ここから本文です。現在の位置は トップ > 地域ニュース > 秋田 > 記事です。

秋田

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

危機の現場:09知事選を前に/1 地域医療 /秋田

 人口減少や高齢化が著しく、地場経済も低迷する秋田。この地域で長く、よりよく暮らしていくためにはどうしたらいいのか。医療や農業、雇用など県内のさまざまな現場で、危機的な状況に立ち向かう懸命の努力が続いている。4月12日投開票の知事選で12年ぶりに県政のかじ取り役が交代する前に、それぞれの今を追った。

 ◇医師不足が経営直撃 負の連鎖断てるか

 雪が舞う3月半ばの厚生連雄勝中央病院(湯沢市)。午後6時を回り、夜間当直の久保信之医師(63)のもとを最初に訪れたのは男の子(6)とその母親(29)だった。「保育園でインフルエンザかもしれないといわれて」。心配そうな母親の声に子供のせきが重なる。検査後しばらくして「まずは安心して」と久保医師が声をかけると、母親の表情がようやく緩んだ。

    ◇  ◇

 インフルエンザを心配する高齢の女性、子供がたんこぶをつくり、脳への影響を心配し連れてきた母。途絶えることもなく時間は過ぎていく。

 時計は午後7時40分を回る。「きょうは少ないほうですね」。そんな話をした時、救急車で患者が運ばれてきた。スリップによる単独交通事故。市内とはいえ病院から約30キロ離れた秋ノ宮から男性3人が運ばれてきた。緊張を帯びる救急病棟に脳外科の大久保敦也医師(37)が駆けつけ「あとはこちらで」と引き継いだ--。

    ◇  ◇

 平穏ともいえないが、大きな混乱もなく過ぎていく現場。毎晩続く一コマだが、安定した診療ができるのは地域の大きな支えがある。

 同病院では昨年6月から、夜間救急外来に湯沢市雄勝郡医師会(小野崎幾之助会長)所属の地元開業医ら12人が交代で午後6時から約2時間応援に入る。市内で内科を営む久保医師もその一人だ。夜間外来患者の8割近くはこの2時間に集中するため、中村正明院長(57)は「勤務医の過重な負担が和らぎ、ありがたい」と感謝の言葉を惜しまない。

    ◇  ◇ 

 同病院の脳外科医はわずか2人で、急患対応は夜間対応を交互に受け持つ。当直は月2回程度だが、この日は日中に手術し、術後も患者の容体をみて病棟を離れられない状況が続き、応援がなければ、十重二十重に気を張らせたまま36時間の連続勤務をこなさなければならなかった。

 大久保医師は「非常に助かっている」と話し、久保医師も「重症患者の受け入れなどで世話になっており、病院の実情もよくわかる」と話す。

    ◇  ◇

 ただ、手放しで喜んではいない。「このような仕組みは、決して理想ではない。あくまで応急措置」と久保医師。中村院長も「もちろん善意に救われているわけだが、地域が支えてくれるのは、お宅が倒れるとうちも倒れるという危機感があるから。それぐらい現場は切実だ」と訴える。一つ崩れれば別の病院に患者が殺到しドミノのように地域医療が崩壊していく。そんな危険を恐れている。

    ◇  ◇

 県内に9カ所あり、地域医療を支える農協系の厚生連病院。県はこの2月、経営安定化に向けて13億4607万円の緊急支援を決めた。運転資金にまで県が手を貸すのは初めて。県議会では一部から異論も出たが、県内の中核医療を担う重要性から決断した。

 中村院長は「赤字の原因は単純。医師不足で診療収入が減っている」と指摘する。

 雄勝中央病院の場合、05年8月の移転新築費の負担が重くのしかかることもあるが、08年4月末までに消化器科の医師2人が辞め1人になったことで赤字が加速。開業医の夜間支援に市が約2900万円の支援を始めたが、根本的な解決にはならない。

    ◇  ◇

 県と厚生連によると、07年3月から08年11月までに由利組合総合病院は内科や消化器科、精神科で7人減り、鹿角組合総合病院でも消化器科の医師2人が減った。人が減れば残る勤務医の負担が増し、さらに勤務医離れが進む。そして診療科の減少が経営に直撃する--。負の連鎖は、地域医療崩壊という悪夢を現実にしかねない。

 また医師が秋田市周辺に集まり、県北、県南は少ないという地域偏在を生んでいる問題もある。患者団体らが昨年、偏在是正などを求めて県に提出した署名は約3万8000人分に上った。

 中村院長は言う。「まちは雇用と医療がなければ住めない。だから地域の医療は私たち地域で守る。とはいえ、やはり限界はある」【百武信幸】

毎日新聞 2009年3月20日 地方版

秋田 アーカイブ一覧

 
郷土料理百選

特集企画

おすすめ情報