中日新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社会 > 紙面から一覧 > 記事

ここから本文

【社会】

設楽ダム計画 農業用水、予測と実績に大差

2009年3月13日 朝刊

写真

 水道用水の需要予測が過大だと指摘されている愛知県設楽町の設楽ダム計画で、農業用水の取水予測も実績とかけ離れていることが分かった。深刻な渇水が起きれば水が足りなくなることがダム建設の主な根拠とされているが、雨が少ない年でも、これまで農業用の水が不足する問題は起きておらず、「ダムありき」の予測だったのでは−との疑いがあらためて浮かんだ。

 ダム事業は2月5日に建設同意の協定書に町と県、国が調印し、4月にも関連工事が始まる。2020年度の完成予定に向け、矛盾を抱えたまま事業が進むことになる。

 計画では、ダムの総容量9800万トンのうち農業用水分は700万トン。10年に一度の規模の渇水時でも、豊川用水を通じて渥美半島や東三河の農地に安定的に水を供給できるようになるとされる。

 農業用水の取水予測は05年、東海農政局が同県豊橋市の過去の降水量などから作成した。過去40年間で有数の渇水だった1967年10月−68年9月の降水量(1、849ミリ)をもとに、同じ渇水状況の下で、現在の豊川用水では年に1億6668万トンしか取水できず、1072万トンが不足すると予測している。

 ところが、ほぼ全月で67−68年の降水量を下回り、年間で743ミリ少ない1、106ミリの降水量しかなかった95年10月−96年9月でも、計画の予測値を上回る1億6980万トンが取水できていた。この時期、水不足による農業への影響は特になかった。

 東三河では2002年、1130万トンの水が利用できる大島ダム(同県新城市)や4つの調整池などからなる水源施設の整備事業が運用を開始。同農政局によると、渇水時に農業用に供給できる水量は年間で約2900万トン増えた。

写真

 ダム問題に詳しい岐阜大地域科学部の富樫幸一教授(経済地理学)は「渇水時の供給能力を過小評価し、ダムの必要性を作り出している」と指摘する。

 予測と実際の取水量がかけ離れていることについて、農政局設計課の担当者は「計算は間違っていない。なぜ実績と差があるのか説明するのは難しい」と話している。

 【設楽ダム】豊川の河口から70キロ上流に計画されている治水、利水、河川の流況改善の多目的ダム。総容量9800万トン、本体の高さ129メートルで、完成すると愛知県最大。建設費は2070億円。設楽町内では6地区の計約120戸が移転を迫られる。

 

この記事を印刷する

広告
中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日新聞フォトサービス 東京中日スポーツ