今、最も盛り上がっているPCパーツと言えば、SSD(Solid State Drive)、特にNANDフラッシュメモリを用いたSSDだろう。急激なバイト単価の向上により買いやすくなったことで、一般ユーザーの手に届くものになってきた。そのペースが速すぎて、商品の陳腐化のスピードにユーザーがついていけなかったり、メーカーの想定を越えるヘビーな使い方で思わぬ弱点(短時間システムのレスポンスが停止する、いわゆるプチフリ等)が露見したりと、必ずしも良いことばかりではないが、こうしたデメリットも含めた「祭り」になるデバイスが登場するのは久しぶりだ。 そのSSD市場は、現在ほぼ真っ二つに分かれている。秋葉原の店頭で中心となっているのは、OCZ、MTRON、PATRIOT、PhotoFastといったベンダ。一方、大手のノートPCやNetbookに採用されているSSDは大半が、Samsung、SanDisk、東芝といった、NANDフラッシュメモリを内製する大手メーカー製だ。大手が内製の利による安定供給を武器にOEMを中心にした営業を展開中であるのに対し、小回りの利くサードパーティが店頭を中心に活躍しているという構図である。いまのところ、NANDフラッシュを内製するメーカーのうち、Intelが店頭向けにリテール製品としてSSDを販売している。また、Samsungなどもバルクの形で店頭に並んでいる。 NANDフラッシュメモリの量産に関して、このIntelのパートナーとなっているのがMicron Technologyだ。両社が合弁でNANDフラッシュメモリ量産会社であるIM Flash Technologiesを設立したのが2006年1月のこと。持ち株比率はMicronが51%、Intelが49%となっている。すでに名前の挙がったSamsung、東芝/San Disk(NANDフラッシュで両社は協業中)にHynixとIM Flash Technologyを加えた4社がNANDフラッシュメモリの4強であることを考えれば、IntelのパートナーであるMicronがSSDに参入しても何の不思議もない。 実は、MicronにもSSD製品は存在していた。が、その主力がUSBインターフェイスを備えた産業用の組込タイプであったため、一般のPCユーザーに馴染みのある製品ではなかった。このMicron製品とは別に、一般消費者向けの直販子会社であるLexar MediaもSSD製品を手がけている。 Lexarというと、CFカードやSDカードといったメモリカード製品、特にデジタルカメラで利用するメディア製品の印象が強い。が、IM Flash Technologyが設立されたのと同じ2006年の6月、Micron Technologyに買収された。そして、PC用のメモリモジュールベンダとして知られるMicron子会社のCrucial Technologyと統合され現在に至っている。今もメモリモジュール製品にはCrucialのブランドが使われているが、会社としてはLexar Mediaということになる。逆にこの統合に伴い、Crucialブランドのメモリカードはなくなった。 このLexar MediaのSSD製品としては、2.5インチサイズの32GBと64GB、ASUSのEeePCやDellのInspiron mini 9用の内蔵SSD(以上、Crucialブランド)、ExpressCard型のSSD(Lexarブランド)がラインナップされているが、残念ながらわが国では販売されておらず、なじみが薄いのも無理はない。ただ、Micronのメモリモジュール(大手PCベンダへのOEMがほとんど)と、Crucialのメモリモジュール(エンドユーザーへの直販向け)が、同じMicron製のDRAMチップを使っていても、モジュールとしては別製品であったように、MicronブランドのSSDとLexar/CrucialブランドのSSDは、同じIM Flash TechnologyのNANDフラッシュチップを使っていても、個別に設計されたものになるだろう。
さて、Micron TechnologyのSSD製品だが、「RealSSD」というブランドで製品化されている。現時点で販売されているのは上述したUSB対応の組込用SSD(1GB〜8GB)だが、一般的なHDDと置き換え可能なSSDもサンプル出荷が始まっている。 そのうちバイト単価に優れたMLC NANDフラッシュを採用するクライアントPC向け製品がC200シリーズだ(Cはクライアント向けの意)。2.5インチおよび1.8インチサイズでSATA 3Gbpsインターフェイスを備えるC200シリーズは、容量が30GBから240GB。サステインでのデータ転送レートは読み出しが170MB/sec、書き込みが70MB/secとされる。サステインということなので、シーケンシャルのピークよりは、厳しい基準での性能指標ということになるが、ランダムアクセス性能については公表されていない。
一方、SLC NANDフラッシュを採用するエンタープライズ向けSSDがP200シリーズだ。25GB〜100GBの容量を備えるP200シリーズは2.5インチサイズのみで、インターフェイスはSATA(3Gbps)。サステインでのデータレートが読み出し時180MB/sec、書き込み時115MB/secと、C200より強化された性能を持つ。Pはパフォーマンスの頭文字とされる。また、用途を意識して、C200より予備のブロックを多く確保しているという。
C200/P200とも、現在サンプル出荷中で、第2四半期に量産開始、後半に出荷が始まる見込みだ。採用するコントローラはサードパーティとの共同開発品であるとのことだが、内製のコントローラも開発中だとしている。 このC200とP200は、いわばMicron製SSDの第1世代で、50nmプロセスによる製品だ。が、すでにIM Flash Technologyは次世代の34nmプロセスの開発を終えており、2カ所ある300ウェファ工場の1カ所がすでに34nmプロセスに切り替わっているという。この34nmプロセスのNANDフラッシュを使った製品も、今年の後半には発表される見込みだ。34nmプロセスのNANDフラッシュは、現時点における最先端であり、他社に先駆けて最先端プロセスを利用できることがIM Flash Technologyが持つアドバンテージの1つとなっている。 加えてMicronは、SSDメーカーとして顧客と競合することがない点も、OEMを獲得する点で有利に働くとMicronは言う。グループ内にPC事業を持つSamsungや東芝とは違うというわけだ。すでに多くのサーバーベンダにメモリモジュールを納品している実績も、エンタープライズ向けSSDを販売する際にアドバンテージになるだろう。 残念なのは、Intel製と違って、MicronのSSDが、ユーザー向けに直接販売されることがないと思われることだ。最も確率が高い入手方法は、大手PCベンダのノートPCの内蔵ドライブとしてであろう。とはいえ、エンドユーザー向けには販売されていないSamsungのSSDがバルク品として並ぶ秋葉原のこと、同じような形であれば、Micron製SSDを入手することが可能かもしれない。 NANDフラッシュメモリの大手メーカーだけに、供給量や技術力には信頼が置ける。パートナーであるIntelのように、日本市場でも積極的に活動して欲しいメーカーの1つだ。OEMが主体になるのだろうが、バルクの形ででも単体で店頭に並ぶことを期待したい。
□Micron Technologyのホームページ(英文) (2009年3月24日) [Reported by 元麻布春男]
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