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ネット選挙は先進国の常識だネット選挙運動を即刻解禁せよ! 第11回藤倉 善郎(2007-07-25 18:40)
2005年にネット選挙解禁の議論が高まったことを受けて、国立国会図書館では昨年、国政上の重要課題の背景・経緯・問題点などをまとめた小冊子で「諸外国のインターネット選挙運動」や「韓国の公職選挙法におけるインターネット関連規定」というレポートをまとめた。ここでは、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、韓国の5カ国の選挙制度におけるインターネットの位置づけなどがまとめられている。各国では選挙におけるインターネットの活用方法について規制や取り決めはあるが、活用を禁止してはいない。
自治省(当時)が2002年に行った「IT時代の選挙運動に関する研究会」の議事録や日本での新聞報道その他の文献をあわせて、海外のネット選挙運動事情をまとめてみる。 「規制はしても禁止せず」が世界の趨勢 政党のHP更新が公示日後も「政党活動」という名目で行われている今回の参院選。法整備はいつ追いつくのだろうか(撮影:吉川忠行) ◆アメリカ もともと選挙運動の規模や手段に関する制限がないため、ホームページ(HP)やメールの活用方法も自由。ネットも含めた選挙運動すべてについて、そこに費やす費用を規制しているだけ。 ネットの活用は、1992年の民主党の大統領候補予備選挙でブラウン候補が行った電子メールによる選挙運動がスタートと言われる。96年の大統領選挙ではネットの活用が急速に進み、候補たちがHPを開設して、政策アピールのほかボランティアの募集もHP上で行った。2004年の大統領選挙ではブログの活用によって、選挙資金の大半をネットでかき集め、候補者のブログに有権者が書き込んだアイデアを実際に採用するといった候補者も現れている。 ◆イギリス アメリカ同様、ネットの活用に法的規制はなく、費用面についての規制があるのみ。 同国では、主要政党がHPを開設した1997年の総選挙が「最初のインターネット選挙」と言われている。電子メールでは、支持の呼びかけのほか、選挙運動ボランティアへの参加呼びかけや、報道に対する反論も行われた。 しかし「政党によるインターネットの活用は、もっぱら一方的な情報の提供にとどまっている」(「諸外国のインターネット選挙運動」)とされ、アメリカとは違ってネットの双方向性が活用される気配はないようだ。 ◆フランス 選挙法の中に「インターネット」などの言葉は登場しないが、条文の解釈によってネット活用に細かい規制がある。しかし活用が禁じられているわけではなく、たとえば、 ・投票日前の一定期間は、ネット上での商業広告による選挙運動禁止。 ・投票日前日の午前12時以降、選挙運動に関連する情報の更改禁止(サイトを閉鎖する必要はない) ・ネット選挙運動にかかった費用は、選挙運動費用に繰り入れなければならない。 ・地方公共団体は、候補者の宣伝促進運動となる情報を、投票前の一定期間ネット上に掲載してはならない。 といった取り決めがある。つまり、ネット以外での選挙運動に際して課されている義務や規制が、ネットにも適用されている、という形だ。 2002年の大統領選挙、総選挙では、資金力のない候補者がネットを積極的に活用。中には、自らのヌード写真を自分のHPに掲載して注目された女性候補者もいた。 しかし他の先進諸国に比べてネットの普及が遅れているフランスにおいては、いまのところアメリカほどにはネットの重要性に注目は集まっていないようだ。 ◆ドイツ ネットの活用に制限はない。 1990年代半ばには主要政党がHPを開設しており、98年の総選挙以降、HP上での選挙運動に火がつく。「諸外国のインターネット選挙運動」によれば、候補者の個人HPは政党HPほど注目を集めていないという。 選挙運動とは別に、選挙情報を有権者にもたらす手法のひとつとして、政府の一部門である「政治教育センター」が政党の政策を比較するためのサイトを開設しているのがドイツの特徴だ。有権者は、30項目の政策について「同意」「中立」「反対」のどれかを選択していくと、自分の考えに近い政党がどこなのかを知ることができる。その後、この試みは州政府の選挙、欧州連合の選挙でも採用されているという。 ◆韓国 公職選挙法で、「候補者は自らが開設するホームページ、掲示板、チャット、電子メールを利用した選挙運動を行うことができる」といった趣旨で、ネットの活用を明文化している。同時に、選挙関連の情報を流すネットメディアに対して、掲示板やチャットにおいて投稿者の実名認証システムの採用を義務づけるなど、関連する規制はある。 「韓国の公職選挙法におけるインターネット関連規定」(白井京)によれば、ネットを活用した選挙運動がはじめて報道に登場したのは、1994年の国会議員補欠選挙。折りしも、同年に制定された公職選挙法では、少なくとも「自筆の書信、個人用コンピューター又は電話による」選挙運動は禁じておらず、中央選挙管理委員会も「パソコン通信を利用した選挙運動は可能」とする見解を出していた。 