飲食店経営者に再認識求めたいフグ肝の危険性
日本は食品衛生が行き届いている点で、世界最高レベル。それでも、不幸にして食中毒による死亡事故は起こっている。ただ、毎年わずか数人だけだ。その中にほぼ毎回含まれるのが、動物性自然毒による中毒死。それは、フグの肝や卵巣に含まれる猛毒のテトロドトキシンの作用だ。2007年は食中毒で7人亡くなったうち、3人が動物性自然毒の中毒死だった。
フグ毒で亡くなるパターンは決まっている。大抵、自分が釣ったフグを見よう見まねでさばく素人調理が原因だ。飲食店での事故がほとんどないのは、調理師はフグ肝の危険性を勉強しているから。自治体によってはフグ調理師免許制を設けているし、それ以前に食品衛生法とそれに基づく厚生労働省の通知によって、フグの肝と卵巣、種類によっては精巣を提供することが禁じられている。飲食店は食品衛生責任者を置かないと、営業許可が得られないが、責任者は地域の保健所などで食品衛生講習会の受講が義務付けられている。つまり、飲食店を経営している限りは、「フグ肝は危ない」ことを認識していると見てよい。
ところが、今年1月に山形県で起こった事件は、飲食店がお客に出したフグが原因だった。食にかかわるプロでも、こんなひどい認識不足があったのかと呆れるばかりだ。一部メディアは、山形県にフグ調理師免許を規定する条例がなかったからと、行政責任を追及していたが、県が規定する「要綱」がその役割を果たしている。私はむしろ、飲食店経営者の責任を追及すべきと考える。飲食店が「当店の料理は無添加なので安全です」と非科学的なことを言うのも問題だが、フグ肝は命にかかわる究極の食の安全問題として、まずは正しく認識してほしい(この記事は『日経レストラン』2009年3月号の掲載コラム「食の安心安全」を再掲載したものです)。
文=中野 栄子 (「Food・Science」)
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