熊本県本渡(ほんど)市(現天草市)で02年、同市立小2年の男児(当時8歳)が、男性臨時教員から体罰を受けて心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したとして、市に約350万円の賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(近藤崇晴裁判長)は28日、教員の行為を体罰と認め賠償を命じた1、2審判決を破棄し、原告側の請求を棄却する逆転判決を言い渡した。小法廷は「許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなく、体罰に当たらない」と述べた。
教員の行為が、学校教育法で禁じる体罰に当たるかどうかが争われた民事訴訟で初めての最高裁判決。「目的、態様、継続時間等から判断する」と一定の基準を示しており、教育現場に影響を与えそうだ。
判決などによると、教員は02年11月26日、休み時間に自分のおしり付近を2度けって逃げようとした男児の洋服の胸元を右手でつかんで体を壁に押し当て、大声で「もう、すんなよ」と怒った。
1、2審判決はいずれも「教育的指導の範囲を逸脱している」と認定したが、小法廷は「悪ふざけしないよう指導するためで、罰として肉体的苦痛を与えるためではない」と目的の妥当性を指摘。さらに時間にして数秒の出来事だったことも踏まえ「やや穏当を欠くが、違法とは言えない」と結論付けた。5人の裁判官全員一致の判決。
上告審で、市側は「必要に応じて生徒に一定の限度内で有形力(目に見える物理的な力)を行使することが許されなければ、教育は硬直化する」と主張。原告側は「肩に手を置き向き合って説諭するなどほかに適切な行為を取ることができた」と反論していた。
1審・熊本地裁は07年6月、体罰とPTSDの因果関係を認めて約65万円の支払いを命じ、2審・福岡高裁は08年2月、PTSD発症は認めず賠償額を約21万円に減額していた。【銭場裕司】
学校教育法11条で「教育上必要があると認める時は懲戒を加えることができる。ただし体罰を加えることはできない」と規定されている。体罰が疑われるとして学校が調査した件数は04年度に883件あった。文部科学省は07年2月、体罰に関する考え方を初めてまとめ全国に通知した。「殴る、ける、長時間直立させるなど肉体的苦痛を与える懲戒は体罰」と明示する一方「体罰に当たるかどうかは、生徒・児童や保護者の主観ではなく、行為が行われた場所的、時間的環境、態様等の諸条件を客観的に考慮して判断される」とし、有形力行使が許される可能性にも言及している。
毎日新聞 2009年4月28日 11時37分(最終更新 4月28日 13時27分)