事件・事故・裁判

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

貨物機炎上:機体弾み真っ二つ、成田で初の犠牲者

着陸に失敗し大破した貨物機フェデックス80便=成田空港で2009年3月23日午前8時55分、本社ヘリから丸山博撮影
着陸に失敗し大破した貨物機フェデックス80便=成田空港で2009年3月23日午前8時55分、本社ヘリから丸山博撮影

 強風を受けたジェット機が滑走路で弾んでひっくり返り、炎に包まれた。23日朝、開港31年目の成田国際空港で、航空機事故による初の犠牲者が出た。二つに折れ、真っ黒焦げになった機体が炎の激しさを物語る。「見たこともない光景だった」。事故を目の当たりにした人たちは、言葉を失った。【倉田陶子、中川聡子、柳澤一男】

 事故機は滑走路から100メートルほど離れた芝生上で横転。黒焦げになった機体は中央部で折れ、ジェット燃料とゴムの焼けたようなにおいが立ちこめた。

 「炎と煙が巻き上がり、何が起きたのか分からなかった」。成田空港第1旅客ターミナルビル4階の中華料理店「翠鳳(すいほう)」の中村亮介店長(26)は午前6時55分ごろ、開店準備のため出勤した。目の前のA滑走路から炎が立ち上り、黒い煙に包まれていた。

 すぐに消防車が続々と駆け付け、慌ただしく消火活動を始めた。しばらくすると煙の間から航空機の機体らしきものが見えたという。「これまでに見たことのない光景。あぜんとした」

 1時間近くたって滑走路を見ると、黒く焼け焦げた事故機が目に入った。中村店長は「びっくりを通り越した驚き。こんなに近くで航空機事故が起こるなんて。本当に怖かった」と声を震わせた。

 ◇乗客にいらだち 搭乗手続き中止で

 A滑走路閉鎖に伴い出発のめどが立たなくなった一部の航空会社は搭乗手続きを中止。旅客ターミナルビルの出発ロビーは、海外出張するビジネスマンや春休みの海外旅行客らでごった返した。

 同僚2人とシンガポールへ出張する東京都内のコンピューター会社員、高橋洋平さん(28)は、「明日から仕事で、今日中に着かないと困る。朝8時からずっと搭乗手続きを待っているが、何の説明もない」と疲れた様子で話した。

 福岡県の筑豊青少年交響楽団は、ニューヨーク公演のため出発予定だった27人が成田で足止めに。伊藤政晴団長(59)は「福岡から成田に来る便も30分ほど遅れた。24日にブロードウェーで公演するのに、いつ出発できるのか」と、バイオリンなどの楽器を抱えて不安そうに話した。

 チェックインカウンター前では、「搭乗手続き一時中断」と書かれた案内板の前で、航空会社の地上職員に説明を求める旅客の姿も見られた。全日空やルフトハンザドイツ航空は「搭乗手続き開始は40分後を予定しています」と館内放送したが、予定の時間に手続きは始まらず、乗客たちがいら立ちを募らせていた。

 出張でロンドンへ向かう男性会社員(38)は「会議の予定があってどうしても今日中に行きたい」と焦り気味に話した。ニューヨークから一時帰国していた家族を見送りに来た女性(60)は「3歳の孫が待ち疲れてしまって心配だ」と孫をあやしながら話した。【倉田陶子、中川聡子】

 ◇強風による飛行機事故、過去にも

 過去にも強風の影響とみられる事故が起きている。

 99年8月には、今回と同型機の中華航空機が、香港国際空港に着陸しようとして逆さまにひっくり返り炎上、3人が死亡した。香港はこの日、台風の影響で激しい雨が降り、強風警報が出ていた。

 国内では93年4月には岩手県の花巻空港で強風にあおられた日本エアシステム機(当時)が着陸に失敗、炎上し、58人の重軽傷者を出した。同機は横風の中、着陸を強行し、あおられた右主翼が接地したまま着陸し、機体は数回バウンドして停止した。事故直前に風速が瞬時に急減したり、風向きが急変する「ウインドシア」現象が起きていたことが分かっている。

 このほかにも84年4月に日本アジア航空機(当時)が那覇空港で、90年3月にキャセイパシフィック航空機が成田空港でウインドシアーが原因で着陸に失敗している。【長野宏美】

 ◇風向きの変化か、横転多い機種 飛行記録で解明を…専門家ら

 今回の事故について専門家らに聞いた。

 ▽航空評論家の浜田一穂さんの話 映像で見る範囲では、接地直前に急に風の様子が変わり、それに対処しきれずにパイロットが操縦を誤った印象だ。翼の端が滑走路に触れて折れた瞬間にタンクの油が漏れて炎上したのだろう。風向きや風速が変わったことが最大の要因とみられ、その状況を詳しく検証することが重要だ。

 ▽元全日空機長の川本和弘さんの話 この機種はやや古いうえに、尾翼面積が通常の航空機より小さく、パイロットにとっては特殊なバランス感覚が求められると言われている。また着陸時に横転する事故がかなり多いことがパイロット仲間の定説だった。今日は東京近郊は強い風に見舞われており、「強い横風」が機体がバウンドして左翼が接地した理由の一つだと考えられる。

 ▽航空評論家の清水喜由(きよし)さんの話 現場周辺では昨日から風向きが急変する「ウインドシア」の情報が出ており、局地的な乱気流も起きていたとみられる。着陸時に主翼近くのタイヤの煙がかなり上がっており、機体はハードランディング(強い衝撃を伴う着陸)したと推測できる。その弾みで風にあおられた可能性が高い。着陸時の状況などは飛行記録装置などを回収して調べればもう少し解明できるだろう。

毎日新聞 2009年3月23日 15時21分(最終更新 3月23日 16時31分)

事件・事故・裁判 アーカイブ一覧

 

特集企画

おすすめ情報