06年4月から丸3年お世話になった奈良を去ることになりました。いつ載るやらわからない私のコラムも今回が打ち止めです。愛読者からは「毎週楽しみに読んでいます」と言われるたび、照れ笑いするしかありませんでした。なにぶん初めての土地のうえ、歴史や文化の薫と縁遠い人生を歩んできたため、奈良支局長らしい手紙は一度も書けませんでしたから、「くいたらんかった」とお叱りを受けても仕方ありません。
支局2階編集室の壁には漢字の書が掲げられています。
「健筆直会(けんぴつなおらい)」
殺風景な仕事場の雰囲気をなごませるいい言葉を掲げたくて、支局3階で書道教室を教えていただいている藤野北辰先生(毎日書道展審査会員、北水書会会長)に揮毫(きごう)をお願いしました。健筆は「文字を書き、文章を作るのが達者なこと」(広辞苑第六版)。直会は「ナオリアイの約。斎(いみ)が直って平常にかえる意。神事が終わって後、神酒、神饌をおろしていただく酒宴(同)。四字熟語ではなく、先生と私で考えた造語でした。
速報や記事の中身でライバル紙に劣ることなく紙面ができた後、飲みながら反省会ができたらいいな。そんな思いを込めたのですが、実際に事件・事故が発生すると、こちらの都合よくは運びません。取材記者やデスクは時間に追われ、上司の誘いになどかまっていられない場合がほとんどで、実現したのは数えるほどでした。無理強いすると、「らんぴつ・なおざり」になりかねない。「せめて、管を巻くようなことのないようにしよう」。意味が転じて私にとっては『飲み過ぎ注意』の銘となりました。
4月からは大阪本社代表室へ移り、平城遷都1300年祭関連の仕事は引き続き担当します。失礼ながら、お世話になった皆様方に紙面をもってお別れのご挨拶(あいさつ)に代えさせていただくことをお許しください。【奈良支局長・井上朗】
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次長の山田と橿原駐在の林は大阪社会部へ、県政・高橋は中部報道センター(名古屋市)、スポーツ・遊軍の宮間は大阪写真部へ異動します。
前回の奈良支局勤務中の03年、父を胃がんで亡くしました。公私ともに思い出と思い入れのある土地・奈良で、再び働けたことを誇りに思います。【山田英之】
総選挙担当として準備を続ける日々でしたが、見届けぬまま名古屋に転勤になってしまいました。向こうでも経験を生かして頑張ります。2年間お世話になりました。【高橋恵子】
蘇我入鹿から卑弥呼まで、歴史教科書が「現実」になった3年半でした。高松塚古墳の石室解体とキトラ古墳の壁画はぎ取りを見届け、“難波宮に遷都”します。お世話になりました。【林由紀子】
「カメラ毎日」(1954-85年)で活躍した写真家の方と仕事する機会を得たのは奈良での思わぬ収穫でした。異動先では彼らの作品に勝る写真記事を紙面化できればと思います。【宮間俊樹】
毎日新聞 2009年3月29日 地方版