解体が決まっているダイビル=大阪市北区、諫山卓弥撮影「大大阪」の店内に立つ中谷ノボルさん=大阪市北区、諫山卓弥撮影
同ビルで薬局を経営する松本国照さん(77)は、昭和初期に創業した父の代からダイビルと共に歩んできた。「ドイツやイギリスの領事館も入り、大阪が日本の中心で大きな力を持っていた」と振り返る。「父も私もここで働くことは誇りだった。テナントが少しずつ減り、ほんまになくなってしまうんやな。めっちゃさみしい」と残念がる。
ダイビルは、早ければこの秋にも解体され、地上26階建ての超高層ビルに生まれ変わる予定だ。建物内外の彫刻などを保存できないか、調査中だという。
中谷さんは解体について「ダイビルは最後まで愛されて大往生の幸せな人生やった」と前向きにとらえる。「大大阪のころは最新のモノと情報が集まり、皆が前しか向いていなかった時代。一方、モノが成熟した現代の大阪は今ある古いものも大切にするという心に厚みが出てきた。これからの大阪も変わらず元気だと信じています」
中谷さんの事務所の入居契約は8月末まで。今後、ダイビルから移転するが、もう喫茶店を開く予定はない。11日は常連客の一人ひとりとゆっくり過ごし、幕を閉じるつもりだ。(野上英文)
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〈ダイビルと大大阪〉 大阪商船(現・商船三井)などの出資会社が1925(大正14)年、大阪・中之島に建てた地上8階地下1階の鉄筋コンクリート造りのビル。れんが張りの外観や建物内外の意匠から近代建築として名高い。同年、大阪市の人口は市域拡大で211万人に達し、東京市を抜いて日本一となり、「大大阪」と呼ばれた。このころから昭和初期にかけて、中之島に中央公会堂が建設されたり、梅田―心斎橋間の地下鉄が開通したりして近代化が進んだ。