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産経記者「記憶なし」連発 養護学校の性教育裁判

ひらのゆきこ2008/02/28
七生養護学校で2003年7月におきた、都議会議員らによる学校現場の「視察」。教育現場への不当な介入ではなかったのか、産経新聞の報道は適切だったのか、その後、七生養護学校の性教育は大きく変わることとなった。「こころとからだの学習」の是非をめぐる裁判が、東京地裁で続いている。
東京 教育 NA_テーマ2

 2月25日、東京地裁で七生養護学校「『ここから』裁判」の口頭弁論がありました。(前回傍聴記)

七生養護学校「『ここから』裁判」について
 2003年7月2日の都議会の一般質問で、「不適切な性教育」と取り上げられたことをキッカケに、東京都日野市の都立七生養護学校で行っていた「こころとからだの学習」という性教育が破壊されたとして、七生養護学校の当時の保護者や元教職員らが東京都、都教委、3名の都議、産経新聞社を訴えました。

 「『ここから』裁判」は、争点整理を終了し、現在、証人調べに入っています。これまで元七生養護学校教員2名に続き、都教委と元校長らの証人尋問が行われました。3回目にあたる今回は、都議2名と産経新聞記者への証人尋問が行われました。

都議2名と産経新聞記者の証人尋問
 この日は傍聴券96枚に対し、150名以上の傍聴希望者がいたため、パソコンによる抽選となりました。残念ながら筆者は抽選に洩れてしまったのですが、「『ここから』裁判」を支援している関係者の方のご厚意で裁判を傍聴することができました。

 法廷に入ると、原告、被告側双方が席につき、証人3名も証人席の前に座っていました。抽選に当たった人たちが傍聴席を埋め尽くす中、矢尾渉裁判長と陪席裁判官2名が入廷し、裁判がはじまりました。まず、証人3人が宣誓を行い、田代ひろし都議、土屋たかゆき都議、河合龍司産経新聞記者の順番で証人尋問が行われました。

産経記者「記憶なし」連発 養護学校の性教育裁判 | <center>「『ここから』裁判」の支援者のみなさん</center>
「『ここから』裁判」の支援者のみなさん

田代博嗣都議の証人尋問
 田代博嗣都議に対する被告代理人の主尋問は、性教育に対する田代都議の考え方や、七生養護学校を視察したときのことなどについての質問から始まりました。

 性教育についての持論を問われ、田代都議は「3つある」と答え、「1つ目は知識をもつこと、2つ目は意義(生殖)をもつこと、3つ目は道徳的規範をもつこと」と自らの持論を披露しました。

 また、医者(田代都議は医師)として患者さんと接する中で、子どもを授かることができない人が多くいることに言及しながら、「性行為の中心は種の継続であり、中心になる性行為に知識と道徳的規範が求められる」などと述べ、「この3つのうちの1つだけを教えるのはバランスがとれない、3つ一緒にやることが大事」と強調しました。

 七生養護学校を視察したときのことについては、保健室に入る前に校長から説明を受け、職員の規律が乱れていることを訴えられたと語りました。そのあと保健室に行き、手分けして資料となる教材などを集めようとすると、「私物が入っています」などと教員が非協力的な態度を見せたことに言及し、「(我々は)都民の代表としてきており、養護学校の正常化をはかる責務がある。通告をしていてきているのだから、協力をするのは当たり前」と主張しました。

 また、書類ケースを持ち出すとき、「国税と同じ」と言ったことについては、国税調査と同じように、我々は国民の代表としてきており、調査に必要なものを持っていくのは当然であり、事前に通告をして(視察の)目的がわかっているのだから、私物などは片付けておくべきだ、と答えました。

 そのとき、相手を威嚇するような大きな声を出したのか、という質問に対しては、「出していません」と否定しました。(威圧と感じるかどうかは)受け止める側の感覚であり、やましいことがないなら求めに応じて素直に渡すべだと語りました。保健室にいた教員2人が非協力的だというのが第一印象だったので、たしなめる言い方をして、協力を促した、と語りました。

