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HIV「啓発」の具体的視点を
宙に浮いた大阪府医のHIV検査診療所
2009.3.23
HIVの感染予防、早期発見・治療への取り組みが、再びクローズアップされ始めている。特に大阪では、献血者のHIV陽性比率が群を抜いて高いこと、若い男性の感染が増加していること、昨年夏に行った啓発キャンペーンに強い関心が集まったことによって、総合的対策の推進に対して市民、医療者の意識は高まっている。
大阪市でのエイズ患者・HIV感染者報告数は、年々増加傾向を続けており、2007年は158人を数えた。これは全国の10%以上を占める。特に日本人男性の占める割合が94%と高く、そのうち20〜30代が9割以上を占める。
背景には全国平均より20%も多い、同性間性的接触による感染(84%)の問題がある。昨年、献血者のHIV陽性比率が大阪は群を抜いて高いというデータも衝撃を持って伝えられた。献血でのHIV陽性者発見数は、07年26件で、東京都の17件を上回る。
そうした中で、大阪では昨夏からHIV検査体制が強化され、大阪府は大阪市浪速区でHIV検査診療所の「チョットキャストなんば」を開設して、週4回の検査を実施している。これによって、週間平均で200人程度が検査を受けるようになり、献血での陽性率は急速に下がるなどの効果が表れ始めている。
●「診療所」受託で意見分かれる
このHIV検査診療所「チョットキャストなんば」について、大阪府医師会は4月からその運営を受託する予定にし、約4300万円の委託費を国、府、市から受けることにしていた。ところが、この方針を織り込んだ事業計画が、3月12日に行われた代議員会で修正された。結局、「HIV検査診療所の運営に積極的に参画する」という文言は削除され、「啓発事業を推進する」という計画に変更された。要するに現時点では、府医による検査診療所の運営は宙に浮いてしまったのである。委託を予定していた大阪府も現状では困惑を隠しきれないでいる。
受託を提案した府医執行部は、「HIVの検査体制の整備、充実は喫緊の課題だ。検査診療所の存在はすでに効果を挙げ始めており、これに府医が参画することは、すなわち府医の行う一番大きな啓発事業」としている。委託に関しては、大阪府が1月に府医にオファーし、府医はその後の理事会で受託を決めた経緯がある。
修正動議を出した受託反対の代議員の主張は、「HIVの啓発事業を行う重要性は十分に認識している」が、提案が説明不足の上に、運用上の種々の問題が多すぎるというものだ。
基本的には、医師会が検査のための診療所を運営することはリスクが大きいということのほか、現事業に参画している複数のNPO法人との関係、責任体制などの不透明感も指摘している。その上で、「HIV検査は本来行政の仕事。府医は啓発事業に専念すべきで、診療所の運営受託は認められない」という。
●審議を尽くすことが先決
HIV検査について東京都は、検査と相談を行う「東京都南新宿検査・相談室」について、業務を都医師会に委託している。ただ、都医は「検査診療所」運営を受託しているわけではない。府医執行部は都医も受託しているとみるが、反対側は「(都は)医師会立の診療所ではない」と反論する。責任の所在自体が違うという主張だ。
大阪のHIV感染は若者の男性同性愛によるものが非常に大きな割合を占め、中学生、高校生の時点からの啓発活動が不可欠だという指摘がある。その意味でも、反対側の「医師会としての啓発活動は検査診療所を受託しなくても、やるべきことはたくさんある」という主張もうなずけないわけではない。しかし、府医執行部のいう「検査受託がすなわち最大の啓発事業」という主張もそれなりの説得力はある。
代議員会での論議が不十分だったという指摘も、代議員の多数が今回修正に賛成したことからみて説明不足だったのは事実だ。しかし、HIV検査・相談体制を医師会が受託する社会的意義も無視することはできないのではないかと思う。東京都方式が参考になるわけであり、審議を尽くして、医師会としての体制整備を進める方向で結論を得てほしい話である。(大西 一幸)
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