ポゼッション戦術の完成度は7割程度
ユナイテッドは攻撃の起点を低い位置に設定するようになり、ポゼッションを高めたわけだが、ここでボール支配率のアップによる、二つの戦術的なメリットを説明しておきたい。
一つは横パスとバックパスを繰り返す間に、じっくりと相手DFのすき間を探せるというゲームメークにおける利点。もう一つはボールを支配している間に、流動的に陣形を変えられるというスペースメークにおけるプラス面だ。ユナイテッドはとりわけ後者をうまく活用している。
3-0で完勝を飾った1月11日のチェルシー戦は、このポゼッションサッカーの分かりやすい成功例と言える。低い位置でボールを回しながら、ロナウドとルーニーがフリーになるのを待ち、2人にボールが渡った瞬間、人数を掛けて一気に相手ゴールを強襲。ボールを奪われても、チーム全体としては低めにラインを保っているため、守備陣形を乱されることはほとんどなかった。
もっとも、前線で精力的に動くカルロス・テベスに代わり、運動量の少ないベルバトフをトップに起用することで、チーム全体の推進力は大きく低下した。ロナウドとルーニーの高い攻撃意欲は相変わらずだが、2人で出来ることにも限界がある。そこで、ファーガソン監督は彼らのサポート役としてパク・チソンをサイドの一角に配置している。テベスにも劣らない無尽蔵のスタミナを武器に、攻守に多大な貢献を示す彼は、新戦術において不可欠な存在。ベルバトフが自由にプレー出来ているのも、この勤勉な韓国人MFあってのものだ。
ポゼッションを重視するユナイテッドの新たな攻撃スタイルは、まだ7割程度の完成度といったところだろう。ベルバトフが味方との連係に磨きを掛け、ロナウドとルーニーの得点力を十分に引き出すことが出来れば、更に攻撃力は増すはずだ。
自慢のカウンターの威力が低下し、昨シーズンのような華やかさや力強さは失われたものの、今シーズンのユナイテッドはより確実性の高いチームに生まれ変わった。2年連続《ダブル》という偉業を成し遂げる上で必要なのは、華やかさではなく確実な勝利。英国最高のタイトルホルダーである名将ファーガソンはそう考え、チームに更なる進化を求めたのではないだろうか。
私が言えることはただ一つ。勝利至上主義に徹するユナイテッドを止められるクラブは、今のところイングランドには見当たらない。目下、敵なしの彼らは、プレミアリーグ3連覇をほぼ手中に収めたと言える。