RIPS' Eye No.53(2005.11.22)
在日米軍再編について

写真:大越兼行

当研究所研究委員

大越 兼行

米国は「北東アジア〜インド〜中東に亘る広大な地域にはテロ活動を含 め、軍事的に不透明・不安定な要因が多数存在している」との認識にたち、この地域を『不安定の弧』と称している。わが国周辺の核開発に走る北朝鮮、軍事力 を増大する中国、尖閣諸島の領有権や東シナ海の海底資源問題、台湾海峡等はこの『不安定の弧』の中にあり、わが国の安全保障に直接影響を及ぼす懸念材料で ある。また、貿易立国日本にとって『不安定の弧』全般の安定は関心事であり、安定が維持されることは国益である。
 米国はこの地域の不安定要因を抑制し、不測の事態にも効果的に対応できるようにグァム、日本、オーストラリア、タイ、シンガポール、ディエゴガルシア等に存在する部隊や軍事施設の再配置を進めようとしている。この再配置の中で在日米軍の再編が行われる。

 この在日米軍の再編にはいくつかのポイントがある。
 そ の第一は、米国が『不安定の弧』に対応するための重要な戦略拠点として日本を選択したことである。それは、日本が『不安定な弧』に近く政治的に安定した同 盟国であり、質のよいインフラ(港湾・飛行場等の交通網、電気・水道等生活基盤など)が存在し、軍事力をバックアップする技術力・工業力が期待できるから である。
 第 二は、米軍が高度な専門的能力を持った自衛隊とスクラムを組んで『不安定な弧』の脅威・不安定要因に対応しようとしていることである。勿論、自衛隊は憲法 上の制約もあるため米軍と同一の行動はできないが、過去のインド洋やイラクでの活動実績でも判るように自衛隊を活用できる余地は十分ある。このため、日米 の指揮機能の連携強化を図っている。このことは同時に、わが国周辺の脅威・不安定要因に直接対応できる態勢を強化することでもある。日米がタイトなスクラ ムを組んでいることを示すことは日米安保の実効性を保障しわが国の防衛に直接寄与するものである。
 第 三は、従来米軍基地が集中していた地域、特に沖縄が背負ってきた負担を軽減するために基地施設などを縮小・移転を図ろうとしていることである。しかし、こ の基地縮小・移転の計画が公表されるや新たなる負担を受け入れることになる地元からは強い反対の意見が出ており、懸念材料となっている。
 
 中国は1992年に「尖閣諸島、台湾、南沙諸島等は中国領であり、中国の海域に入れば軍事力を行使する」とした「領海法」を公布した。
 米国・フィリピン間には米比相互防衛条約があり、フィリピンには巨大な米軍事力が駐屯し、東南アジア全般ににらみを利かせていた。しかし、冷戦が終了したことで米軍基地不要論がフィリピン世論を制したため、米軍はフィリピンから撤退した(1992年11月)。
 その跡には力の空白地帯が出現したが、その空白地帯に中国が割り込んできた。1995 年、中国は「領海法」を根拠に、フィリピンが領有権を主張していた南沙諸島のミスチーフ礁を軍事占領した。中国は岩礁を土砂で埋立て、飛行場・波止場、兵 舎等を建設し、対海・空火力を配置した。この後、この海域では武力衝突なども発生した。軍事力不在の米比相互防衛条約は抑止力にはならなかった。今日もミ スチーフ礁は中国軍が占領している。 
 1996 年、モンデール駐日米大使(当時)は「尖閣諸島の紛争で日米安保は発動せず」と発言し、米政府は大使を更迭した。この措置は中国に「日米安保は健在であ る」というメッセージを送った。米国の対応に依っては、尖閣諸島はミスチーフ礁と同様の運命をたどったかもしれない。

 確かに、基地を受け入れることは地元に大きな負担がかかる。一方、日米安全保障条約の確実性を担保し、貿易立国であるわが国の国益を維持するためには必要な措置でもありその負担を甘受することも必要である。 在日米軍再編に当たって、日本国民の適切な判断を祈ってやまない。

執筆者略歴

おおこし・かねゆき  元陸上自衛官。防衛大学校卒(第7期生)。在韓国防衛駐在官、第二師団長、北部方面総監を歴任。2005年4月より平和・安全保障研究所研究委員。

 

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