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4ハウスは母親か父親か
インド占星術では、母親は明らかに4ハウスの象意である。しかし、西洋占星術では古典とモダン、或いはモダンの中でも母親か父親か見解が分かれている。他の占星術関係の方もこの問題に興味を抱くらしく時々目にするテーマである。

まず足元を固める意味で、インド占星術の古典を見てみた。「ブリハット・パラーシャラー・ホーラ・シャストラ」や「パーラディーピカ」のいずれも母親は4ハウスとなっている。ラオ先生が多くのことを学んだと言われるインドケララ州の文献でも母親は4ハウスと書かれている。インド占星術の権威であるラオ、ラーマン、チャラク、ブラハ氏のいずれも4ハウスは母親である。「4ハウスは母親、9ハウスが父親」という象意はインド占星術に関してはなんら揺らぎはない。

問題なのは西洋占星術である。モダンの西洋占星術の本を眺めると、我が国の西洋占星術の草分けと言われる時代の方の本では、母親は4ハウスと書かれている。潮島郁幸、ルルラブア、門馬寛明、石川源晃氏等皆そう書いてある。魔女の家ブックスでおなじみのジョアン・マクエヴァーの説でも4ハウスは母親である。英国占星術の著者コーディリア・マンサル氏と流智明氏の著作では4ハウスは両親と書かれている。モダンで父親と書いているのは、確認した限りでは松村潔氏と彼の弟子と思われる人達だけであった。

一方、古典占星術になると、これは4ハウスは父親、対局の10ハウスは母親であり完全にひっくり返っている。古典派に言わせればこれこそが正統な西洋占星術の説である。ウイリアムリリーのクリスチャン・アストロジーはもちろんのこと、更に古い時代に遡る「Astrological Roots〜The Helenistic Legacy〜」の中でも4ハウスは父親である。古典の中でも新しいジョン・フロウリー氏の著作「Horary Astrology]では4ハウスは、father,parentsと父親と両親の両方とが書かれている。

それから古典占星術では鋭い意見をもつ国分秀星氏のブログでの見解を確認してみた。氏のブログの中では、4ハウスは伝統的に父親であると書かれてある。それを母親に書き換えたのは、古典復興の先駆けであるオリヴィア・バークレーによればマーガレット・ホーンによるものだそうである。モダンの占星術は古典占星術の中の重要法則のみに絞って簡略化した上で、そこにヒンズー的要素を取り入れて作られたものと書かれている。氏によればインド占星術と西洋占星術はもとから体系の違うものだから、インドはインド、西洋は西洋として別体系でみるべきだ。ある一部分だけを切り取ってつまみ食いのように(そういう表現はしていないがニュアンスとしてはそうことになる)、組み合わせるのは間違いだと主張している。

アランレオ
アラン・レオ

私はこの説は納得がいく。まずモダンの西洋占星術の創始者アランレオは神智学協会に属していた。その神智学協会の創始者のブラバツスキーは、ヒマラヤにいる聖人とロンドンからテレパシーで交信していると主張する程にインドに傾倒していた。当然、インド精神文化の影響を強く蒙っている筈である。アリスベイリーなどはそれをさらに推し進めて古代秘教的要素を占星術に取り入れようとした。こういう要素がモダンをして心理占星術的方向に向かわせた要因なのだろう。

だから西洋占星術家の本を読んでいると、これはインド占星術の技法を表面的にだけ真似したパクリじゃないのかなと思うような記述によく出くわす。カリカリ博士、橋本航征氏の著作など読むとそう思うことがある。或いは松村潔氏の著作に関しては、マーガレット・ホーンの理論が基本になっているが、そこにいくぶんかの古典的要素とかなりの秘教的要素が、無原則にごった煮で取り込まれているという印象をもつ。もちろん彼なりに創意工夫したものではあるだろう。

しかし、ギリシャ古典様式でサイデリアル方式だからこそ当てはまるインドの技法を、モダンのトロピカル方式に強引に当て嵌めようとするのは本質的に無理がある。そこには何の整合性もなく、どうにもちぐはぐなものを感じる。インドのスピリチュアルアストロジーは西洋の心理占星術とは似て非なるものである。インドの分割図と西洋のハーモニクスはまったくちがう。インドのハウス展開技法はあくまでサイデリアル方式のダシャーシステムとパッケージになったもので、西洋のそれとは異なる。インドのサインとナクシャトラを組み合わせた多様な度数分類とサビアンとはまったくちがう。前提条件がちがうものを、断片的につまみ食いのように取り入れても何の意味もない。それが現実の実占の場で機能することはない。

最初、松村潔氏に薫陶を受けて、今は師離れしていろいろな占星術を学んでいるY氏と、この事について話をした事がある。彼によれば4ハウス父親説というのはエジプト占星術に起源があるそうである。私はエジプト占星術のことはよく知らないし宴会での話だったので細かいことは忘れてしまった。彼とは今度しらふの時にじっくり話を聞いてみようと思っている。

これは喧嘩ではない。いろいろな異説を根源まで遡って穏やかにそして知的に議論できる雰囲気こそが占星術の進歩にとって大切だと思うからである。どこかの系統のように始めから、本家、元祖、家元の雰囲気では占いの進歩も知性も期待できない。

私の西洋モダンの師である石川源晃先生によれば、父親、母親というのは性の問題ではなく社会的役割としての性、つまり「ジェンダー」の問題だと言っていた。実際にいわゆる「かかあ天下」の家庭のホロスコープを見ると、父親母親の象意がしばしばひっくり返っていることを確認している。これも納得のいく説である。
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