北朝鮮ミサイル:かけ離れた北の常識 拉致家族強い怒り

2009年4月5日 20時27分 更新:4月6日 1時35分

ミサイル発射に伴い街頭活動を行う拉致被害者、横田めぐみさんの母親、早紀江さん(右から2人目)と拉致被害者家族会の飯塚繁雄代表(右端)=東京都中央区で2009年4月5日午後2時32分、尾籠章裕撮影
ミサイル発射に伴い街頭活動を行う拉致被害者、横田めぐみさんの母親、早紀江さん(右から2人目)と拉致被害者家族会の飯塚繁雄代表(右端)=東京都中央区で2009年4月5日午後2時32分、尾籠章裕撮影

 「言語道断の蛮行だ」。北朝鮮がミサイル発射に踏み切った5日、拉致被害者家族会のメンバーらは、強い憤りの声を上げた。各地で抗議行動も起きる中、ミサイルが上空を通過した秋田、岩手両県では、前日から不安げに空を見上げていた住民が、実際には何事もなく安堵(あんど)の表情をみせた。一方、平和団体や市民からは「冷静に受け止めるべきだ」との声も聞かれた。

 ◇締め付け強化を

 横田めぐみさん(行方不明時13歳)の母早紀江さん(73)らは5日午後、東京・有楽町で街頭活動を行い、北朝鮮を強く非難した。

 早紀江さんは「北朝鮮は我々の常識とはかけ離れている」と述べ、家族会の増元照明事務局長(53)も「国際社会のルールを破ればそれだけのリスクがあることを北に知らせていかなければならない」と訴えた。

 活動終了後、飯塚繁雄代表(70)は「発射された以上、これを契機に各国で北朝鮮への締め付けを強化してほしい」と話した。

 街頭活動に先立ち家族会は支援団体「救う会」と拉致議連と連名で緊急声明を出した。

 声明は「我が国の安全保障に対する重大な脅威で国連安保理の決議を踏みにじる」「人工衛星といっているが、食糧不足に対して国際社会から人道援助を受けながらなぜ衛星が必要なのか。狙いは人民を餓死させても核ミサイルを持ち、恫喝(どうかつ)外交を行うことだ」と指摘。そのうえで、拉致問題に対する不誠実な対応も理由の一つと明示しての追加制裁実施を求めている。【鈴木一生、曽田拓】

 ◇ほっとした

 広島県原爆被害者団体協議会の坪井直理事長(83)は「被害がなかったことにほっとしている」と話す一方「北朝鮮は最小限の情報しか漏らさなかったが、衛星なのかミサイルなのかを明らかにすべきだ。核軍縮の時代なのだから『武器よさらば』という姿勢に変わってほしい」と述べた。

 長崎原爆被災者協議会の谷口稜曄(すみてる)会長(80)は「衛星打ち上げといっても核兵器の開発に直結する可能性がある。核兵器を使えば地球を滅ぼすということを北朝鮮はよく考えてほしい」。「北朝鮮が世界的に孤立しているから核兵器開発に追い込んでいる側面もある。日本政府も結局は米国からの情報頼み。より近い国がこれでは問題だ」と指摘した。

 沖縄で反基地、平和運動を続ける沖縄平和市民連絡会の当山栄事務局長は「発射されたのが人工衛星かミサイルなのかをデータを集め客観的に分析することが必要。日本も人工衛星を打ち上げているのだから、衛星打ち上げなら、そのこと自体を非難するのはおかしいのではないか」と話し、冷静な対応の必要性を強調した。【井上梢、錦織祐一、三森輝久】

 ◇偏見が心配

 韓国、朝鮮系の飲食店や商店が軒を連ねる東京都新宿区のJR新大久保駅付近の繁華街では、発射を冷静に受け止める声が多い一方、在日韓国・朝鮮人への影響を心配する声も聞かれた。

 韓国料理店を営む在日3世、李仁俊(イインジュン)さん(55)は客への対応に追われ午後1時過ぎに発射をニュースで知った。「日本に落ちる可能性は小さいと聞いていたので心配はしなかった。店もお客さんの様子もいつもと同じ」と話した。ソウルから観光で訪れた大学生、朴秀(パクス)さん(24)も「もっと騒然としているのかと思ったが、街は静かで何もなかったみたいですね」と話した。

 韓国雑貨店を営む女性(44)は「発射で私たち韓国・朝鮮人への偏見が生まれるのが嫌だ。ワールド・ベースボール・クラシックで日韓がいいムードになっているところなのに」と心配した。【林哲平】

 ◇「危害が心配」

 在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部広報室は、朝鮮中央通信が「人工衛星打ち上げ成功」と配信した後に「我が国と民族の科学技術発展と繁栄、平和的宇宙開発における国際協力に大きく貢献することになろう」とコメントを出した。

 東京都千代田区の中央本部前には発射直後から街宣車が集まり「ミサイル発射を国民に謝罪しろ」と抗議活動。警視庁によると5日午後は周辺で右翼団体や市民グループなど約20団体の活動が確認されたが、逮捕者や大きな混乱はなかった。

 朝鮮総連によると、福岡県本部に3月下旬「ミサイル発射やめろ」と書かれた紙に包まれた石が投げ込まれ、広島や愛知の朝鮮学校には脅迫めいた電話がかかっているという。総連関係者は「今後、朝鮮学校生徒への危害などが心配だ」と話した。

 ◇民団も抗議

 在日韓国人を中心とした在日本大韓民国民団(民団)は発射後、北朝鮮や朝鮮総連に抗議文を送ったと発表した。抗議文は「隣国に対する『威嚇行為』で、日本において真の共生社会のため努力している我々と子弟が日本社会で被る打撃は計りしれない」と非難。その後、民団職員らが東京・有楽町の街頭で抗議の意思をアピールするビラを配布した。

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