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ネット選挙運動を即刻解禁せよ!

ネット選挙解禁は“バーチャル・デモクラシー”への第一歩

名古屋外大・高瀬淳一教授に聞く -ネット選挙運動を即刻解禁せよ! 第12回-

藤倉 善郎(2007-07-26 12:45)
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 第11回でまとめたような海外の事例を眺めると、なおのこと日本の現状が理不尽に思えて仕方がない。欧米はそもそも選挙制度の発想が日本と違うのかもしれないが、お隣の韓国では、世情にあわせて法改正を成し遂げてきているというのに。

 名古屋外国語大学の高瀬淳一教授は、情報の政治性をテーマとする『情報政治学講義』で、アメリカと日本を例にとって「ネット情報と選挙」について論じている。そこでは、安価で多様性を持ちやすく、候補者や政党が発した情報を有権者が自由に受信できるとして、ネットの有用性が説明されている。

 その高瀬教授に、日本と他国との事情の違いや、ネット活用のあるべき姿について聞いた。(動画はこちら

日本は時代錯誤もはなはだしい

────これまで調べてきた限り、日本同様にネット選挙運動を禁止している国は見当たらないんですが。

 私も全ての国について把握しているわけではありませんが、ネットが普及している先進諸国の中では、日本以外にネットを禁止しているケースは知りませんね。他国ではネットの費用も含めた選挙運動費用の総額規制はあるものの、ネットの利用方法について特別な制限を設けているケースはほとんどありません。細かい部分で多少制限をかけている国はありますが、基本的にはネット以外の従来のルールをネットにも適用する、という発想のようです。

各政党がHPを更新している参院選の現状からネット選挙が今後「なし崩し的にOKになってしまう」可能性があると指摘する名古屋外大の高瀬教授=20日、東京・早稲田で(撮影:吉川忠行)
 ネットの利用によって不都合が生じたというケースは、ネットでの選挙活動が完全に自由であるアメリカでも聞いたことはありません。おそらく投票の呼びかけなどだけではなく、資金集めの面でもメリットがあります。おそらくマイナス面の方が少ないのではないでしょうか。日本はネットに限らず、そもそも規制が多すぎる。

────日本ではなぜ規制が多いんでしょうか。

 中選挙区制時代、同じ選挙区で同政党の候補者同士が票を争っていたことで、候補者が有権者にカネをばら撒くことが懸念された。そのため、さまざまな規制をせざるを得なかったという歴史があるんです。

 また、日本の選挙はアメリカなどと違って“公営選挙”だからという側面もあります。ポスター、ビラ、タスキ等々、選挙運動に必要な小道具を全て国が用意してくれる。これは有権者の関心を高め、候補者の不正や不公平をなくすという目的で行われているものです。ところが実情は、“政党の日常活動”という名目であればテレビCMも流すことができてしまうため、お金のある政党とそうでない政党との間に格差が出てしまっている。

────第10回で「音声メールなら合法だ」という記事を書いたんですが、総務省は、音声メールは違反ではないが文字で党名を入れたらNGだと言っていました。

 ところがテレビについては、『政党の日常的な活動』という名目であればCMで党名を表示しても構わないことになってしまっています。全く整合性がないですね。

────アメリカは「完全自由」かもしれませんが、フランスはネットの利用方法について細かい規制を設けています(第11回参照)。アメリカとの違いはなんですか?

 フランスの選挙も日本と同じく“公営選挙”なんです。アメリカの場合は、みんなが寄付をして、それによって選挙運動を行うというスタイル。アメリカではテレビCMも無制限で、そもそもネットを規制しようという発想自体がないのかもしれません。

 本来であれば、アメリカ並みにオープンにすべきだと思います。ネットは有権者が主体的に情報を取捨選択できるメディアです。それを禁止する意味がわかりません。この情報化時代に、ネットがあるのに使えないというのは、時代錯誤もはなはだしい。

────最低限のことすらできていないのが日本の選挙制度なんですね。その最低限のことを実現するためには、何が必要なんでしょうか。民主党の鈴木寛議員に取材した際(第7回参照)には、「ネチズンがもっと行動を起こさないとダメだ」という話も出ましたが。

 実現のためには、議員が積極的に動くしかないでしょう。いまだ実現していないのは国会議員の怠慢で、有権者のせいにするのは単なる言い訳です。ネットは民主主義のインフラですから、仮に国民が望んでいなかったとしても解禁するくらいでなければいけないと思います。

────解禁を望んでいない議員も多いような気がしますが、その理由は何なんでしょうか。

 ネットを恐れているというよりは、ネットの必要を感じていない議員が多いのではないでしょうか。“ドブ板選挙”をする人々は、握手して回れば投票してもらえる。従来のその方法以外のものを必要とは思っていない、ということでしょう。

────今後、ネット解禁への道のりはどのようなものになっていくと思いますか?

 まずは、次の衆院選までに解禁されるかどうかが、いちばんのポイントです。ただ、日本の規制の場合、法律に書いてなくても総務省がダメと言えばみな横並びで控える反面、政党のテレビCMのように総務省がOKと言えば、これまたみんなやってしまう。ネットに関しても、同じようになし崩し的にOKになってしまう可能性もないではないですね。

「ネット」に固執せず、幅広い民主主義論を

────ネット解禁に関するこれまでのマスコミ報道についてはどう思われますか?

