2007年11月28日

勇気を持って発言「原子力は安全です」

先日、四国電力伊方原子力発電所で安全管理の講演を行ないました。原子力発電所に対する安全管理の研修は、東京電力福島第二原子力発電所に続いて2回目です。

今日は誤解を恐れず、勇気を持って「原子力発電所は安全である」ということを書かせて頂きます。

日本人は原子力発電の安全性に関して敏感であるのは当然です。その理由はいくつかあります。
ア)広島、長崎に原子爆弾が落とされたこと。
イ)東海村のJOCの臨界事故で死亡者がでたこと。
ウ)不朽の名作映画「ゴジラ」シリーズの記憶が残っていること。

敏感というよりアレルギーがあると言っても良いでしょう。原子力への不安感は日本人として当然の感情です。そのことを否定するつもりは毛頭ございません。
それでも、です。いや、それだからこそ不安にさせる原子力について、日本人は「知る」必要があると私は考えますが、残念ながらほとんどの日本人は原子力の安全性に関して全く「無知」と言ってもよいと思います。ハッキリ申し上げて「勉強不足」であり、その無知さを何者かに利用されていると言っても過言ではありません。

私は東京ディズニーランドのスペース・マウンテンやビッグサンダー・マウンテンの安全管理の責任者として長く働いてきました。ジェットコースターの安全を保障する制御方法は知り尽くしています。この経験から原子力発電所を制御(正しく動作するよう調整すること)する責任者と話をしても、話しについていくことができます。つまり、原子力発電所の安全性を正しく理解できるということです。

今回の研修では、所長はじめ安全の品質管理の責任者と長時間に渡り安全管理について議論もしてきました。当初から私は「原子力発電は安全である」という論者ですが、再度安全性について確認できたことにより、「自信が確信に変わった(松坂選手の台詞)」ということができます。

原子力発電に関して「無知」のままではいたくないという方は四国電力のホームページをご覧ください.

http://www.yonden.co.jp/atom/more/page_01a.html

それでも読んだ方はきっとよく分からないでしょう。なぜならば四国電力に限らず東京電力や原子力発電関連の財団法人など、全ての関係機関の原子力に関する説明はあまりにも「下手(へた)」であるからです。安全管理の専門家である私が読んでも正直よく分かりませんでした。

私は今回、疑問点を現場の責任者に質し、さらに作業現場やモックアップ(模型)を見ることにより初めて、原子力発電所の安全性はディズニー・テーマパークのジェットコースタータイプのアトラクション同様に最高レベルであると判断したものであり、皆さんも電力会社や機構による説明だけでは到底納得できないことでしょう。

その理由です。

ア)そもそも原子力発電所の仕事とは何かがホームページなどで明確に説明されていない。

原子力発電所の仕事は電力を生み出すことですが、仕事の中身が見えないということです。

原子力発電所の仕事を簡単に言えば「鉱物から作ったウラン燃料に人工的に中性子をぶつけることにより燃料を分裂させ燃焼させる。ウランが分裂、燃焼する際に発生した熱で水を蒸気に変えタービンを回し発電する」ということです。
運転開始は、火力発電であれば燃料の石油に火を着けることですが、原子力発電であれば燃料のウランに中性子をぶつけるということです。

そして、原子力発電における安定運転とは「適度にウランの分裂が継続すること(臨界)」なのです。つまり、人による操作で臨界状態(燃焼)をつくり出し、人による操作で臨界状態を維持し続けることが発電所の仕事の中身ということなのです。

不安解消のためにさらに説明しますと、臨界状態が発生しているのは燃料棒(太目の金属性ボールペンをイメージしてください)の中に詰められた燃料ウランペレット(高さ1cmの腕時計用電池をイメージしてください)の中です。ですから燃料のウランや分裂により発生したプルトニウムなどの放射性物質はこのペレットの中から外には出ません。

ペレット外に飛び出すのは中性子線という放射線だけです。中性子線(物を通り抜ける力はレントゲンで使う放射線であるX線より上)は水や厚いコンクリートなどでストップさせることができるため、この放射線も炉心から出ることはありません。

厳密に言えばラジウム温泉の入浴もレントゲン撮影も放射線被ばくですが、日本人はこのこと(軽微な被ばくは健康上問題ない)を理解していないことに合わせ、このような「燃焼管理の仕組み」に対する関係者の説明が不足しているため、原子力発電所のトラブル = 放射能漏れ = 健康被害 と単純に結びつけてしまうのです。

原子力発電所の仕事は、ウランを燃料としたボイラーの燃焼管理にほかなりません。核分裂による熱の発生は小さなペレットの中だけで生じるものであり、理論的に最悪の状態「炉心の溶解」など起こりようが無いのです。ご理解いただけたでしょうか。


イ)トラブルをレベル別に整理して説明されていない。
アメリカのテロの警戒レベルがレベル3からレベル4に引き上げられたというようなニュースを耳にすることがあります。

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何となく状況をイメージできるかもしれません。ディズニーランドのスーパーバイザーを経験すると、このレベル2、3発令時における実際の行動までイメージできるようになります。理由は簡単です。ディズニーランドでも同様な対応を行うからです。

地震・火災・雷・停電・光化学スモッグなど、想定されるすべての非常事態に的確に対応できるマニュアルがあります。そこには「レベル1」発令時から「レベル5」発令時まで、パーク内外すべての施設が行う対応方法の詳細が記載されています。地震によって舞浜地区全体の交通手段が完全に断たれ、「孤島」状態に陥った場合、何万人ものゲストをどのようにコントロールするか。水は、食料は…そこまで想定しているのです。

このマニュアルに基づき、各施設ではポジションごとの対応方法が設定されています。例えば火災の場合、レジのキャストが初期消火係、入口のキャストが避難誘導係、ストックのキャストが通報係というように、役割分担が明確に決まっています。

その上で各施設ごとに第三者が立ち会う防災訓練が実施されます。マニュアルがあってもできなければ何もなりません。通常のトレーニングと同様、できるようになるまで訓練するのです。さらに、パークとして非常事態に対応するためには、しっかりとした指揮命令系統の構築が重要であることは言うまでもありません。
(拙書より)
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私が原子力発電所の広報担当ならディズニーランド同様に「レベル別トラブル状態と安全装置の作動」に整理して安全性を説明することでしょう。

中越沖地震の際、屋外の変電所から火災が発生しましたが、あのようなトラブルは「レベル1」であり、「レベル5」状態の外部への大量の放射能漏れなどと異なり、住民の安全に関わるものではありません。
報道も「想定されているレベル1のトラブルであり、安全上の問題ではない」とすれば誰もが安心したことでしょう。

このように、原子力発電所の仕事の本質とトラブルのレベル分けをもっともっとやさしく、そして詳しく説明すれば、一部の地域住民や国民の妄想的な原発不信は解消するものと私は考えます。

地球温暖化防止のためには、原子力エネルギーの活用が必要不可欠であり、今後も原子力発電の重要性と安全性に関してはこのブログに書いていく所存です。