救急医療は今 <上>
公明新聞:2009年3月30日
妊婦“たらい回し”ゼロ
助産師がNICU確保
札幌市
「医療崩壊」や「患者受け入れ拒否」の文字が、新聞のニュース面をにぎわせている。医療の安全・安心への取り組みが各地で模索される中、札幌市の産科救急体制が大きな成果を挙げている。
札幌市では昨年(2008年)10月から、市夜間急病センターに毎晩、2人の助産師を救急時の調整役として配置。導入以来、新生児や妊婦の受け入れ拒否がなくなった(2月末現在)。
夕方6時過ぎ、助産師が新生児集中治療室(NICU)をもつ市内6病院と、入院を必要とする患者に対応できる6病院に電話し、NICUと産科病床の空き状況を確認する。各病院は「〇」(空きあり)、「△」(満床だがやりくりは可能)、「×」(受け入れ不可)で回答。助産師は回答をもとに救急患者の優先搬送先を決定し、各病院に結果を通知する。救急隊から問い合わせがあった場合にも、優先搬送先を伝える。
「救急搬送のうち、未受診妊婦の受け入れは、特に大きな精神的負担を現場の医師に与える。事前に自分の所が優先搬送先だと分かれば、医師の側も“覚悟”ができる」と語るのは、市保健福祉局の飯田晃・医療政策担当部長だ。「6病院のNICUの合計は48。これを“一つの病院”と捉え、“たらい回し”を回避している」
札幌市では今後、北海道とも連携して近郊の病院とNICUの情報共有を図る方針。4月からは日中にも助産師を配置する予定だ。
優先搬送先を決めた助産師には、もう一つの仕事がある。
不要不急の受診を抑制するため、翌朝7時まで妊婦を中心に、市民からの電話相談に応じる。2月末までの相談数は818件。助産師は症状を聞き、かかりつけ医への受診や夜間センターへの来院を勧めるなどの対応をするが、電話で解決する場合が多く、緊急を要する事例は少ないという。
助産師は「電話の声だけで適切に判断することが大事。重大な問題点を逃さず、どれだけ情報を引き出せるかが勝負」と語る。使命感をもって業務に取り組む彼女たち。「明らかに緊急性のない相談者に、どう納得してもらうか、対応に苦慮することもある」と、現場での苦労について話した。
飯田部長は「医師不足は一朝一夕には解決しない」とした上で、未受診妊婦の減少が医師の負担軽減につながると指摘し、こう付け加えた。
「札幌のやり方は、ある意味で“苦肉の策”。しかし、今は限られた資源で効果を上げなければ」
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