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奈良・田原本町の放火殺人:調書漏えい公判 プライバシーか、表現の自由か あす判決

 ◇情報提供者のみ立件 取材源秘匿で論議--あす地裁判決

 奈良県田原本町の母子3人放火殺人事件を題材にした単行本を巡る供述調書漏えい事件で秘密漏示罪に問われた精神科医、崎浜盛三被告(51)の判決が15日午後、奈良地裁(石川恭司裁判長)で言い渡される。フリージャーナリスト、草薙厚子さん(44)の「僕はパパを殺すことに決めた」(講談社)出版に端を発した事件は、表現の自由や取材源の秘匿などについて議論を巻き起こした。判決前に、事件の経緯や裁判の意味をまとめた。【高瀬浩平、大森治幸】

 最高裁によると、秘密漏示罪での判決言い渡しは記録が確認できる78年以降では初。事件は筆者の刑事責任は問わず、情報提供者だけを逮捕、起訴する展開となった。公判で弁護側は草薙さんに調書などを見せたのは「広汎性発達障害を世間に正しく理解してもらうため」と無罪を主張。検察側は「長男や父親のプライバシーを侵害し少年法の精神を根底から破壊した」として、秘密漏示罪では最も重い懲役6月を求刑。憲法が保障する表現の自由とプライバシー保護との間で、激しい綱引きが繰り広げられた。

 「取材源の秘匿」というジャーナリズムの原則も問われた。09年1月の第5回公判で証人として出廷した草薙さんは「情報源は崎浜先生です」と初めて明かした。崎浜被告が調書を見せたことの正当性を主張するためと説明したが「公権力に対し情報源を秘匿する責務があった」「無罪を勝ち取ることが情報源を守ることにつながる」など賛否両論が起きた。

 出版までの過程で講談社内部のチェック機能が働かなかったことも明らかになった。事件を受けて同社は奥平康弘・東大名誉教授(憲法)を委員長とする第三者調査委員会を設置。08年4月にまとめた報告書では「刊行の問題点をチェックするはっきりとした役割分担がなかった。問題認識の甘さと無自覚さが公権力の介入を招いた」と厳しく批判した。

 今回の事件が表現の自由に与える影響について鈴木秀美・大阪大法科大学院教授(憲法)は「有罪となれば情報提供者に萎縮(いしゅく)効果が出る。国民に知らせるべき情報と、国が隠したがる情報があり、その境界線上にある有益な情報が出なくなる可能性がある」と懸念する。

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 ■ことば

 ◇供述調書漏えい事件

 06年6月に奈良県田原本町の医師宅で母子3人が死亡した放火殺人事件を巡り、当時高校1年の長男(19)=殺人などの非行内容で中等少年院送致=の供述調書を大量に引用した単行本「僕はパパを殺すことに決めた」を講談社が07年5月に出版。長男の精神鑑定をした崎浜盛三被告(51)が、著者の草薙厚子さん(44)に供述調書の写しなどを見せたとして、刑法の秘密漏示罪で奈良地検に逮捕、起訴された。草薙さんは容疑不十分で不起訴となった。

毎日新聞 2009年4月14日 東京朝刊

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