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『静岡県の医師不足 深刻化』 
 
                                
(引用1)                  
 
医師砂漠を歩く:自治体病院は今 過労募り補充なく 毎日新聞2005年10月26日
 

 
◇他県や民間病院へ転職も

 静岡県内の自治体病院で医師が不足する深刻な状況が続いている。産科や脳外科など10科以上が次々と休診に追い込まれ、残された現場の医師は激務を強いられ、過労で倒れる若手医師や、耐えきれず職場を変える医師も出始めている。夜間救急を利用する患者が増えたことも、過労の一因となっているという。毎日新聞社がアンケートを実施した結果、7割近くが「昨年より不足している」と答えた。厚生労働省が昨年4月から導入した臨床研修必修化の「痛み」が、地方の自治体病院に押し寄せている。【大楽眞衣子】

掛川市立総合病院

 今年、掛川市立総合病院の30代前半の男性医師2人が、体調不良を訴えた。過労による不整脈だった。今年に入り、他の自治体病院でも若手医師が脳疾患などで次々と過労で倒れた。

 夜間に来る患者や土日に病状説明を求める家族が増えたことが、激務に拍車をかけていると指摘する声も多い。救急患者が多いと当直の日は眠れず、翌朝からは通常勤務が始まる。五島一征院長は「夜間の患者の4割は小児科だが、急を要する事例はほとんどない。医師にも休める時に休ませないと、医療自体ができなくなってしまう」と患者の理解を求める。

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 忙しさを理由に、他県や大都市の民間病院へ移る医師も出始めた。県西部の自治体病院に勤める40代男性医師は、来年から時間にゆとりのある老人病院へ転職することを決めた。若い医師が大学へ引き揚げた影響で、中堅であるはずの40代までもが、何度も真夜中の救急に呼び出される状況に、体力の限界を感じたという。しかしその病院では、欠員が埋まる見込みは立っていない。ある院長は「医局の間で『あの病院は忙しい』と評判が出回っているので、欠員が出ても敬遠されて補充が埋まらず、悪循環に陥っている」と実情を明かした。

 アンケートでは、「昨年より医師が不足している」と答えた県内の自治体病院は、7割近くに上った(グラフ参照)。平均すると1病院あたり4人減少したことになる。来年度以降、さらに欠員が出る予定の病院もある。

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榛原総合病院

 榛原総合病院は今年4月、医師が撤退して休診していた産婦人科を再開した。着任した若い女性医師2人は、2日に1回午後5時から翌朝までの当直勤務をこなす。同院の磯村直美医師(27)は、大病院からの転属で仕事量の違いに驚いた。「お産はいつ来るかわかならい。一晩で何件も重なったり緊急手術になるとまず眠れない」。当直勤務を終えると、午前8時半から引き続き診察などの通常勤務が始まる。空いた時間を見つけては、横になって仮眠をとる毎日だ。「でも、大病院にいた時はその他大勢の一人だったが、今はやりがいがある」と激務の合間に笑顔を見せた。


(引用2)                         
『静岡県の 医師砂漠を歩く』 毎日新聞2005年10月27日
 

 
◇脳外科急患、消防署へ「お断り」



 自治体病院の掲示板に「休診のお知らせ」の張り紙が目立つ。医師不足が続き、産科や脳外科などが休診に追い込まれた県内の自治体病院は9病院に及ぶ。麻酔科医が不在で緊急手術ができない病院もある。外来のみに制限し非常勤医に週数回の診察を任せるケースも多く、患者数の減少が大幅な赤字を生み出す。一方、医師不足や少子高齢化の時代の波を乗り越えようと、休診中の産科病棟を慢性期病棟に変えて、新たな道を歩み始めた自治体病院も出てきた。

 静岡県富士川町の共立蒲原総合病院は、今年4月から産科を休診している。医師が他病院へ移り、休診に追い込まれた。背景には、少子高齢化という地域事情もあった。最盛期には360件あった出産件数が、昨年はほぼ半減した。それでも魅力ある産科病棟にしようと家具調のベッドやソファを新調したばかりだった。

 休診後、経営コンサルタントのアドバイスで、産科病棟と小児科病棟の一部を慢性期病棟(46床)に切り替えた。認知症や体の不自由なお年寄りが入院する広い個室には、産科病棟の名残でピンク色の壁紙やカーテンがかかっていた。赤ちゃんと対面する「新生児室」の片隅に置かれた保育器の近くに「早く大きくなってね」と書かれた飾りが、そのまま残されていた。「さみしいですよね」。病棟の看護師はつぶやいた。

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 毎日新聞社のアンケート調査で、県内の自治体病院に「医師が不足している診療科」をたずねたところ、内科(71%)が最も多く、次に産婦人科▽呼吸器内科▽放射線科(共に57%)が並んだ(グラフ参照)。全病院が充足している診療科は皮膚科だけだった。

 「近年医師不足が原因で休診した診療科はあるか」との質問には、4割が「ある」と答えた。03年度以降、休診した科は少なくとも12科(再開を含む)あり、産科5▽脳外科2▽神経内科▽消化器内科などで、県中西部の休診が目立った。

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 静岡県 市立御前崎総合病院(248床)の常勤医は現在19人。非常勤医は20人で常勤医の数を上回る。産科は休診中で、来年から内科は2人体制になる予定だ。「これからは地域の診療所に1次医療をもっと担ってもらい、地域住民の考え方を変えてもらわないとやっていけない」と横山徹夫院長は警鐘を鳴らす。医師が減ると患者数を制限せざるを得ず、今年度の実質収支は約10億円の損失となる見込み。掛川市立総合病院でも、昨年度は医師不足で約9000万円の赤字に転落した。

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 医師不足が深刻な静岡県中西部では、2病院が脳外科を休診している。周囲の病院が受け入れざるを得ないが、あまりの多忙さに消防署へ「脳外科の急患お断り」をお願いした自治体病院もある。同地区の男性救急隊員は「受け入れ先はなんとか確保できるが、往復40分の病院へ行くこともある。同時に複数の救急車の要請があると困ってしまう」と話す。

 子宮がんで榛原総合病院に入院する島田市の50代の女性は、近くの市立病院の産婦人科が休診中なので別の市立病院を訪ね、さらに県立静岡がんセンター(長泉町)と今年4月に再開したばかりの同院を紹介された。女性は「もし半年早く入院していたら、わざわざ伊豆まで行くことになっていた。榛原が再開してくれて助かった」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。