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今どきお産事情:/6 「母乳だけで」意欲強く 栄養、免疫…研究進み広まる利点

 ◇「十分出ない」悩む人も--思い詰めず相談を

 「赤ちゃんを腕だけで支えないで、クッションや枕を上手に使って」。1月、東京都新宿区の「オケタニ母乳育児相談室東京」での「プレママ教室」。出産後、順調に母乳育児ができるようにと、出席した妊娠5~10カ月の女性5人は新生児と同じ約3キロの人形をひざに乗せ、助産師から授乳時の赤ちゃんの抱き方の指導を受けた。故郷・福島県での出産を予定している都内の女性(33)は「母乳が出るかどうか不安で参加した」と話す。相談室の武市洋美さんは「産む子どもの数が減り、今のお母さんは何でもやってあげたいという意識が強い。母乳がよいと聞き、『母乳だけで頑張りたい』という人が増えた」と話す。

   ◇   ◇

 母乳育児支援を進める神奈川県立こども医療センターの大山牧子新生児科医長は「近年研究が進み、母乳の良い点がたくさんわかってきた」と話す。

 母乳には多量の免疫物質が含まれている。特に産後数日間に分泌される「初乳」には免疫グロブリンAという物質が多い。この物質は、赤ちゃんの腸の粘膜を覆い、ウイルスや細菌から守る。

 母乳は赤ちゃんの状況に応じて成分や量が変化するという。例えば、乳児の脳や視覚の発達に重要な役割を果たす脂肪酸DHA(ドコサヘキサエン酸)は主に妊娠後期に胎盤を通じて胎児の脳に蓄積される。早産の場合、赤ちゃんはDHAを十分蓄積できずに生まれてくる。その代わり、早産の母親の母乳にはDHAが多く、不足分を補っているという。

 一方、風邪などで服用する薬の影響を気にする人も多いが、大山さんは「抗がん剤など特定の薬以外、ほとんどは害にならない」と話す。授乳中に使用しても問題ないとされる薬と使用不可の薬は、国立成育医療センターのサイト「妊娠と薬情報センター」(http://www.ncchd.go.jp/kusuri/index.html)で見られる。

   ◇   ◇

 最初から母乳がたくさん出て、赤ちゃんも飲むのが上手なケースは多くない。厚生労働省の05年度乳幼児栄養調査によると、妊娠中は「ぜひ母乳で」「母乳が出れば母乳で」と考えていた母親は計96%だが、生後1カ月に母乳のみで育てていたのは42%。同時期に粉ミルクのみで育てていた5%のうち、半数以上は「母乳が出ない」との悩みを抱えていた。

 埼玉県越谷市の女性健康相談には「十分に母乳が出ない」という相談も多い。回答者の鈴木幸子・埼玉県立大教授は「赤ちゃんに栄養が足りていないかどうかは実際に診ないとわからない。病院の母乳外来や市区町村の家庭訪問の制度を利用してほしい」と呼びかけ、「粉ミルクでも赤ちゃんの顔を見ながらあげれば愛情は伝わる。あまり思い詰めないで」と話す。=つづく

 ◆記者の体験

 ◇軌道に乗ると楽

 娘が生まれて5カ月半が経過した。小さな手で私の胸元をつかみ、ごくごくと音を立て乳を飲む。その様を見るたび、心が緩む。栄養と免疫成分に優れ、あごの発育に良いなどの利点から母乳育児を選んだ。自分の体が作り出す物だけで赤ちゃんの心身を満たしてあげる、そのシンプルさが心地よい。

 入院した豊倉助産院(横浜市)では母子同室だった。分泌を促すため、昼夜を問わず欲しがるたびに吸わせた。乳首の含ませ方や体勢は、助産師から教わった。赤ちゃんは胎内で栄養の「弁当」を蓄えていて、生後数日間は母乳の出が悪くても大丈夫という。実際、誕生時に約3900グラムだった娘の体重は、一時約450グラム減ったものの、出産から4日後までに増加に転じた。

 お産の疲れが残っている時期の授乳は大変で、乳首に血がにじむこともあった。だが、軌道に乗ってからは意外に楽だ。哺乳(ほにゅう)瓶の煮沸や調合の手間がなく、夜間も添い寝のまま授乳できる。肌が露出しない授乳服を着れば、来客時や外出中も可能だ。大量に食べても太らないのもうれしい。ただし、乳腺がつまらないよう、野菜を多めに、油分や糖分を控えめに、と心がけている。【須田桃子】

毎日新聞 2009年3月20日 東京朝刊

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