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日本と核軍縮―オバマ時代が勝負どきだ

 「核のない世界」を目指すと公約して当選したオバマ米大統領が来月初め、ロシアのメドベージェフ大統領との初の首脳会談に臨む。両核超大国が新たな核軍縮の道筋をどう描くか。これが大きなテーマである。

 実は過去に、核廃絶に肉薄した両国の首脳会談があった。1986年10月。アイスランドのレイキャビクでの会談では、いつまでに核を全廃するかという期限さえ話題になった。

 この時は、宇宙にまでミサイル防衛網を張り巡らそうとしたレーガン米大統領にソ連のゴルバチョフ書記長が反発し、話は具体化しなかった。それでも、真剣に「核のない世界」に目を向けた歴史的な会談だったのは確かだ。

 それから20年以上の年月が流れ、オバマ氏が再びこの目標に挑戦する。廃絶への道が険しいことは論をまたない。けれど、核をめぐる歴史的な転換点に世界がさしかかっていることは間違いない。この好機を何としても生かさねばならない。

■まず米ロで大幅削減を

 唯一の被爆国であり、核廃絶を求めてきた日本に何ができるか。米国と協力し、後押しし、オバマ公約を実現させるにはどう動くべきなのだろうか。

 大統領選挙でオバマ氏の核政策チームを率いたイボ・ダールダー氏が、北大西洋条約機構(NATO)大使になる見込みだ。そのダールダー氏は昨年、外交評論誌「フォーリン・アフェアーズ」にこんな提言を書いている。

 核保有国も、軍事利用可能な核物質を持つ国も増えている。いま核廃絶へと踏み出さないと、核兵器が使われる危険が高くなる――

 米国が核を持つのは、相手国に核兵器を使わせないよう阻止することに目的を限定する。核弾頭の数は1千発以下で十分であり、核廃絶を受け入れる諸国との連帯を広げていくべきだ――

 こうした考えのダールダー氏を政権の要職に置くところに、オバマ氏の核軍縮への本気さが見てとれる。

 現在、米国とロシアは合わせて約1万発の核を持つといわれる。双方とも一刻も早く1千発以下にし、さらにその先の軍縮にも取り組むべきだ。これに向けて日本は米国の決断を促し、ロシアとの真剣な交渉に臨むよう働きかけていきたい。

 日本が米国を後押しするには、「核の傘」の問題を避けて通れない。

 日本周辺には、軍備増強する中国、北朝鮮の核問題という現実がある。この環境で、米国はどこまで核を減らしても大丈夫なのか。日本が核の傘に頼るあまり、「米国の急激な核軍縮は困る」と言い出すようでは元も子もない。核の役割を小さくしつつ、日本の安全や地域の安定を確保する手だてを日米両国は編み出さねばならない。

 すでにオバマ政権は、核兵器の役割を再検討する作業を進めている。日本は、核廃絶への道筋とそこへいたるまでの核兵器の役割などの大きな戦略について、米国との対話を深めるべきだ。米国もそれを望んでいる。

■賢人提言を行動に移す

 核不拡散の態勢をどう立て直すかも急務だ。来年、ニューヨークで開かれる核不拡散条約(NPT)再検討会議は当面の大きなヤマ場になる。

 NPTは、保有国が軍縮するかわりに、非核国は保有の道を捨てるという理解のもとに成り立っている。ところが05年の再検討会議では、軍縮に不熱心だったブッシュ政権が壁になり、何の文書も採択できなかった。

 北朝鮮やイランなどの核問題で、国際的な不拡散の取り組みは信頼性が揺らいでいる。オバマ政権が本気で核軍縮への熱意と行動を示さないと、NPTの足場は一段と悪くなる。

 オーストラリアのラッド首相の提唱で、日豪共催の形で設けられた「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」をいかしたい。世界の有識者15人によるこの委員会は10月、広島での会合で提言の大枠をまとめる。核廃絶に向けて、米ロ軍縮や米国による包括的核実験禁止条約の批准、兵器用核物質生産禁止条約をつくる多国間交渉の開始など、段階的な行動計画を示す予定だ。

 米国はこの提言を生かし、再検討会議でNPTの信頼回復の先頭に立つべきだ。日豪で力を合わせ、米政権の説得にあたってもらいたい。

 核拡散防止では、国際原子力機関(IAEA)の役割も重い。原子力平和利用を隠れみのにした核開発を防ぐには、査察能力の向上が欠かせない。26日からは次期事務局長選挙が行われる予定で、天野之弥大使が立候補している。経験、識見から見て天野氏は適任であり、当選すれば今後の日本の貢献を広げていく重要な柱になろう。

■非核はソフトパワー

 「非核の日本」という看板は、強力なソフトパワーだ。これをうまく使って廃絶への国際連帯の輪を広げられれば、オバマ氏への後押しになる。

 核軍縮に冷ややかだったブッシュ時代と違って、日米の意見はぐんと近くなった。オバマ大統領が来日する際には、国会で「核のない世界」演説をしてもらってはどうか。さらに進めて被爆地での演説となれば、国際社会へのメッセージ力はより強まるだろう。

 逆に、オバマ大統領の意気込みが不発に終わると、核軍縮は冬の時代に逆戻りするかも知れない。被爆者の高齢化も進むなか、日本の非核外交にとってオバマ時代が勝負の時である。

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