権限不明な「国税と同じ」、教材の持ち去り
 次に、原告代理人による反対尋問がありました。

 都教委らとともに視察に行った理由について、田代都議は「我々は立法府なので、行政府をチェックする立場にあり、この日の視察に同行したのは、行政がちゃんと指導をしているかチェックするためだった」などと答えました。国税という言葉を使ったのは、私物が入っていることを理由に教員が非協力的な態度を見せたので、例として挙げた、などと答えました。

 都教委に現場の仕事を直接指導することは許されているのか、という質問については、田代都議は明快な答弁を示すことができていないとの感想を持ちました。また、知的障害児の性教育は、視覚に訴えることが必要だとする意見があり、アメリカなどでも問題になっているが、視覚に訴える必要性があることを知っているか、という質問に対し、田代都議は「知っている」と答えました。

 どのような権限に基いて「国税と同じ」と言ったのか、また、どのような権限に基づいて教材を持って行ったのか、という質問に対しては、「質問の意味がわからない」と述べ、田代都議が上下関係について言及したことを指摘すると、「教育庁と現場は上下関係にあり、上は下の責任をとらなければならない。現場は任務の遂行をしなければならない」と答えました。「行政府が学校現場に介入するのは、教育基本法10条に反するのではないか」と問い質すと、田代都議は、「だから我々はその行政をチェックしなければならない」と答えました。

 また、都の文教委員会でこの問題についてほかの議員たちから批判が出たのではないか、と尋ねると、「よく覚えていない」と答えました。さらに重ねて「教材を持って行ったことも含め、いろんな批判が出たのではないか」と聞くと、「少数の意見があったかもしれないが、多くは賛成してくれた」と答えました。

土屋敬之都議の証人尋問
 次に、土屋敬之都議についての証人尋問がありました。

 土屋都議が都議会の一般質問で「不適切な性教育」と発言した2日後、七生養護学校への視察が行われていることから、主尋問は、土屋都議が性教育の問題に関心を持つようになった経緯についての質問から始まりました。

 土屋都議によると、ある日、性教育の情報誌「セクシュアリティ」を読み、この雑誌のバックナンバーも全部読んで、性教育の問題について関心をもつようになったそうです。七生養護学校を視察したのは、たんに古賀都議の選挙区であったからで、もし自分の選挙区に同様の学校があればそちらを視察したかもしれない、と答えました。視察はこの問題に関心を持っている議員らと一緒に行ったが、マスコミの中で産経新聞だけに声をかけたのは、教育の特集のページを組むなど、産経新聞が教育に熱心であったから、と答えました。

 保健室に行く前に校長室で校長から説明を聞いたとき、校長が「着任して驚いた」「教員のやる気がない」などと語っていたと話しました。保健室にいた教員に、体の重要な部分の名称を教えるなら性器の名称だけでなく、なぜ歯や耳やほかの部位については教えないのか、と聞いたとき、(相手が泣き出すほどの威圧的な)言い方をしたのか、と問われると、土屋都議は、「うちの家内なんか、水戸黄門を見て泣くことがありますよ」と述べ、「彼女(教員)が泣いたのは答えに窮し、それについて聞いたので口惜しくて泣いたんですよ」と答えました。

 (女性教員を)泣かせるような大声を出したのか、という質問に対しては、「僕は女性尊重主義」と否定しました。教材を展示した理由については、「こういう実態を広く知ってもらうため」と述べ、教材は我々が押収したのではなく、都教委の判断であり、都教委に頼んで借りて展示した、と答えました。また、視察のあとに再度七生養護学校を訪れた理由を問われ、校長が涙目をしていたので、もっとなにかあるのではないかと思い、話を聞きに行ったと答えました。

原告代理人を怒鳴る一幕も
 次に、原告代理人による反対尋問がありました。

 土屋都議の陳述書をもとに反対尋問が始まりました。原告代理人が、陳述書にある「ある日」の「ある日」というのはいつか、と聞くと、土屋議員は「平成15年のことだよ。あなたは覚えているの?」と逆に問い返しました。原告代理人が「質問に答えてください」と言うと、土屋都議が質問の答えではなく説明をしようとしたので、「イエスかノーで答えてください」と原告代理人が答えを促すと、土屋都議が突然大きな声で原告代理人を恫喝するような発言をしました。

