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【社説】

2児拉致 工作活動を明らかに

2007年4月27日

 北朝鮮による拉致事件がまた一つ明るみに出た。国内での工作員の組織的な暗躍が事件を起こしたようだ。ほかにも拉致の疑いが濃い事件は数十件もあり、被害者は救出を待っている。

 三十年以上も前の事件である。

 警視庁と兵庫県警の捜査本部が国外移送目的略取などの疑いで逮捕状を取ったのは、北朝鮮工作員のリーダー格だった木下陽子容疑者だ。

 一九七三年に所在不明になった北海道出身の主婦渡辺秀子さんの子供二人を、他の工作員と共謀して拉致した疑いだ。その後、北朝鮮に渡り「洪寿恵」の名前で生存しているとみられ、国際刑事警察機構(ICPO)を通じ、国際手配した。

 事件発生からあまりに時間がかかりすぎている。ここに来ての捜査は唐突な感じもするが、日本の主権が侵害されたのは間違いない。真相を究明して、被害者救出のきっかけをつくってほしい。

 この事件で注目すべきは、北朝鮮の工作員が日本を対韓国工作の最大の拠点にして組織的な活動を展開していたことだ。

 木下容疑者は韓国籍だったが、やがて日本国籍を取得、日本での工作活動拠点だった貿易会社「ユニバース・トレイディング」に所属し、十人ほどの工作員を指揮していた。

 秀子さんは、在日朝鮮人の夫が姿を消したため、子供と一緒に夫の勤め先だったこの会社を訪ね、その直後に行方が分からなくなった。

 工作活動の露見を恐れたこの会社の工作員により監禁され、子供二人は北朝鮮に拉致された疑いが濃い。秀子さんは殺害されたという。

 工作員らは、自衛隊や在日米軍の情報を北に送ったり、在日朝鮮人や日本人を北朝鮮に拉致するなど、活発な活動をしていたといわれる。

 拉致事件が多発したのは七〇年代から八〇年代初めにかけてだ。政府はこれまでに十二件、十七人を拉致被害者と認定している。このほかにも数十人が拉致された疑いが濃い。これら一連の工作活動の解明は、被害者救出に欠かせない。

 もう一つ注目すべきは、この会社を設立したのが在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の第一副議長だったことだ。

 このため、警視庁などは木下容疑者の逮捕状請求に先だって、当時の朝鮮総連幹部で現在は議長、副議長を務める三人に対して任意での聴取を要請する文書を送った。

 朝鮮総連は「拉致事件とは関係ない」と否定しているが、それなら積極的に捜査に協力した方がいい。でないと疑いは深まる。

 

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