■コミュニケーションの重要性

三浦トレーナー（左）との二人三脚で頂点まで上り詰めた【 Photo　by　BBM 】

　選手のためにできることに全力を尽くす。だからこそ、選手が勝ったときは自分の勝ちよりもうれしいと言う小林。技術面だけでなく精神面のサポートも欠かせない指導者として、寸暇を惜しんで選手たちの指導に当たっている。

「選手に勝たせる１勝と、自分で勝つ１勝とでは、あきらかに選手に勝たせる１勝が難しいです。自分が勝つには自分が頑張ればいいけど、選手が勝つには、自分がいくら頑張ってもどうにもならない部分がありますから。
　それに、いろいろと言っていい選手と、言ってしまうと考え込んでしまう選手がいますから、そのあたりの見極めが大切かなって思います。技術を教えるだけでなく、ある面ではカウンセラーにもならなければいけないので大変ですが、逆に言えば楽しいですよ。
だからこそ、選手とはコミュニケーションを図らなければいけないんです。指導者で一番してはいけないことは、選手とコーチの関係で、選手がコーチに何も聞いちゃいけない、言っちゃいけない、そんな関係や雰囲気を作ってしまうことだと思います。選手が分らなかったら、『ここが分からないんです』って聞けるような関係を作らなければいけないし、聞かれたコーチも、その練習をやる意味を明確に伝えてあげなければ、選手が本当の意味で理解したことにはなりません。そんな状態で練習しても本当の力にはなりませんから。
　そのあたりを徹底しないと選手の心には響かないでしょうし、ついて来ないと思います。そんな関係を作って着実に力をつけていきながら、その子の長所を見極めて伸ばしてあげるというのが理想かなって思います」

■「技術を身に付けた上でのメンタル」

　どんなスポーツでもそうだが、メンタル面の強さはレベルアップするためには欠かせない要素である。しかし、だからといってそれが強いだけで勝ち続けられるほど、ボクシングは甘いスポーツではない。

「確かに、メンタル面で強くなければ教えた技術を本番では使えません。練習でできても試合でできなかったら、それはできないと一緒です。僕がよく言うのは、『試合に出せて、初めてそれは実力なんだよ』っていうこと。スパーリングでどんなに強くても、試合で出せなかったら、まだそこまでの力はありません。だから試合で出せるように頑張ろうってアドバイスします。ただ、しっかり練習して、ある程度の技術を身に付けた上でのメンタルだと思っています。技術だけでも勝てないし、気持ちが強いだけでも勝てませんから。そのあたりのバランスは大切ですね」

■尊敬する師に倣うこと

　指導者としての道を歩み始めて４年ほどが経過した。選手としては頂点を極めた小林が、次に目指すものとは何なのか、そのあたりを聞いてみた。

「クラッシャー三浦（三浦会長の現役時代のリングネーム）を越えたいですね、自分のコーチを。今でもあの人が僕の先生ですから。先生に少しでも追いつけるように頑張りたいですね。三浦会長は人間味があって温かいんですよ、だからこそ選手との信頼関係が生まれるんだと思います。もちろんそれだけではなく、戦術面でとても優れた目を持っているんです。その目で対戦相手を見て、的確に相手を分析してくれるんです。『お前のこの部分が有効だぞ』みたいなね。
　僕は三浦会長とはまたタイプが違いますが、選手との信頼関係をしっかりと築けるような指導者になりたいです。これからも努力を重ねて、少しでも先生との距離を縮めたいですね。三浦会長も僕のことを心配してくれていますし、今でもアドバイスを求めたりしています」

　ある面で大器晩成のボクサーとも言える小林は、自らの経験から４回戦や６回戦で負けることなど気にも留めていない。昔はおじいさん扱いであった２５歳を越えてからもボクサーとして成長していくと考えている。ボクシングをあきらめず続けることで、強豪へと“化ける選手”だけでなく、化けられていない選手に対しても、焦らずじっくりと構えて選手の成長を待つ。そこに指導者としての手腕が問われていると語るその姿には、自信が満ちあふれていた。（文中敬称略）

＜この項、了＞

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