豚インフルエンザの人間への感染とみられる事例が発生したことで、厚生労働省や農林水産省などは対応に追われた。【清水健二、奥山智己】
25日に会見した厚労省の難波吉雄・新型インフルエンザ対策推進室長は「正しい情報に基づいた冷静な対応をお願いしたい」と呼び掛けた。全国の検疫所に対しては、多数の死者が出ているメキシコからの入国者についてサーモグラフィー検査などで健康状態のチェックを徹底するよう要請したことを明らかにした。
検疫所でインフルエンザ感染が確認されればウイルスの型を確定させる検査に入る。来週には、数時間以内に確定できる態勢を国立感染症研究所に整えるとしている。
米国やメキシコへの出国者には、マスク着用や手洗い、うがいの励行などを求める文書を空港で配布する。外務省のホームページでも海外渡航者向けの注意喚起を始めた。
政府の新型インフルエンザ対策行動計画によると、海外で新型インフルエンザ発生の疑いが生じれば世界保健機関(WHO)の宣言がない段階でも、関係閣僚会議を開いて行動計画に基づく「第1段階(海外発生期)」の態勢を取る。その際、発生国から航空機の到着は成田▽関西▽中部▽福岡--の4空港、客船は横浜▽神戸▽関門--の3港に集約され、発症が疑われる入国者は隔離される。発生国からの外国人来日はビザ発給が制限され、発生国への出国についても渡航延期の勧告が出される。
ただし、今回のケースで検出されているウイルスは従来あるH1N1型で、警戒されている鳥インフルエンザ(H5N1型)とは異なる。厚労省の担当者は「H1N1でも感染力や毒性が非常に強ければ新型インフルエンザと定義されるが、まだ判別がつかない」と話している。
一方、農水省は24日夜、動物検疫所に対し、家畜用の豚の輸入時に熱やせきなどインフルエンザの症状が見られたら精密検査するよう指示した。
農水省によると、豚インフルエンザは通常弱毒タイプなので、豚がかかっても1週間程度で自然に治り影響はほとんどない。このため家畜伝染病予防法の監視対象外で、国内でのこれまでの発症状況は不明だ。感染した豚が輸入されても殺処分を命令できない。
24日時点で家畜用の豚の輸入はないが、08年、米国から品種改良のため約160頭が輸入された。メキシコからは過去4年間は輸入がないという。
メキシコでの豚インフルエンザの感染者拡大で、人から人への感染力を持つ新たなウイルスに変異している可能性が出てきた。新型インフルエンザの脅威が高まる中、ウイルスの特徴や必要な対応を専門家に聞いた。
今回のウイルスは、H1N1型。現在も冬に流行するAソ連型と同じ型だ。このため、世界中の人がこの型のウイルスに対して免疫を持つ。この点が人が免疫を持たない型(H5N1型)の鳥インフルエンザとは異なる。またH1型のウイルスは、強毒性のH5型に比べ毒性が低い。喜田宏・北海道大教授(ウイルス学)は「Aソ連型によって、ある程度免疫を持つ人は多い。豚インフルエンザだけではなく、他の型のインフルエンザウイルスや細菌などとの同時感染だった可能性もある」と話す。
一方、死亡率の高さから大槻公一・京都産業大鳥インフルエンザ研究センター長(獣医微生物学)は「従来の豚インフルエンザの範ちゅうを超えており、これまでにないウイルスになっている可能性がある。H5N1型に限らず、別の型でも鳥から豚に感染し新型インフルエンザとなって感染が広がる可能性がある」と話す。田代真人・国立感染症研究所ウイルス第3部長は「人と豚のインフルエンザでは重症度や感染力が異なり、感染拡大の可能性はある」と警戒を求める。【関東晋慈、江口一、永山悦子】
厚生労働省は25日午後4時、メキシコや米国から帰国した人などの問い合わせに応じる電話相談窓口を設置する。同日は午後9時まで、26日は午前9時~午後9時。27日以降は未定。10回線で対応する。電話は03・3501・9031。
毎日新聞 2009年4月25日 東京夕刊