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小沢辞任論の「公」と「私」
政権交代目前に起きた西松建設の政治献金疑惑を巡る検察の捜査は、献金疑惑の全容を解明しようとはしていない。多数の政治家や地方自治体の首長の名前が取り沙汰され、中には自殺をした人間までいるのに、それらの全容を解明する検察の意志が感じられない。感じられるのは小沢代表を辞任に追い込もうとする意志だけである。まず秘書の「逮捕」という衝撃によって辞任させようとした。それがうまく行かないと、与党の側から二階経済産業大臣一人を立件の対象にした。どのみち麻生内閣は改造目前である。それでなくとも二階大臣は辞任するはずだ。それを小沢代表の辞任を促す材料にするつもりに見える。それ以外にも世論調査や知事選の結果などが全て小沢辞任論の根拠となるよう仕向けられている。
そこで小沢辞任論の根拠をひとつずつ考える。まず秘書逮捕という事実は辞任の根拠となりうるか。秘書が罪を認め、小沢氏も罪を認めれば辞任は当然と思われる。しかし秘書も本人も罪を認めていない。それならば裁判で判決が出るまで辞任はないと考えるのが普通である。二階大臣が仮に辞任をしても同様である。むしろ認めてもいないのに辞任する方が辻褄が合わない。
「国民の声が辞任を求めているから謙虚に従うべきだ」という考えがある。世論調査の数字の事を言っている。しかし昨年以来7割近い国民が「総理を支持しない」つまり「総理を辞めろ」と言っているのに麻生総理は辞めない。その時に野党党首が同じ数字で辞めてしまったらお笑い種だ。それではとても政権交代を求める野党の党首足り得ない。大体、世論調査の数字だけで辞める政治リーダーなど世界にはいないのではないか。そんな気弱な人間は政治家にならない方が良い。国民の声とは世論調査ではなく選挙で示されるものだ。
「説明責任を果たしていない」との批判がある。確かに検察の言う事と小沢代表の言う事は真っ向対立しているので「説明不足」に見える。しかしこれは検察と食い違っているためだから、小沢代表がいくら説明しても理解されない。検察と小沢代表の両方に説明を求めなければならない。検察が説明責任を果たさず裁判の場で説明すると言うのなら小沢代表もその時に説明すれば良い。説明がないから辞任しろと言うのは一方的な話である。
「この問題が選挙に影響し政権交代が出来なくなるのは困る」と言う意見がある。これには多少の理がある。それを理解しているから、24日の記者会見で小沢代表は「辞任しないことの是非を国民に聞きたい」と言って早期の「解散・総選挙」を求めた。そのために党独自で選挙情勢分析を実施すると言う。その結果で政権交代に結びつかない事が判明すれば自ら身を引く覚悟だろう。それが今考えられる唯一の辞任の根拠である。つまり多少「公」を感じさせる辞任論である。
それ以外は全て自分の選挙が苦しいから「辞めてもらった方が有利になる」とか、「選挙民に批判されるのが困る」とか、世間体を気にするようなつまらない「私」の辞任論ばかりである。もっとも私はただ単に選挙で政権交代することも「公」とは言えないと思っている人間だから、小沢代表の辞任論は全て「私」の政治の領域であり「公」はないのではないかと、泉下の勝海舟先生に聞いてみたいところである。
田中良紹
(ジャーナリスト)
1945年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同年(株)東京放送(TBS)入社。
ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。
1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。
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