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[ワールドサッカーサテライト|ワールドサッカーキング 09.03.19(No.111)掲載]


タイトルへの飽くなき渇望が新戦術移行のきっかけに (2/3)

文=ジョナサン・ウィルソン
21カ月間の離脱を強いられたルーニーは、復帰を飾った2月18日のフルアム戦から2戦連続でゴールを記録。ロナウドはチーム最多の12得点と好調をキープ
21カ月間の離脱を強いられたルーニーは、復帰を飾った2月18日のフルアム戦から2戦連続でゴールを記録。ロナウドはチーム最多の12得点と好調をキープ

新選手の加入などにより混乱に陥った序盤戦


 一般的にスポーツは、決まった練習を繰り返すことで上達する。サッカーではパスやシュートの基礎的な練習から、戦術面における高度なトレーニングまで、幾度となく反復することで質を高めていく。そのため、練習のサイクルが乱れると、チームとしてはまとまりにくくなるものだ。

 軸となり得る新選手を迎え入れたことで、チームのサイクルが崩れるケースは少なくない。今シーズンのエヴァートンはその最たる例と言える。シーズン開幕までに新戦力を補強出来なかった彼らは、8月末にマルアーヌ・フェライーニ、ルイ・サア、セグンダ・カスティージョらを相次いで獲得。加えて、デイヴィッド・モイーズ監督の進退問題も大きく影響し、序盤戦は大失態を演じた。

 カップ戦を含めて最初の11試合で23失点。一時は降格圏に沈むなど、昨シーズン《ビッグ4》を脅かしたチームとは思えない散々な出来だった。しかし、新戦力がフィットしてくると、途端に急浮上。その後の20試合をわずか10失点に抑え、ユナイテッドやリヴァプール、アーセナルとも互角の戦いを披露している。 ユナイテッドも開幕時に同様の問題を抱えていた。攻撃陣にレギュラー格のディミタール・ベルバトフを獲得したことに加え、昨シーズン42得点を荒稼ぎしたクリスチアーノ・ロナウドと《第2のエース》ウェイン・ルーニーが負傷により序盤戦を欠場。新たな主軸の加入と絶対的な核の離脱。この二つがチームに混乱をもたらしたのだ。

 それでも、チーム伝統のカウンターサッカーを継続採用していれば、あそこまで出遅れることはなかっただろう。しかし、老将ファーガソンはこの危機的な状況下で新たな戦術の採用を試みた。ポゼッションサッカーへの移行-これが著しい守備力アップにつながったのである。ただし、これもまた、ファーガソンが当初から意図したものではなかったのかもしれないが……。

チーム全体で構築した強固なディフェンス


 ユナイテッドの守備陣がここ数シーズンの間に飛躍的なレベルアップを果たしたことは言うまでもない。リオ・ファーディナンドは巧みなディフェンスで攻撃の芽を摘み取り、ビルドアップ役としても上質。これまでは時折、集中力を欠く点を非難されてきたが、最近はほぼパーフェクトな働きを披露し、最終ラインのリーダーを見事に務め上げている。

 また、ファーディナンドのパートナーを担うネマニャ・ヴィディッチは今シーズン、チーム最多の公式戦37試合に出場。その屈強なフィジカルとアグレッシブな守備を武器に、最も頼れるDFへと成長を遂げた。

 その他、リーグ最高峰の左サイドバックと名高いパトリス・エヴラ、安定感が光る主将のガリー・ネヴィル、ファーディナンドの後継者と呼ばれるジョニー・エヴァンス、右サイドに厚みをもたらした攻撃意識の強いラファエウ・ダ・シウヴァ、そして万能型DFのジョン・オシェイなど、守備陣は質、量ともに盤石だ。

 加えて、ゴールマウスは重鎮ファン・デル・サールが守る。ここ数年、彼は失点を喫するたびに衰えを指摘されてきたが、これは38歳という年齢が安易にマイナス点ととらえられたに過ぎない。オランダが生んだ世界的な守護神は、今でもプレミアで最高クラスのGKである。守備陣の奮闘があったとはいえ、やはりファン・デル・サールの活躍なしに無失点記録は生まれなかっただろう。

 ユナイテッドの守備陣には弱点が見当たらない。カウンターへの対処に優れている上に、セットプレーにも強く、安定感も抜群。失点数が極端に少ないのも納得が出来る。ただし、リーグ最高の守備力はDFの実力だけで備わったものではない。

 先述のとおり、ユナイテッドは今シーズン、ポゼッションサッカーへと移行しつつある。この戦術変更のカギを握るのがベルバトフだ。足元にパスをもらいたがる彼は、プレッシャーの少ないセンターサークル付近まで下がってボールを受け、そこから華麗な足技を駆使して前線に攻め上がり、ロナウドやルーニーに絶妙なラストパスを供給する。もともと、指揮官からは高い位置でのポストワークを期待されていたが、接触プレーに自信のないベルバトフはゲームメーカーとして、その才能を発揮するに至った。

 更に、2トップのパートナーであるルーニーも中盤からの組み立てを得意としており、右サイドのロナウドも低い位置からのドリブル突破が持ち味。このように現在、前線の中核を担う3人はいずれも中盤からの仕掛けが特長で、これは同時に、チーム全体のラインを下げるという《副作用》をもたらした。得点数と失点数の両方が減少した要因は、この新たな攻撃スタイルにある。つまり、彼らは昨シーズンまでの最大の武器だった、厚みのある波状攻撃を手放した一方で、何重にも重なる分厚い守備網を手に入れたのである。

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