 傍聴席にいる筆者も自分が怒鳴られているような気がして、一瞬、ドキッとしました。大変、威圧感のある声でした。土屋都議は大きな声で教員を問い詰めるような言い方はしていない、と答えていましたが、もしそのときもこのような声で言われたのだとしたら、相当に威圧されるものを感じ、萎縮したり、恐怖心を感じたりするのではないか、との感想を持ちました。

 次に、都議会での質問は事前に誰かと協議をしたのか、と尋ねると、「私一人でやった」と答えました。また、教材を運び出すとき、都議から求められ、教頭が次々に運び出したと校長が証言していることに言及し、土屋都議の供述と食い違いがあることを指摘しました。所定の場所に置いていた人形を出して服を脱がせる場面は印象的だと思うが、そのときのことを覚えているか、と聞くと「覚えていない」と答えました。

 視察の翌日、産経新聞に載った記事について、服をぬがせて下半身を露出した写真が載っているが、問題を感じないか、と質問すると、土屋都議は「まったく感じない」と答え、この写真を見た読者に(七生養護学校で行っている性教育が)正確に伝わると思うか、という質問については、「人それぞれ」と答えました。

 「からだうた」についてなにが問題かと尋ねると、土屋都議は「性器の名称は人前で言うことはない、マナーの問題」と答え、性器の名称を小1から教えることは問題があるとの認識を示しました。

 東京都が1995(平成7)年に性器の名称を小学生に教えるべきだとした学習指導要領を出したことを知っているかと問われると、「知っているが、それは間違い」と断じ、「発達段階の子に性行為について教えるのは許されない」との意見を述べました。ではいつならいいのか、高3ではどうか、学習指導要領に書いていないことについても指導の必要性があるとマニュアルには書いてあるが知っているかと尋ねると、「知っている」と答えました。

 保護者の人たちが(性教育をしてもらって)助かっていると言っていることや、親や地域の人がどのような思いをしているかという質問については、「答えられない。答える気がしない」と答弁をしました。

 土屋都議は、反対尋問のとき、「質問(のしかた)が悪いんだよ」と原告代理人を批判するなど、感情的とも思えるような発言をすることが何度かありました。東京弁護士会から都教委に対し、没収した教材の返還と不当な介入をしてはならないとする「警告」を受けていることについて知っているかと訊ねると、「ろくなものじゃないね」と答えるなど、思わず傍聴席から失笑が洩れる場面もありました。

河合龍司・産経新聞記者の証人尋問
 次に、河合龍司・産経新聞記者についての証人尋問がありました。

 七生養護学校の視察に同行し、翌日の産経新聞に「過激性教育」「まるでアダルトショップ」などとする記事を書いた河合龍司記者に対する主尋問は、視察に同行した経緯と、校長から説明を受けたときのことや、保健室での教員らの対応などについての質問でした。

 河合記者は、取材はデスクの指示であったこと、土屋都議以外ほかの議員らとは面識がなかったこと、視察に同行した印象として「非常に行き過ぎた性教育であると思った」などと感想を述べました。また、性器つき人形を使って障害を持った子に性教育を行うことは学習指導要領に書いていない、と述べました。具体的にどういうことかと問われると、性器の具体的名称を指導していること、と答えました。

 河合記者に対する反対尋問では、主として保健室に入ったとき教材がどのような状況にあったかということや、人形の服を脱がせたのは誰かということでした、河合記者はいずれの質問に対しても「記憶にない」という答えを繰り返しました。

 しかし、河合記者は視察団と一緒に保健室に入ったと供述しており、人形は最初服を着ていたのだから、服を脱がせた写真を撮っているということは、だれかが服を脱がせたのであり、人形の服を脱がせるという印象的な場面をその場にいた河合記者が覚えていないということは考えづらいといった趣旨の質問を繰り返す原告代理人に対し、河合記者は「覚えていない」との答弁を繰り返しました。

