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「情治国家」をとことん利用する“プロの弱者”のやりたい放題=黒田勝弘

2009年3月16日 SAPIO
 やはり韓国はいまだ法治国家ではないようだ。このことについて筆者は以前から「法律より人情」という意味で「韓国は情治国家だ」といってきた。ちなみにこの「情治」には、韓国語で発音が同じ「チョンチ」であることから「政治」もかけてある。
 
 昨年の韓国は「狂牛病が怖い!」といって米国産牛肉反対の大規模な反米・反政府デモで大荒れした。
 
 警官隊との衝突で警察車両数十台が焼かれ、新聞社が襲われるなどしても、メディアや識者を含め世論には結構、「デモ擁護論」が強かった。
 
 動機がよければ何をしても許されるというわけだ。
 
 学生運動沈滞化で近年、韓国名物の学生デモはなくなったが、以前は学生が火炎ビンなど不法デモで逮捕、連行されると、決まって母親など家族が警察に押しかけ「息子を返せ!」と叫んだ。それをマスコミや世論も黙認ないし同情した。
 
 デモ現場では警官が死ねば知らん顔だが、学生が死ぬと国を挙げて大騒ぎだった。
 
 ソウル在住の外国人の間では昔からこんな笑い話がある。韓国で交通違反をして捕まったら「お母さんが危篤で病院に急ぐところだ!」といえ、そうするとかならず大目にみてくれるというのだ。
 
 あるいは韓国では貧乏人がひとこと「モッコサラヤジ!」つまり「自分も食わねばならない!」といえば不法でも違法でも何でも許される。都心の大通りの交差点で、老人がリヤカーを引いて車道を悠々と渡っていれば「仕方ない」と黙認される。
 
 今年も年初から法治無視の「情治主義」が国を揺さぶっている。
 
 ソウル中心部で雑居ビルの撤去問題がこじれ、撤去反対の入居者が立てこもり、出動した警官隊に火炎ビンなどで激しく抵抗。シンナーをまいたりしたため火災が発生し、反対派5人と警官1人が死亡した。
 
 法的には立ち退きに応じない入居者に対する強制執行だ。入居者は家主に「立ち退き補償金をもっと出せ!」といって抵抗していた。家主が強い韓国ではよくあるトラブルだ。
 
 ところが死者が出たため大騒ぎとなった。韓国では死者が出ると反政府運動は盛り上がる。歴史的にも棺桶をかついだ反政府派の大規模デモがしばしばあり、政権退陣にまでなったこともある。
 
 撤去反対側の死者には、この種の立ち退き事件専門の支援組織のメンバーも含まれていた。火炎ビンやシンナー、投石装置など各種の抵抗装備を準備し、屋上に籠城用のプレハブ家屋まで新設するなど、抵抗闘争の専門家たちだ。
 
 野党や左派勢力など反政府勢力は事件に「待ってました!」とばかり勢いづいた。「死者は警察の過剰鎮圧のせいであり、原因は李明博政権の弱者切り捨て、秩序一辺倒の政治にある!」と。
 
 早速またロウソクデモがはじまった。スローガンは「殺人政権反対!」だ。事実解明の前にソウル市警察庁長(警視総監)解任を叫んでいる。左派・旧政権勢力にとってはリターンマッチだ。
 
 世論は、左翼体質改善が進みつつあるテレビが以前より客観報道にはなっているが、それでも被害者(?)中心の「情治主義」は強い。
 
 たとえば左派系の反政府系「ハンギョレ新聞」などは「警察首脳の処分は捜査の結果、刑事責任があるかどうかを見てから判断したい」という李大統領の発言に対し、「これは人より法を優先する思考方式だ。われわれが望むのは法ではない。大きな政治であり、道徳であり良心だ」(2月2日付)と論陣を張っている。
 
 都心で法執行の警察官に火炎ビンを投げシンナーをばらまき、大量死者まで出した事件でも「法より情」だといって法治サイドを非難するのだ。同じことを野党が国会演説で堂々と主張している。
 
 この「情治主義」は当然、対外関係にも出る。歴史清算問題などで謝罪要求を繰り返す日本との問題などもそうだ。韓国、韓国人理解のためにはこれは欠かせないポイントだ。(産経新聞ソウル支局長)
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。

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