 マスコミ報道について、私が弱いなと思うのは、ネット解禁に関する話題が選挙運動の話に終始してしまいがちだという点です。候補者の有利不利にかかわる問題なので仕方ないのかもしれませんが、もう少し幅広い視野で議論すべきです。私は、やがて“テレビ・デモクラシー”から“バーチャル・デモクラシー”に移行していくと考えています。ネットについては、デモクラシーをどう構想していくのか、という総合的な発想で考えるべきです。

 選挙に関する問題として語るにしても、ネットを解禁すべきだとして、じゃあ、たとえばラウンドスピーカーで延々と候補者の名前を連呼する行為は禁止しなくていいのかとか、そういった議論も必要でしょう。

 有権者は候補者の名前を連呼する選挙カーの音声を主体的に選択できることができませんが、ネットの情報は取捨選択できます。有権者が主体的に選べないような選挙運動が許されて、有権者が主体的に選べる情報が許されないというのは、おかしいですよ」

────ネット解禁について語るには、選挙制度の別の部分も同時に見直す必要があるわけですね。

 そうですね。全体として政治がよくなるのか、ということを検討すべきだと思います。

────では、全体としてよくなるためには、どのような形でネットが解禁されるのが望ましいんでしょうか。

 望ましいのは、そもそもネットを解禁するというのが第一。その次に、ネットの使用に極力制限を設けない方向を目指すべきだと思います。

 誹謗中傷を取り締まるとか、そういう理由で制約をかけたがる人がいる。それはよくないと思います。名誉毀損も怪文書も現行の法律で禁じられているんだから、ネットにだけ新たな別の規制を設ける必要はない。自由にオープンにしてしまって、何か問題が出てきてもいちいち過敏に反応しないことが大切です。

────ちょっと問題が出てきたくらいで、「やっぱりネットはダメだ」と言っているようではいけないと。

 たとえばネットで誹謗中傷的なものや遊び的な要素がある情報が出てきたとしても、それで政治が大きく変わるわけではありません。有権者はそれほど愚かじゃないですから。先の都知事選の際、YouTubeで話題を集めた候補者がいましたが、それでも彼は当選しませんでした。ネットで話題になることと当落とは、それほど直結しないんです。

 つまり、ネットを特別扱いする必要はないということです。もちろん、もし大きなトラブルがあれば、それに応じて考える必要はありますが。

────ネットだけで選挙が大きく変わるわけではないと?

 いまはまだテレビデモクラシーの時代で、バーチャルデモクラシーに移行するまでには、まだ時間がかかるでしょう。

 マスコミでも研究者でも、こうしたテーマを語るときには得てして自分たちの願望を込めてしまいがちです。たとえば『マニフェストを作れば政策議論が高まる』なんて言われていましたが、今回の選挙で主要政党のマニフェストを見ても、冒頭はまるで党首の写真集。タテマエは『政策議論を』と言いながら、リアルな部分ではイメージ選挙に頼っている面が必ずある。あらゆるメディアについて、こうした面を見なければいけません。『ネットの利用者が増えれば、テレビ選挙の時代より理性的な判断が行われる』というような話も、実はちょっと眉ツバなのではないかと思います。

 ただし、ネットは有権者が主体的に情報を探して選択していくことができるメディアなので、その点が有権者の意識を高める上で必ず役立つと思います。ネットはテレビと違って、個人と個人のつながりを強めることができます。その点では、テレビよりネットの方が“ドブ板選挙”の発想に近い面もある。そのことをもっと議員たちにわかってもらえるといんですが。

────ネット以外も含めて、選挙を理想的な形に近づけるには、どういったことが必要でしょうか。

 選挙制度自体を変えるべきでしょう。私はいわゆる“無党派層”を“自立派層”と呼ぶべきだと思うんですが、現在の選挙を業界団体まる抱えの現状から、自立派層の投票によって政治が変わるような形にすべき。たとえば世代別選挙区制度を導入するなどして、若い世代の意見を取り入れるのもいい。経済的に得をしている高齢者の意見ばかりが通る状態は望ましくありません。テレビ報道についても、大々的な速報特番を組んでいながら当落予想がよく外れるというムダをなくすなど、考え直す点は多いと思います。

 ネットに関しては、最終的な到達点はネット投票の実現です。現状では本人認証ができないなどの問題はありますが、ネットを使える人ならネットでも投票できるという仕組みを作れば、より完璧に有権者が意見表明できます。

 ネットは、単なる情報発信のためのツールではありません。テレビと違って双方向性を持っている点が特徴です。ネットで候補者の討論会をやるという程度では、テレビの延長線上でしかない。そうではなく、有権者の声を吸い上げることに力を入れるのが、ネット活用の理想的なあり方です。有権者の側にも、自分たちの意見を発していくツールとしてネットを活用するという意識が必要です。

────ありがとうございました。

  ◇ ◇ ◇

 高瀬教授のインタビューの中で、ふと気になったのが、ネット解禁が「なし崩し的に行われる可能性もある」という部分だ。

 2005年に総務省から政党ホームページ(HP)の更新そのものにストップがかかったというのに(第7回参照)、今回の参院選に際しては、少なくとも自民党・民主党・国民新党・共産党・社民党が明らかにHPを更新しており、公示後に党幹部の演説や講演の情報を追加している。大政党が横並びで「なし崩し」にかかっているようにも見える。

 しかし公示後に候補者の演説情報などを直接党HP内に追加しているケースは見当たらない(新党日本は、候補者の演説や政見放送の日程を掲載した非公式ブログのURLを党HPに掲載している)。テレビCM同様、「党の日常的な活動」という名目の範囲内のようだ。

 ネットを活用しようとしている点は評価したいが、これだけでは現行の選挙制度の整合性のなさに便乗する「なし崩し」でしかない。

 各党には、民主主義の向上に役立つ形でのネット解禁を目指してもらいたいものだ。


【関連情報】
『情報政治学講義』(2005、高瀬淳一、新評論)

【関連記事】
参院選をめぐり、ネット使用の動きに変化


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