08年4月から栄村診療所に勤めた市川俊夫医師(81)が27日退任する。無医村になりかけた村の一大事を救った市川医師の男気に多くの村民が感謝し、別れを惜しんでいる。【大平明日香】
24日夜、市川医師が住む村営住宅に、旧水内村(現栄村)の中学代用教員時代の教え子らが集った。
「また、先生に会えたなんて。こんな夢みたいな話はなかったよ」「ずっといてもらいたいけど、仕方ない」
教え子の油科修平さん(75)や島田房代さん(75)らは杯を交わしながら、再び訪れる別れを惜しんだ。
市川医師は昨年4月、東京都品川区の診療所から、亡き父の出身地である栄村に、1年間の期限付きで単身赴任した。「仕事よりも、単身赴任の方が大変だった。特に食事がね」と振り返り、住民や教え子らの差し入れにも助けられた。新緑や紅葉、樹氷……豊かな自然にも癒やされたという。記録的な暖冬で用意した長靴もあまり履かずに済んだ。
村でたったひとりの医師のため、週に1回は50分かけて秋山郷へ通った。
村唯一の特別養護老人ホーム「フランセーズ悠さかえ」の回診も担当。夜中に呼び出されてみとったこともあった。半藤則子施設長は「わずか1年だったけれど、利用者を丁寧に診てくれて、施設の方針も理解してもらった。本当に感謝している」と話す。
退任後、市川医師は東京都大田区の自宅へ戻る。今後の仕事については未定だ。
「しばらくはのんびりしたい。けれど、品川の職場などから頼まれたら、またやるかもなあ」。生涯現役。静かに宣言しているようだった。
退任する27日午後は、役場で島田茂樹村長が感謝状を贈り、職員が温かく見送る。
毎日新聞 2009年3月26日 地方版