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社説

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15兆円補正―大盤振る舞いが過ぎる

 財政支出15兆円余、事業規模は57兆円。過去に例のない大規模な新経済対策を政府・与党がまとめた。

 米国政府に「国内総生産(GDP)の2%相当の財政刺激」を約束した麻生首相は2%、つまり10兆円規模の財政支出を指示していた。しかし、総選挙を控えた与党の議員から「需要不足が20兆円超とされるのに足りない」といったむき出しの要求が高まり、膨れ上がった。

 この結果、すでに決定ずみの対策も合わせると、今年度の財政出動はGDP比3〜4%程度となる。超大型景気対策をとっている米国や中国とも肩を並べるような水準だ。いくら深刻な経済危機に直面しているとはいえ、先月成立した経済対策の予算執行が始まったばかりの段階で、これだけ大規模な追加対策が必要だったのだろうか。

 「規模ありき」で性急に検討が進んだため、メニューには不要不急の項目がかなり紛れ込んだようだ。

 検討過程で、自動車や不動産などの業界が与党議員に働きかける姿も目立った。このためか業界支援色が濃い。エコカーや省エネ家電への買い替え補助は低炭素社会への転換を大胆に促すほど厳しい基準は設けず、住宅取得目的の生前贈与減税にも踏み切った。

 各省庁も予算拡大に動いた。食糧自給率向上へ向け減反政策の見直しを進めている農林水産省は、その結論も出ていないのに、従来の減反を推し進める対策費の増額を盛り込んだ。

 世界経済危機に直面し、日本経済も大きな痛手を負った。ショックを緩和し、社会不安を防ぐ安全網を整備し、経済活性化策を打ち出すのは政府の役割である。だが、それにしても「大盤振る舞い」が過ぎないか。

 民主党も2年間で21兆円の財政出動をする経済対策をまとめた。与野党あげて選挙目当てで規模を競う様相となっており、歯止め役が不在だ。

 政府案では、今年度の新たな「国の借金」(新規国債発行額)は空前の43兆円超となる。不況による税収の大幅減が見込まれるので、さらに膨らむだろう。新規の国債発行を極力抑え、主要国最悪の財政状態を立て直そうとする財政再建路線は挫折した。「11年度に基礎的財政収支を黒字に」という旗を麻生政権は降ろしてはいないが、実際には葬り去ったも同じだ。

 消費刺激型の景気対策は、将来の需要の「先食い」でもある。そのために政府が借金するのは、子や孫の世代へ「負担のつけ回し」になる。一時的に景気刺激効果があっても、長い目でみればマイナス面が少なくない。

 米オバマ政権は大規模な景気対策を打ちながら、任期4年で財政赤字を半減という目標も掲げた。いばらの道ではあろう。だが、将来世代に対し責任を果たすことも、政治の役割である。

企業献金禁止―民主党は本気を見せよ

 小沢代表の進退問題がくすぶる民主党が、企業・団体からの政治献金を全廃する政治資金規正法の抜本改正を目指す方針を打ち出した。

 5年後を念頭に、企業や業界団体、労働組合などからの寄付やパーティー券の購入を全面禁止する。献金が許されるのは個人か、個人のみで構成する団体に限る。移行期間中は、国や自治体から一定額以上の公共事業を受注したり、物品納入を契約したりしている企業からの献金を禁止する。

 こんな内容を、次期総選挙のマニフェストに盛り込む方針だという。

 言い出しっぺは小沢代表である。

 公設秘書がゼネコンの違法献金事件で逮捕、起訴され、次の総選挙での政権交代に黄信号がともっている。ここはかなり大胆な案を打ち出さないと、国民に愛想をつかされかねない。そんな危機感が背中を押したのだろう。

 動機はともかく、企業からのカネを断つことが実現するのなら、これまで政官業の癒着や腐敗の数々をいやというほど見せられてきた国民は歓迎するに違いない。

 企業献金への依存度が民主党よりはるかに高い自民党との、明確な対立軸にもなりうる。民主党の自浄能力を示すためにも、党をあげて実現してもらいたい。

 まずは、国民に「本気度」を見せることから始めるべきだ。何せ、党首自らが土建業界から巨額の企業献金を受けていた現実があらわにされたばかりだ。批判をかわすためのポーズでは、との疑念を振り払う必要があろう。

 第一に、5年後などと悠長なことは言わず、「政権獲得後、すみやかに規正法を改正する」とマニフェストに明記することだ。自民党の糧道を断つという戦略的な効果も期待できるのではないか。

 第二に、政権交代があろうとなかろうと、民主党独自で企業献金は受け取らないと決めることだ。法改正を待つまでもなく、自らの身を正すのはいつからでも実行できるはずだ。

 民主党はかつて「公共事業受注企業からの献金の全面禁止」をマニフェストに掲げた。だが、小沢代表の時代になって、その文言は消えてしまった。そして今回の違法献金事件である。

 労組などからの献金を失うことへの不安も党内にはある。でも、この問題でたじろぐようでは、民主党への国民の期待は決定的にしぼみかねない。

 自民党も、今回の事件は民主党の党首が起こしたこと、と高みの見物を決め込んでいる場合ではあるまい。政治資金の問題は、国民の政治不信の根底にある。これをどう払拭(ふっしょく)するかは政治全体の責任だ。

 より透明で、より説明責任が果たせるルールを競い合う。それも、次期総選挙の重要な争点である。

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