なぜ、こんなことが起きたのか。それを知りたくて、澤田容之(やすゆき)さん(55)と妻美代子さん(52)は昨年12月26日、千葉家裁の少年審判廷にいた。最後方の机がある椅子に座り、少年鑑別所職員をはさんで、前方にいる少年の後ろ姿を見つめた。
息子の千葉銀行員、智章さん(当時24歳)は昨年11月、千葉県香取市で軽トラックにはねられ死亡した。同市の土木会社員の少年(19)が殺人の非行事実で家裁送致された。
捜査関係者によると、少年は同僚への暴行を土木会社社長の父に怒られ「イライラして、誰でもいいからはねようと思った」と供述した。だが、警察や検察から両親に詳しい説明はなかった。
「金融取引の資格を取る」。智章さんの日記を読んだ美代子さんは、無念さをかみしめ審判で意見陳述した。「絶対に許せない。極刑を望みます」
傍聴を振り返り「思いが伝わったとは思えないが、審判のやりとりを聞いて少年の人となりや動機は分かった」と語る。
少年の付添人の弁護士は夫妻の傍聴に反対した。この事件にかかわった別の司法関係者も「少年はとても未熟だ。事件を受け止め切れず、反省できていない」と傍聴を許した家裁の姿勢を疑問視する。
しかし、容之さんは言う。「密室の審判では反省は深まらない。被害者の声こそ、心を動かすはずだ」
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少年審判の目的は、内省を促し立ち直らせること。萎縮(いしゅく)させないため非公開で行われてきた。昨年12月、真相を知りたいとの被害者の訴えを受け、傍聴制度が始まった。今月13日までに、殺人や傷害致死など23件の審判を被害者43人が傍聴した。
日本弁護士連合会・子どもの権利委員会の川村百合弁護士は、数例の審判傍聴の報告を聞いて「審判が変質している」と感じている。従来、裁判官は成育歴などを踏まえ、少年に自身を顧みさせる質問を主に行っていた。それが、被害者を意識した質問が増えてきている。
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少年刑務所で懲役を科すか(刑事処分)、教育を重視して少年院に送るか(保護処分)。2月24~25日に大阪地裁で行われた模擬裁判は、裁判員役6人が真っ二つに割れた。
題材は、17歳少年が20歳男性の肩をバットで殴って負傷させ、現金を奪った事件。少年は幼少期に父から虐待されており、更生にはどちらがいいかが議論となった。評議は最終的に、3人の裁判官を含め5対4で「少年院」を選択した。
終了後、裁判員役の男性はつぶやいた。「両施設の違いが分からない」。少年刑務所でも一定の教育的な配慮は施され、少年院も収容施設に変わりはない。検察官、弁護人とも抱いた感想は同じだった。「一般市民に刑事処分と保護処分の違いを分かってもらう立証が課題だ」=つづく
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■ことば
少年法改正により昨年12月15日から導入された。対象は殺人や傷害致死、自動車運転過失致死傷など人を死傷させた事件。被害者側が傍聴を申し出れば、家裁は少年の心身の状態などを考慮し、付添人弁護士の意見を聴いて許可するか決める。12歳未満の少年審判は傍聴できない。
毎日新聞 2009年3月17日 東京朝刊