テストレポート
「ATI Radeon HD 4890」パフォーマンス速報。HD 4870からの性能向上は大きい
「ATI Radeon HD 4870 X2」「ATI Radeon HD 4850 X2」というハイエンドモデルを抱えるAMDが,ここに来て「ATI Radeon HD 4870」(以下,HD 4870)の上位モデルを投入してきたことにはどんな意味があるのだろうか。
今回は,AMDの日本法人である日本AMDから入手したHightech Information Systems製のHD 4890搭載カード「H489F1GP」を使って,カードの概要とパフォーマンスを速報としてお伝えしたい。
HD 4870とほぼ同じ外観だが
冷却性能の向上が図られたGPUクーラーを搭載
AMDが公開しているリファレンスカードのイメージと比較するに,H489F1GPはリファレンスカードそのものだと思われ,以下,その前提に立って話を進めていくが,まず,HD 4890のスペックは表1のとおり。シェーダプロセッサ「Stream Processor」や,レンダーバックエンドの数といった基本的なスペックはHD 4870と同一だが,トランジスタ数は300万ほど増え,さらにコアクロックとメモリクロックの引き上げが行われている。
GPUクーラーを取り外すと分かるのだが,配線はHD 4870から多少変更されているものの,部品配置は踏襲している。あくまで印象なので,保証の限りではないが,HD 4870に対応したサードパーティ製GPUクーラーなら,HD 4890でも利用できる可能性は高そうだ。
搭載するGPUに,製品名や開発コードネームを推測させる刻印がこれといってないのは,最近のAMD製GPUと同じ。搭載するGDDR5メモリチップはQimonda製の「IDGV1G-05A1F1C-40X」(1.0ns品)で,これを8枚搭載することにより,容量1GBを実現している。
HD 4870にもグラフィックスメモリ1GB版は存在しているが,リファレンス仕様は512MBだった。その意味で,メモリ容量はスペックアップしたといっていい。
レビュワー向け最新ドライバでテスト
比較対象はHD 4870とGTX 260
なお,GV-N26OC-896H-Bは,製品名からしてメーカーレベルのクロックアップがなされている雰囲気が満々なのだが,実際には定格で動作している。基板背面にもメモリチップを搭載しているため,搭載するGPUは65nmプロセス技術で製造された個体の可能性が高いことも付記しておきたい。
HD 4890のテストに当たって用いたグラフィックスドライバは,「8.592.1-090325a-078297E」。これは,AMDから全世界のレビュワーに配布されたもので,テスト開始時点の最新バージョンだ。
「ATI Catalyst 9.3」に含まれる「Display Driver」(※バージョン8.591)をベースに,HD 4890への最適化が図られたもののようだが,HD 4890専用だったため,今回は,HD 4890とHD 4870でドライバのバージョンが異なっている。
なお,テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション6.0準拠。ただし,時間的制約のため,1024×768ドット解像度での検証は省略する。また,テストも「3DMark06 Build 1.2.0」(以下,3DMark06),「Crysis Warhead」,「Call of Duty 4」,「Race Driver: GRID」(以下,GRID)の四つに絞った。
目を見張る,HD 4870からの性能向上
GTX 260を“千切る”場面も
というわけでグラフ1,2は3DMark06の結果である。HD 4890のスコアは,「標準設定」「高負荷設定」とも,HD 4870と比べて11〜13%高い。全テスト項目で,GTX 260のスコアを安定的に上回っている点にも注目したいところである。
続いて,Crysis Warheadの結果をグラフ3,4に示す。Crysis Warheadに置ける“上積み”は3DMark06のそれを大きく上回っており,標準設定時に30%強,高負荷設定時には50%以上と,インパクトが大きい。単なる動作クロック引き上げではこうはいかないので,リファレンスのグラフィックスメモリ容量倍増が,奏功した印象だ。
一方,グラフ5,6のCall of Duty 4では傾向が若干異なる。HD 4890のスコアがHD 4870比で20%程度引き上げられており,さらに標準設定でGTX 260のスコアを上回っているところまではいいのだが,高負荷設定ではGTX 260に逆転を許しているのだ。