公選法にパソコン通信の活用が明確に規定されたのは1997年だが、当時「インターネット」を想定していなかったため、2002年の大統領選挙までの間に混乱も見られた。そこで04年と05年の法改正を経て、現在の形になっている。 ◆シンガポール ネットが普及してきた2001年ごろから選挙においてもネットの影響力が重視され、議会議員選挙法の改正と政府ガイドラインの整備が行われた。これによって禁止されている行為は、選挙結果予測や選挙資金の募金の呼びかけなど。 政党HPでは、選挙運動期間中に発行人などの氏名を明示しなければ政治宣伝を行うことができず、また、期間中は政党HP以外での政治宣伝は禁止されている。ネット上の報道についても規制は多く、政治的情報を含むサイトはシンガポール報道局への登録が義務づけられている。 見習うべきはフランスと韓国だ! いくつかの文献や報道を調べてみたが、ネットでの選挙運動を原則禁止としている国の事例を見つけることはできなかった。日本は、世界ではかなり特殊なケースなのだ。 アメリカ・イギリス・ドイツなどは、もともと選挙運動の規模や手法に関する規制が少なく、費用面での規制が中心であるため、ネットの活用については、とくだんの法改正も必要なかったようだ。ネット解禁の歴史は、「ネットが普及してきたから候補者もネットを利用するようになった」という、極めて単純な流れだった。 選挙運動の規模・手法がこと細かに規制されている日本は、この3国とは事情が全く違う。「欧米に倣って即解禁を」というわけにはいかないだろう。 参考になりそうなのは、フランスと韓国のケースだ。 フランスでは、ネット上での選挙運動は禁じていないが、商業広告による選挙運動の禁止や、投票日前日以降のサイト更新の禁止という細かい禁止事項がある。ネットの活用は「完全に自由」というわけではない。 日本の場合、もともとネット以外も含めた規制が厳しいことから、ネット解禁について、いきなりアメリカやイギリスのように「完全自由」にできるとは考えにくい。ネットの具体的な利用法についていくつかの禁止行為を設けた上での解禁になるはずで、事実、自民党案も「メールは禁止」「商業広告の利用は禁止」という内容を盛り込んでいる。 フランスにおけるネットの規制は、日本の公選法ほどナンセンスなものではなく、理にかなっていると思える面がある。たとえば商業広告の利用は候補者の経済力の格差が選挙運動に現れる可能性が高く、これを禁じるのは理にかなっている。投票日前日のサイト更新禁止は、短期間では収拾がつかないような情報の混乱を投票直前に起こさないためとすれば、必要なことと考えることもできる。 韓国は、ネット解禁にいたる経緯が欧米諸国よりは日本に近いと言える。 1994年に制定された韓国の公選法は、パソコン通信の利用を一部認めていた点で日本よりはるかに進んでいたが、インターネットについては規定がなく、日本のように選挙管理委員会が「インターネットは利用不可」とする態度をとっていた時期もある。 2002年の大統領選で当選した盧武鉉候補は選挙期間中、公式HP以外にネットテレビ、ネットラジオ放送のHPも開設。電子メールや携帯電話も威力を発揮し、盧武鉉陣営は、一度に80万人の有権者に文字や音声のメッセージを送ったとも言われる。同時に、陣営の運動とは別に支持者グループによる支援活動もネット上で活発に行われた。もちろん、ほかの候補もHPやネットテレビを積極的に活用した。 しかし当時、盧武鉉(ノ・ムヒョン)候補らが「オーマイニュース」上のネット生放送の対談で、予備選挙での支持を訴えようとしたところ、中央選挙管理委員会から「インターネットサイトは選挙法上定められておらず、対談は事前選挙活動となるため違法である」との理由で阻止されるという騒動もあった。こうした事例はほかにもあったようで、混乱を解消するために行われたのが04年と05年の法改正だった。 これによってネットの活用が公選法で明文化され、韓国はネット選挙運動でさらに日本より前進することになる。 韓国でネット利用が解禁された経緯を見ると、日本との最大の違いは、候補者や支持者の活動が日本よりはるかにアグレッシブである点だ。そして、そういった動きに法整備がすぐに追いついた点も見逃せない。 日本の候補者・支持者・官僚には、制度論や技術論ばかりにかまけないで、「状況に応じて必要な行動を速やかにとる」ことも見習ってもらいたいものだ。 【関連情報】 『ISSUE BRIEF』第518号「諸外国のインターネット選挙運動」(2006、三輪和宏) 『外国の立法』NO.227「韓国の公職選挙法におけるインターネット関連規定」(2006、白井京) 『シンガポールにおける最近の選挙制度の動向』(2002、財団法人自治体国際化協会) 「IT時代の選挙運動に関する研究会」議事録 『情報政治学講義』(2005、高瀬淳一、新評論) ネット選挙運動を即刻解禁せよ! トップページへ バックナンバー
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