条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」としている。

 しかし派遣村の光景は国民の生存権が脅かされ、憲法の理念とかけ離れた現実を浮かび上がらせた。

 雇用、年金、医療、生活保護など社会保障制度の法的根拠はこの二五条にある。第二項は、社会福祉や社会保障の確立に向けた国の責務を明確に規定している。

 ところが日本社会のセーフティーネットは極めて不十分である。

 労働者派遣制度は、企業が簡単に労働者の首を切れる雇用調整弁であることがはっきりした。厚生労働省は六月末までに二十万人余の非正規労働者が職を失うとみる。

 国民の安心を保障し、生き生きとした暮らしを実現することこそ、憲法が政府に課した仕事である。それをないがしろにした政治には、政策を語る資格があるだろうか。

*貧困の連鎖断たねば

 派遣切りの問題は働く人の三分の一を占める非正規にとどまらず、リストラや雇用条件の切り下げとなって正社員にも跳ね返ってくる。

 最終的なセーフティーネットである生活保護の受給者は百六十三万人(厚労省調べ)に上るが、制度から漏れた生活困窮者は六百万−八百五十万人にも達するとみられる。

 生活困窮者の増大は子供の世代にも及び、社会の劣化を招く悪循環に陥ろうとしている。

 市場万能、競争至上の新自由主義経済は格差を拡大して破綻(はたん)し、潜在化していた貧困問題が昨年秋の経済危機で一気に噴き出した。

 経済協力開発機構(OECD)の調査では、所得分布の中央値の半分に満たない人々の割合(相対的貧困率)は、先進国のなかで日本が米国に次いで高い。憲法が掲げた平和・福祉国家からほど遠い。

 貧困にむしばまれた社会を憲法の理念に沿って立て直すときだ。

 派遣村は多くの労組や市民ボランティアが支え、その訴えが国会や官公庁を動かした。国民が憲法の生きる権利を求めたと理解したい。政府はその重みを受け止めるべきだ。

*国民の意思問われる

 国会ではソマリア沖の海賊対策を理由に自衛隊海外派遣を随時可能にする海賊対処法案の審議が進む。

 成立すれば政府の一存で自衛隊を海外に送り出せるようになり、海外派遣恒久法に道を開く。

 イラクへの自衛隊派遣からの一連の流れは、憲法が禁じた海外での武力行使や集団的自衛権の容認にまでつながる恐れがある。

 もう一度、立ち止まってよく考えたい。ソマリアは軍事政権が崩壊し無政府状態にある。数百万人が国連などの食料援助に依存し、国内外に難民があふれている。

 こうした現状を直視すれば、息の長い民生支援を通じ、国家の再建を図るほかないだろう。海賊対策は沿岸警備の問題であり、日本は教育や福祉支援などの地道な貧困対策で現地の人々を勇気づけたい。

 それが「戦争放棄」を掲げた憲法九条の力を世界に広げ、日本の国際貢献の実をあげる道だ。

 国民投票法によって二〇一〇年に改憲の発議が可能となる。秋までに行われる総選挙は、憲法の平和・福祉の理念を生かすために、有権者が意思表示する絶好の機会である。

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