民主党の小沢一郎代表が、公設秘書逮捕を受けて検察当局との全面対決を宣言した記者会見から一夜明けた5日。党内に検察批判を封印する空気が広がり始めた。「違法性の認識はない」との小沢氏の反論を覆しかねない新事実が相次いで報道され、小沢氏への不信感が次第に高まっているためだ。一方、逆風にあえいできた政府・与党には久々の「追い風」。麻生太郎首相周辺からは「『麻生降ろし』の圧力も一時的におさまる」との楽観論も出ている。だが、政権浮揚に向けた妙案はなく、ひたすら景気対策を訴えるしかないのが実情だ。
「政権交代の可能性が高くなりつつある中での捜査。何でこんな時期にという思いはある」
菅直人代表代行は、5日の記者会見でそう語った。記者団の質問は「国策捜査」とまで指摘した民主党を政府・与党が攻撃していることに集中したが、菅氏は検察批判を慎重に避け続けた。
5日の参院予算委員会の冒頭、平田健二参院幹事長は「小沢代表は説明責任を果たした。秘書の潔白、無実も証明されるものと確信している」としながらも、検察の捜査手法には触れなかった。
民主党は06年、虚偽のメールに基づく国会質問で自民党幹部を中傷し、当時の前原誠司代表が辞任に追い込まれた。今回も党内には小沢氏の強気の姿勢に対する疑問が広がりつつある。「ひっくり返るような事実が出てきたら(代表続投支持とは)別の判断にならざるを得ない」(長島昭久衆院議員)と小沢氏と距離を置く発言が出始めた。
これに対し、自民党各派領袖は5日、小沢氏や民主党を批判した。
高村派の高村正彦前外相は「容疑が真実と判明したらどう責任を取るのか心配になる。政治権力が検察を自由に動かせると考える人たちが政権を取るのは極めて危険だ」と皮肉を込め、町村派の町村信孝前官房長官は「めちゃくちゃな発言だ」と切り捨てた。山崎派の山崎拓自民党前副総裁は「今国会で証人に立ち、検察と戦うのが最良の取り組みだ」と、小沢氏の国会招致に踏み込んだ。
勢いづく領袖を横目に、官邸内にも「野党の抵抗が弱まり、09年度予算の1次補正編成もスムーズになる」(首相周辺)との声も出ている。ただ、「敵失」が麻生政権の浮上につながる確証はなく、「検察はバランスを取るので自民党議員が返り血を浴びる可能性がある」(政府筋)との懸念も消えない。
5日夜、記者団から民主党幹部による検察批判への感想を問われた首相は「コメントできませんな」と素っ気なく答え、一部で浮つく政府・与党内の引き締めを図った。
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当の小沢氏は5日、自宅と東京・赤坂の個人事務所の間を往復したが、記者団には一言も発さないまま。西岡武夫参院議院運営委員長と事務所で約30分面会したほかには、日中の来客はなかった。【古本陽荘、高本耕太】
毎日新聞 2009年3月6日 東京朝刊