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【償いの日々 奈良少年刑務所】刑罰と再犯防止教育を柱に

4月30日15時20分配信 産経新聞

 少年刑務所−。原則として16歳以上、26歳未満の受刑者を収容する。少年といいながらも受刑者に成人を含むのは、若年でより更生の可能性が高いケースを考えた上の制度なのだという。全国に7カ所の少年刑務所がある。

 少年の更生に効果を発揮する少年院を15回にわたってルポしてきた。今回、番外編として、殺人などで成人と同じ裁判を受け、実刑となった少年が収容される少年刑務所を取材した。

 より厳しい環境での“償いの日々”を送る受刑者。西日本の基幹施設としてさまざまな矯正教育に取り組む奈良少年刑務所(奈良市)で見つめた。

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 「気をつけ」。刑務官の声が響く。「ちゃんとやらんか。やりなおし」。ほほに幼さの残る受刑者が素直に指示に従う。

 刑罰を与えることを目的とする刑務所では、管理もおのずと厳格だ。

 少年院と比べれば厳しいと感じるが、奈良少年刑務所の雰囲気は優しい方だという。

 井上宗也前庶務課長は「うちは全国でもレベルが高い。問題の多い受刑者が多いところでは、はるかに厳しい規則が必要」と話す。

 少年刑務所の特色は当然、20歳未満の少年受刑者がいることだ。しかし、平成19年末、奈良少年刑務所が収容する未成年の受刑者は9人。全受刑者の約1%。全少年刑務所をあわせても30人でしかない。

 少年受刑者には、成人とは別の少年教育プログラムが設けられている。入所してから3年間は個別担任2人がつき、単独室で生活する。保護者との関係回復を重視し、贖(しょく)罪教育が中心となる。

 法務省の統計では、少年が起こした殺人などの凶悪犯罪は減少傾向にある。半面、社会の注目を集める事件の加害者が少年のケースも少なくない。無関係な人を巻き込んだり、内容の残虐さなどで、世間に不安を与える犯罪もある。

 児童5人が死傷した神戸連続児童殺傷事件(平成9年)を契機に、当時の少年法に疑問の声が上がり始めた。

 同13年に少年法が改正され、殺人などの凶悪犯罪は原則として、検察官送致(逆送)され、成人と同じ裁判を受けるようになった。同19年は殺人罪で10人、強盗・傷害致死罪で21人、危険運転致死罪で1人が逆送された。

 一方、少年刑務所の受刑者は、出所時の年齢が20〜30歳代という場合が多い。例えば奈良少年刑務所の受刑者の平均年齢は24歳。平均刑期は4年2カ月。多くの受刑者が30歳前後で社会に戻る。

 出所しても仕事がなく将来を悲観し、罪を重ねるようでは厳罰化の効果は薄らいでしまう。被害者感情を考慮し、刑罰をきちんと科したその上で、再犯防止の教育を行わねばならない。

 奈良少年刑務所は設立以来、矯正教育を重視し、全国のモデルケースとして、さまざまな取り組みを行ってきた。

 明治41年に完成した施設は、効率よく受刑者を監視するため、収容施設が放射状に広がっている。建築家が視察に訪れることもある美しい造形は明治の五大監獄に数えられた。

 当初は奈良監獄と呼ばれたが昭和21年に奈良少年刑務所に改称された。井上前課長は「改称を契機として、矯正教育に進歩的な取り組みを行ってきた」という。

 ここは日本で唯一、「暴力回避教育プログラム・社会性涵養(かんよう)プログラム」と呼ばれる教育を導入している。家庭内暴力の経験者に怒りへの対処法を教え、社会常識や対人関係の未熟な受刑者に社会生活に適応するための訓練を行う。

 平田利治所長は、「こういった改善指導を適用する受刑者は所内で10%以下。だが、彼らをきちんと教育すれば、所内の雰囲気は格段によくなる」。

 社会の安全を守るには、罪を重くするだけでは足りない。出所者の再犯をいかに防ぐかが、これからの刑務所に求められている大きな課題だ。(写真報道局 土井繁孝)

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最終更新:4月30日15時42分

産経新聞

 

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