風知草

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風知草:捜査批判に逃げるな=専門編集委員・山田孝男

 不透明な金脈と、そのワイロ性を指摘された小沢一郎の反論はまったく納得できない。不公正な捜査は民主主義を危うくすると小沢は言うが、首相に王手をかけた男の、語ると見せて何も語らない不誠実こそ民主主義の脅威ではないか。

 「西松建設」OBが主宰する二つの政治団体から小沢の政治資金管理団体に、毎年計2500万円ずつ、十数年間で3億円渡っていた。企業が政治家個人に献金することは法律で禁じられている。二つの政治団体は小沢側が西松につくらせたダミーであり、直接献金を隠す偽装ではないのか。

 そもそも西松はなぜ、小沢に献金したのか。小沢事務所は地元・岩手県内の公共工事受注に強い影響力をもつ、といわれている。西松は06年、国土交通省発注の胆沢(いさわ)ダム関連施設工事の一部を受注した。3億円はその見返りではなかったかというのが疑惑の核心だ。

 検察とメディアが描き出した疑惑は、荒唐無稽(こうとうむけい)でも牽強(けんきょう)付会(ふかい)でもない。いかにもありそうな話で、それに対する小沢の反論に中身がない。すべて合法と言い張る小沢を見て、朝日新聞の司法記者・村山治の労作「市場検察」(08年文藝春秋)に出てくる逸話を思い出した。要約すれば、こうだ。

 「04年、日本歯科医師連盟から自民党国会議員への『迂回(うかい)献金』捜査をめぐって検察内部で積極論と消極論が対立し、消極論が勝った。

 日歯連がまず自民党の政治資金団体『国民政治協会』に献金し、そのカネが後日、日歯連の期待通り行政に圧力をかけた特定議員に渡っていた。

 特捜の現場は収賄で立件しようと勇んだが、検察首脳が慎重だった。個々の手続きは合法だし、そもそも企業・団体献金自体が合法だ、政治資金規正法を拡大解釈し、検察が先走ってワイロと決めつけるべきではない、となった……」

 政治資金の捜査に着手した検察も一枚岩ではない。

 小沢は、ともに金脈で失脚した田中角栄元首相と金丸信・元自民党副総裁に仕えた。田中の受託収賄を問うたロッキード裁判は「司法の自殺」であり、金丸のヤミ献金受領を暴いた東京佐川急便事件の捜査は「民主主義の破壊」だと小沢は言う。なぜなら「みんなやっていたことだから」である(06年朝日新聞社「90年代の証言・小沢一郎/政権奪取論」)。

 小沢の秘書逮捕が国策捜査による野党いじめかどうか、大いに吟味したらいいが、私は小沢自身の問題に注目する。過去20年にわたって日本政界の台風の目であり続けた人にまつわる宿命の疑問である。

 07年政治資金収支報告書によれば、小沢自身の政治団体・関係団体の資産は不動産を中心に30億円超と際立っている。公共事業を受注しているゼネコンから、ダミー組織を駆使して多額の献金を吸い上げるなど、いまや誰でもやっていることではない。目的は何か。小沢の明快な説明を聞きたい。

 国策捜査なる造語を広めたのは元外務省主任分析官・佐藤優である。背任・偽計業務妨害に問われた佐藤が獄中記「国家の罠」(05年新潮社=毎日出版文化賞特別賞)に刻んだ検察批判は具体的で説得力に富み、小沢の棒をのんだような捜査批判とは雲泥の差がある。

 国策捜査という便利な言葉を隠れみのにせず、国民の素朴な疑問に進んで答える器量を見せてもらいたい。(敬称略)(毎週月曜日掲載)

毎日新聞 2009年3月9日 東京朝刊

 

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