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総合周産期母子医療センター:東京・愛育病院が「指定返上」

 東京都港区の愛育病院(中林正雄院長)が、都の総合周産期母子医療センターの指定を返上すると都に申し入れたことが25日分かった。労働基準監督署が、医師らの夜間の勤務体制について是正勧告したのを受け、「改善は難しく、センター機能を継続することは困難」と判断した。【河内敏康、江畑佳明、永山悦子】

 ◇労基署は勤務改善と言うが… 医師数足りず現状維持が限界

 申し入れの背景には、危険性の高い妊産婦に対応する医師の人手不足がある。現在、都と病院の間で指定解除を回避する協議が続いているが、実際に指定が解除されれば全国初。同様に人手不足の事情を抱える全国の他のセンターにも影響が及びそうだ。

 愛育病院によると、三田労働基準監督署が1月、同病院の勤務実態を調査。今月17日、労働基準法に基づく是正勧告を出した。勧告は、医師が労基法上の労働時間(週最大44時間)を大幅に超えて働く実態や、夜間勤務中の睡眠時間を確保していないなど適切な勤務体制を取っていないことに改善を求めた。

 99年に同センターの指定を受けた愛育病院は、センター機能を確保するため、夜間は2人体制で対応してきた。

 しかし労基署は「夜間も昼間同様の勤務実態がある」として、要員増の必要性を指摘。これに対して愛育病院は「夜間勤務が可能な常勤医師は5人しかおらず、労基署が求める体制は難しい。現在と同水準での夜間受け入れが継続できないので、センター指定の返上を決めた」と話す。

 都は「労基署は『こうしたらいい』と求めているのであって、センターの看板を下ろすほどではない。今後も協議を続けたい」と話している。

 愛育病院は恩賜財団母子愛育会が運営し、38年開業。皇室とのゆかりが深く、06年には秋篠宮妃紀子さまが長男悠仁さまを出産した。

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 ■解説

 ◇現場負担、放置のツケ

 愛育病院が、妊産婦や新生児にとって「最後のとりで」である総合周産期母子医療センター指定の返上を東京都に申し入れた問題は、安心な医療体制を維持しようとすれば労働基準法を守れない過酷な医師の勤務実態を浮き彫りにした。

 多くの産科施設では医師の夜間勤務を、労基法上は労働時間とみなさない「宿直」としている。宿直とは巡回などの軽い業務で、睡眠も取れる。だが実際の夜間勤務は、緊急の帝王切開手術をするなど日中の勤務と変わらない。厚生労働省は02年3月、こうした実態の改善を求める局長通達を出していた。

 しかし、全国周産期医療連絡協議会が08年、全国の同センターを対象に実施した調査では、97%が「宿直制」をとっていた。77%は夜間勤務明けの医師が翌日夜まで勤務し、翌日を「原則休日」としているのはわずか7%しかなかった。

 労基法を守ろうとすれば、医師を増やし、日勤-夜勤で交代する体制を実現するしかないが、産科医は減り続けている。06年末の厚労省の調査では、産婦人科医は1万1783人で、96年から約12%減っている。全国の同センターも、少ない医師でやりくりせざるをえないのが実情だ。愛育病院のような動きが広がれば、日本の周産期医療は崩壊の危機に直面する。

 産科の医療体制整備に詳しい海野信也・北里大教授は「医療現場は患者に迷惑をかけないように無理してきたが、労基署の勧告は『医療現場に過度の負担をかけるべきではない』との指摘だ。事態を放置してきた国の責任は重い」と批判する。【河内敏康、永山悦子】

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 ■ことば

 ◇総合周産期母子医療センター

 危険度の高い出産の「最後のとりで」として、未熟児や新生児、母体の救命を目的に設置された産科施設。母体・胎児集中治療室(MFICU)や、新生児集中治療室(NICU)を備え、複数の医師が24時間体制で患者を受け入れる。昨年8月現在、全国に75施設ある。

毎日新聞 2009年3月26日 東京朝刊

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