桜井淳所長から東大大学院人文社会系研究科のH先生への手紙 -神学研究の方法 24-
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具体的な研究への視点を記してみます。
【研究の方法論】
研究の方法論は、『ユダヤ教の精神構造』(本欄バックハンバー参照)から読み取れます。重要な留意点は詳細にメモしておきました(本欄バックハンバー参照)。もちろん大変難しいことですが、繰り返し熟読吟味し、強い意志と問題意識の中でその研究の方法論を換骨奪胎すれば、具体的な研究テーマを見つけることができると確信しました。
【いくつかの問題意識1】
「旧約聖書」(原典はヘブライ語で書かれた46冊からなる書)で最も重要な部分は、モーセ五書ですが、その中でも特に重要なのは、「出エジプト記」(関根正雄訳『出エジプト記』、岩波文庫、1969)と受け止めています。いっぽう、「新約聖書」(原典はギリシャ語で書かれた27冊からなる書)で最も重要な部分は、4名による4種の「福音書」(塚本虎二訳『新約聖書福音書』、岩波文庫、1963)と受け止めています。ユダヤ教徒の間では、聖書と言えば、「旧約聖書」だけですが、キリスト教徒の間では、「旧約聖書」と「新約聖書」を意味しており、その解釈をめぐり、いまでも議論されているようです(同上、p.392)。私もこの問題考えたいと考えています。
【いくつかの問題意識2】
「新約聖書」のヨハネ福音書のヨハネは、12使徒のいちばん弟子の元漁師のヨハネと考えられていますが、イエスに洗礼を与えた長老のヨハネという解釈もあり、前者の説が優位ですが、まだ、確実なことは言えない段階のようです(塚本虎二訳『新約聖書福音書』、岩波文庫、p.412(1963))。ヨハネ福音書が流布されたのが紀元120-140年(同上、p.412)とされていますが、もし、書かれてすぐ流布されたとすれば、歴史的記録を吟味してみると、弟子の元漁師のヨハネの年齢は、少なくとも105-125歳となり、いっぽう、長老のヨハネの年齢も、誕生時期から推定するに、126-146歳となり、当時、それほど長生きできるとは思えず、両者とも年齢的な矛盾が生じてしまいます。しかし、死亡時期を記した歴史的記録を尊重して、書いた時期と流布した時期に40-60年のズレがあるとすれば、矛盾は解消します。私はこの疑問にこだわります。
【いくつかの問題意識3】
聖書の解釈は、自然科学の知識ではなく、高度な神学哲学を理解していないと、正しくできません。私は、物理学と社会科学の研究をしてきましたが、「旧約聖書」と「新約聖書」とも、聖書を物理学で解釈すると、いたるところで無理が生じ、受け入れがたいことが少なくありませんが、そこは物理学で解釈するのではなく、飛躍になりますが、神格化して無条件に受け入れなければならず、受け入れるところから、つぎの教えにつながって行くのです。私は、その意味で、歴史実証学と聖書解釈学の両者を尊重した学問を進めたいと考えています。強い問題意識を持って聖書を熟読吟味すると、矛盾が明確に浮き上がってくるため、研究テーマを定めることが、それほど難しいとは感じていません。
【いくつかの問題意識4】
歴史実証学と聖書解釈学から離れますが、聖書を生み出したユダヤ人の歴史を3700年遡って吟味してみましたが、世界第二次大戦中に発生したナチスドイツによるユダヤ人大虐殺(ホロコースト ; ユダヤ教の儀式に出される焼肉のことをこのように呼んでいます)については、明確な理由と原因が出てきませんでした。特に、大虐殺には、いくつもの矛盾点(利用された毒薬の即効性への疑問等)があって、何が真実か、また、よく分かっていない部分があるように受け止めています。これは現代史の問題ですが、検討に値すると受け止めています。
【いくつかの問題意識5】
歴史実証学と聖書解釈学から離れますが、聖書を生み出したユダヤ人が、パレスチナを占拠して1948年にイスラエルを建国し、それまでパレスチナに住んでいたパレスチナ人(ユダヤ人やアラブ人)をイスラエルの領土内の特定の自治区であるパレスチナ自治区(ヨルダン川西岸地区とガザ地区)に追いやったが、ユダヤ人の歴史を3700年遡って吟味してみましたが、過去に彼らがされたことをそのまま、パレスチナ人に報復しているように受け止められます。これは現代史の問題ですが、中東の政治と経済を含め、検討に値すると受け止めています。
【いくつかの問題意識6】
神の国がなぜ核を保有(イスラエル)しているのか(本欄バックナンバー参照)、また、これから保有(イラン、さらに、その兆候は、シリアにも表れています)しようとしているのか、これは現代史の問題ですが、世界の核拡散の問題まで含めて、検討に値すると受け止めています。
【いくつかの問題意識6】
比較宗教論の観点から、ユダヤ教、ヒンドゥー教、儒教、仏教、キリスト教、イスラーム教の基礎事項や経典は、ひととおり勉強しますが、必要最小限に留め、歴史実証学と聖書解釈学を基にした聖書哲学や神学哲学の追究に徹したいと考えています。桜井淳