「とにかくカネがほしかった」。8日、元幹部が約5万人分の顧客情報を名簿業者に売却したことを発表した三菱UFJ証券(東京・丸の内)。東京証券取引所(兜町)で会見した前田孝治常務らは深々と頭を下げて謝罪し、管理体制の甘さを露呈させた。一方、同社のほぼ全顧客に相当する約149万件の情報を持ち出した手口は幹部の立場を悪用したもので、動機についても「消費者金融への借金返済」と、有名企業の社員らしからぬ説明をしているという。
[フォト]険しい表情で記者会見する三菱UFJ証券の前田孝治常務ら
同社の説明によると、顧客情報を持ち出した元部長代理(44)は、システム会社2社を経て、平成2年に三菱UFJ証券の前身だった旧ユニバーサル証券に入社。システム畑でキャリアを積み、社員のコンピュータープログラミングを指導する立場まで出世した。
顧客情報を持ち出した手口は中堅幹部の立場を悪用したものだった。同社では、顧客情報にアクセスできるのは元部長代理を含む8人だけ。「通常、CDやフロッピーディスクなど記録媒体を使っての情報の持ち出しはできない」(同社)という。
だが、指導役の元部長代理は、社員が顧客情報を取り扱っている場合、自身も情報を自由に引き出すことが可能だった。元部長代理は、抜き出した顧客情報を社内サーバーに一時的に保存。定期的なマーケティング業務に紛れ込ませる形で、オペレーターを使ってCDに記録させ、持ち帰っていたという。
オペレーターには、「通常の業務に加え、1つ余分に処理するファイルがある」などと巧妙なうその指示を出していたといい、自宅へ持ち帰った顧客情報入りのCDは翌日に返却していた。
持ち出した顧客情報について、名簿業者に持ち込む際には「株式投資者のリストだ」などと売り込み、三菱UFJ証券の名を出すことはなかった。
ただ、“システム畑”一筋に歩んできた元部長代理は、個人情報の価値については疎かったようだ。
持ち込み先の名簿業者から「新しい情報の方が価値が高い」と知らされ、約149万人分の中から、比較的新しい昨年10月以降に口座を開設した顧客を抽出。しかし、名簿業者3社に売った約5万人分の顧客情報の“報酬”はわずか約33万円にすぎなかった。
この売却益は「飲食などで膨らんだ消費者金融への借金返済に充てられた」(同社)という。借金額は不明だが、業界関係者は「業績連動の営業部門に比べ、元部長代理のいたシステム部門は給料もそれほど高くない。派手な営業部門の同僚をみて、背伸びしたのかもしれない」と話した。
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