断言はできないが,最適化不足,もしくはグラフィックスメモリ管理に問題がある可能性を指摘できそうである。
GRIDのテスト結果をまとめたのがグラフ7,8となる。GRIDでは,ATI Radeonファミリーが比較的優位なのだが,スコアはご覧のとおりで,HD 4870がGTX 260に大差を付け,HD 4890はさらにその上を行っている。
なお,HD 4890とHD 4870で比較すると,描画負荷が高まるほど,HD 4890が有利になる傾向だ。最大では16%もの違いである。
アイドル時の消費電力は確かに低下
高負荷時の消費電力は15W前後増大か
さて,AMDの公開しているスペックシートによると,HD 4890の消費電力は最大190W,最低60W。HD 4870は同160W,90Wなので,最大負荷時の消費電力は30W増大する一方,アイドル時のそれは30W低下していることになる。
では,実際の消費電力はどの程度なのか。OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時として,ログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」から取得した結果をまとめたのがグラフ9だ。
アプリケーション実行時の消費電力増大度合いは,タイトルにもよるが,平均15W前後といったところか。一方,アイドル時は5Wの減少で,カタログスペックほどではないが,確かに消費電力が低下しているのを確認できた。
TechPowerUp製のBIOSチューニングツール「Radeon BIOS editor」(Version 1.20)で,HD 4890の設定を確認してみると,アイドル時のコア電圧は1.053V,動作クロックは240MHz,これに対してHD 4870は同1.203V,550MHzだったので,この違いが,多少なりともアイドル時の消費電力引き下げにつながったものと思われる。
ところで,本稿の序盤において「HD 4890のGPUクーラーは性能強化が図られている」と述べたが,それを確かめるべく,3DMark06を30分間連続実行した時点を「高負荷時」として,アイドル時ともどもGPU温度を計測することにした。計測には「GPU-Z」(Version 0.3.3)を用いており,システムは室温22℃の環境において,PCケースに組み込んでいない,いわゆるバラック状態にある。
その結果をまとめたのがグラフ10になるが,HD 4890のGPU温度は,HD 4870と比べて大きく下がっており,確かにGPUクーラー変更の効果が表れていると分かる。
ちなみに,前述のRadeon BIOS editorで調べてみると,ファンの回転数は,
●HD 4890
- アイドル時:23%(約1200rpm)
- 高負荷時:33%(約2000rpm)
●HD 4870
- アイドル時:12%(約1000rpm)
- 高負荷時:27%(約1700rpm)
といった具合で,HD 4890のほうが高い。もちろん,カードベンダーによってファン回転数設定は異なる可能性があるので,あくまで今回の設定はHightech Information Systems製搭載カードのものだと理解すべきだが,少なくとも,リファレンスカードにおいて,GPUクーラーのデザイン変更と,ファンの高回転化が,それぞれ,HD 4890のGPU温度が低い理由の一つになっていることは確かだ。
なお,あくまで筆者の主観だが,確かにHD 4890のほうが,ファンの動作音は大きい気はした。
ぽっかりと空いた“3万円地帯”を
狙うHD 4890
現在,グラフィックスカードの価格競争は激しく,ハイエンドクラスのHD 4870やGTX 260が安価なものなら2万円台前半から購入できるようになっている。一方,ウルトラハイエンドクラスを見ると,唯一のシングルGPUモデルとなる「GeForce GTX 285」が3万円台後半から。3万円前後の価格帯が空白地帯になっていたので,HD 4870から確実にパフォーマンスが向上しているHD 4890が,そこに投入される意義は小さくない。
なお,そのほか上位モデルや競合製品との比較など,さらに踏み込んだ内容に関しては,本日中にあらためて掲載予定なので,しばしお待ちいただければ幸いだ。
- 関連タイトル:
ATI Radeon HD 4800
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(C)2008 Advanced Micro Devices, Inc.
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