「(湖東医療圏は)県内で最も受け入れ態勢が整っていない。やめた方がいい」。湖南地域の総合病院で受診していた30歳代後半の初産を控えた女性が彦根市での里帰り出産を医師に相談したところ、こんな助言を受けた。彦根市立病院は02年に移転新築したばかりだ。女性は「なぜ、そんなに評判が悪いの」と耳を疑った。
市立病院では、3人いた産婦人科医が1人になった07年4月から分娩(ぶんべん)を休止。昨年2月、県内初の院内助産所を開設し、2人目以上のお産で通常分娩が可能なケースに限って出産に対応することにした。医師1人と助産師16人の体制だ。その後、県から医師2人を派遣してもらい、常勤医師1、非常勤医師2人になったものの、医師による分娩は休止のままだ。
同病院では、常勤医師1人の神経内科が06年9月から、非常勤医師1人の心療内科が07年7月から、それぞれ予約患者のみを診療。常勤医師5人と非常勤医師2人の整形外科は昨年1月から、紹介状持参の初診患者と過去5年以内に受診した再診患者に限って診療し、常勤医師2人の歯科口腔(こうくう)外科は紹介状持参か院内他科からの紹介に限定して医療を施している。18科中5科が何らかの診療制限をしている状態だ。
歯科口腔外科で紹介状がないことを理由に診療を断られた男性は「診療制限は根拠がない」などとして、病院と市長を相手に訴訟を起こしている。
患者も減った。03年度には延べ患者数が入院14万3823人、外来33万9730人だったのが、07年度は入院13万4815人、外来28万6592人に減った。470床ある病床の利用率も、03年度の89%が07年度には78%になった。収支も、03年度は9億3690万円だった赤字が07年度には12億2000万円に拡大し、累積赤字は約85億円に膨らんだ。
病院は一定基準の高度医療を有すると認められる「日本医療機能評価機構」の認定を受けるなど特色作りと、市民に必要な医療供給体制の持続、3年後の赤字体質脱却を目指す改革プランを作成したが、前途は不透明だ。
■彦根市民の声
◆城町2、無職、門脇信雄さん(61)
開業医の紹介状がないと受診できない市立病院では心もとない。市民は仕方なく他の医療機関にかかり、市立病院の患者は減る一方と聞く。こんな状況が続けば、赤字は増え、市民の負担はかさむばかり。根本的な立て直しが急務だ。
◆日夏町、主婦、成宮聡子さん(34)
ばく大な投資をして改築した市立病院で5科も診療制限とは信じられない。「医師不足だから仕方がない」と言うだけでなく、医師や看護師を確保し、患者や医師にも魅力ある病院にしてほしい。
◆大藪町、蒔絵師、舟越丈二さん(38)
市立病院は設備は一流だが、使いこなせる医師がいないとよく聞く。他の行政サービスの低下に市民が我慢できるのなら、予算をもっと病院に回し、志のある医者を集めてはどうか。
毎日新聞 2009年4月16日 地方版