2005年の衆院選から、公示後は候補者や政党のホームページ(HP)の更新そのものが事実上禁止であるかのように捉えられていた。ところが、
オーマイニュースでも既存マスコミでも報じられているとおり、今回の参院選では主要政党のほとんどが、公示後に党HPを更新している。
しかし、総務省の法解釈が変わったわけでもなければ、何か明確なガイドラインができたわけでもない。各党が独自の判断でHPを選挙に活用しているだけのことで、掲載内容は各党でまちまちだ。
第12回で触れたように、選挙制度の整合性のなさを放置したままの「なし崩し解禁」だけでは意味がない。次の選挙までに必ずや法改正が果たされるよう、今回の「なし崩し」から垣間見える選挙制度の矛盾や不備を、ここでしっかり確認しておこう。
「政党の政治活動」がHP更新の名目 今回の参院選公示日である12日以降、自民党は党幹部らの演説などの内容を連日追加。民主党も同様だ。
国民新党は13日以降、党幹部の遊説報告やテレビ出演を予告する2~3行の記事をトップページに追加している。公明党も、12日付けの新規掲載がなかった「公明新聞」記事の掲載を13日付け分から再開し、党幹部の「第一声」を報告。共産党も同様に13日付け「赤旗」の記事を用いて党首の第一声を伝え、以降も記事を追加している。
14日付け読売新聞で「今後、他党の更新が問題にならなければ、更新を検討したい」とのコメントが掲載されていた社民党では、19日以降、「社会新報」の記事から、党幹部の遊説報告やテレビ出演予定を掲載し始めている。
2005年の衆院選の際は、公示後に民主党がHPを更新していたことについて自民党が総務省に指摘。総務省の「違反の可能性がある」との見解を受けて、民主党はHPの更新を停止した。HP更新そのものを自粛する気運ができあがった。
しかし以前、総務省は記者の取材に対して「更新そのものが違反なのではなく、選挙運動にあたる内容を掲載すると違反となる可能性がある」とコメントしている。
今回の更新について、自民党広報の説明はこうだ。
「もともと政治活動としてHPを更新することには問題がないと考えています。前回(05年の衆院選)の民主党は、候補者の名前や写真を掲載していたことが(規制に)ひっかかった」
民主党広報によれば、当時問題とされたのは写真ではなく、党首の公示後第一声を伝えた動画だったようだ。
「当時は、HPの更新そのものを自粛しましたが、幹部の政治活動を掲載することには問題がないと考え、今回はHPを更新しています。05年以降も、地方選と首長選では同様の方法でHPを更新しており、今回の参院選で方針が変わったということではありません」(民主党広報)
こうした状況を踏まえて総務省に尋ねたところ、「法解釈については、従来どおり変更点はない」との答えだった。
しかし、05年の衆院選と比べて全く様相が異なっているのは確かだ。法律も法解釈も変わっていないのに、実態がここまで大きく変化してしまうとは、この国は本当に法治国家なのか?
「不公平だ!」の声も
主要政党が横並びでHPを更新する中、共生新党は更新こそしているものの、中越沖地震関連の党の活動を知らせる内容だけ。新党日本はHPの更新自体を停止している。
「今回、HPの更新はしていません。これまでの経緯からHPの更新はできないものだと思っていました。(他党が更新していることについて)これでは不公平なのではないかと思います。新党日本では苦肉の策として、遊説日程を掲載した個人ブログのURLを党HPなどに掲載しています」
同党のサイトを見ると、「公職選挙法を尊重し、ワン・クリックでのリンクを自粛しています」の文字とともに、リンクを貼らない形で個人ブログのURLが表示されている。その個人ブログに、遊説報告・予告などが掲載されている、という仕組みだ。
リンクなのか文字列だけなのかによって違反かどうかが分かれるというのは初耳だが(もちろん公選法にそのような条文はない)、いずれにせよ、同党では総務省などからこの点について、とくだん指摘されていないという。
ちなみに、記者が問い合わせた際の東京都選挙管理委員会の見解はこうだ。
「ネット上での文書の掲載は、それが党や候補者ではなく第三者の個人的活動であったとしても、選挙運動とみなされれば違反になる可能性が高い。リンクなら違法でURLだけなら方法だという基準は存在しませんが、何せ前例が少ないので、たとえ一般論であっても違反かどうかはコメントできません」
公示後に更新したかどうかは別として、現段階で掲載されている情報の内容を詳細に見てみると、これまた党によってまちまち。
新党日本は、遊説日程の掲載を個人ブログに頼っているが、共産党は候補者名こそ入れていないものの「日本共産党 遊説日程」を党HP内に掲載。他党でも、候補者一覧などを掲載しているケースはある。そして共産党、公明党などは、「参院選特集」などのタイトルのコーナーをHP内に設置し、候補者名や政策を掲載している。
国民新党は「全国縦断リレーマラソン」の企画概要をトップページに掲載しているが、そこには、明らかに選挙と関連付ける、こんな文言も見られる。
「57日間で、各地の候補者と共に、各地の国民の声を直接聞いて、永田町へ届ける。そして、投票日前日にすべての「声のタスキ」が東京に集結!!」
新党日本も、「選挙運動用パンフレット(マニフェスト)」というタイトルでマニフェストを掲載。HP更新では大勢から取り残されたが、自ら「選挙運動」と表記しているあたり、実はもっとも深く「グレーゾーン」に踏み込んでいるのかもしれない。
「選挙運動とみなされるHPの記事」とは何を指すのか
公示後の「党の政治活動」が事実上の選挙目的であることなど、いまさら疑いようもないことだ。とは言え、ここまでくると「選挙運動とみなされるHPの記事は違反」という基準は、いままで以上に形骸化したと言っていいだろう。
総務省に尋ねても都選管に尋ねても、「選挙運動とみなされれば違反となる可能性があるが、個別の事例についてはコメントできない。警告や摘発を行うかどうかは警察の判断」というコメントが繰り返されるばかり。
しかし法改正もされず、ガイドラインすら公表されないからこそ、これほどまでにぐちゃぐちゃになっているのではないか。このまま放置したら、次の衆院選はさらに「無法選挙」になってしまう。
各党の皆さん。泣いても笑っても今日で選挙はおしまい。結果がどうあれ、今回これだけHPをいじった以上は、次回の選挙までにしっかり法改正をしてくださいよ。どうか「第2回無法選挙」が行われませんように。
(この特集は、文・藤倉善郎、編集と写真・吉川忠行、動画・朴哲鉉、萩原浩介が担当しました。参院選後もネット選挙に関する取材を続け、随時掲載して参ります)
ネット選挙運動を即刻解禁せよ! トップページへ