 また、記事が校長の発言のみを伝えていることに対し、ほかの教員や保護者には取材はしなかったのかと問うと、「しなかった」と答えました。利害が対立する(校長は着任したばかりで、七生養護学校の「こころとからだの学習」などについて現場の教員らと意見の違いがあった)場合、一方の意見だけでなく、双方の主張を聞くのではないか、と質問すると、河合記者は、「学校の責任者は校長なので、校長だけに聞けばいいと思った」と答えました。

 原告代理人は、校長が産経新聞の記事を読んで校長自身が(記事は)不正確である、と言っていることを指摘しながら、校長に直接取材をしたのか、と聞くと、河合記者は「詳しくは覚えていないが、校長に個別に話を聞いたのではなく、校長の説明を聞いて書いた内容」と答えました。校長にさえ取材をしないで記事を書くのは問題があるのではないか、と聞くと、河合記者は、校長から話を聞いて書いたのだから問題はない、との認識を示しました。

 (産経新聞に載った)写真を見て、この教材が性被害から身を守るためのものであると読者は思うか、という質問に対し、「受け止める側の問題」と答えました。この人形は(知的障害を持っている子どもたちが)性被害に遭わないための教材として使われていたことを知っていたか、と聞くと、「知っていた」と答えました。

 この記事のあと、七生養護学校の保護者から抗議の電話が産経新聞にあったことを知っているか、と聞くと、「知っている」と答え、内容を知っているか、と聞くと、「この記事はひどいんじゃないかという内容」と答えました。保護者の人たちの発言が考慮されておらず、親をバカにした記事であり、親からも聞き取りをしてほしい、自分たちにも取材をしてほしいという気持ちが保護者の側にあったことについてどう思うか、という質問に対し、河合記者は「そうは思わない。校長に取材した。プラスアルファとして保護者に取材をすればよかったかもしれない」と答えました。

 なにも知らないでこの記事を読んだ読者は不安になるのではないか、子どもを七生に通わせている保護者に対し、公正を欠いたとは思わないか、という質問に対し、河合記者は「思わない」と答えました。

 さらに、原告代理人が、知的障害を持つ子の親は(子どもたちの)性の問題で悩んでおり、障害のある人たちや、現場で悩みながらやっていることを取材したか、と問うと、河合記者は「しない」と答え、現場の先生に話を聞かず、誤解を受けることになりかねない記事を書くことに対し、新聞記者としての理念に対する考慮はなかったのか、と聞くと、「思わない」と答えました。

「過激な性教育」の根拠は不明
 河合記者は、この教材をどう使っているのか教員に聞こうと思わなかったのか、という質問に対し、「都教委が視察に行ったのを取材し、記事を書いた」と答えました。「このような過激な性教育」とあるが、あなたはどのようなことを根拠にそう書いているのか。具体的に何%といった数値はあるのか、と問うと、「わからない」と答えました。畳み掛けるように質問をする原告代理人に対し、「記憶にない」という答弁を繰り返していた河合記者ですが、記者として記憶にないのか、と問われると、「最初、人形は服を着ていた」と答えるなど、そのときの状況を少しずつ語りはじめました。

 さらに信用性を争うためとして、原告代理人が当日の保健室の写真数枚を河合記者に見せ、人形は14時9分には服を着ていて、14時59分には脱がされている、この写真の右側に写っているのは誰か、と問うと、「土屋さん」と答え、さらに14時53分と14時57分に撮影した写真を示し、これをあなたは見ていないというのか、と問い質すと、河合記者は「当時は見ていたんでしょ。5年経って具体的には(覚えていない)……」と返答に窮し、投げやりとも思えるような答弁をしました。

 最後に、写真を撮るとき(人形の)服を脱がせる理由について質問すると、河合記者は「ここで下半身を露出させて使うということなので、(人形の下半身を露出しないと)読者に伝わらない」と答えました。過激な性教育が伝わらないということか、と聞くと、「はい」と答えました。

 最後に質問に立った原告代理人が、視察があった日の保健室の写真を示しながら、あなたはこれを見ていないと言うのか、と問い質すと、さすがの河合記者も「当時は見ていたんでしょ」と苦しい答弁をする一幕のやり取りは大変迫力があり、メモを取っている筆者も思わず身を乗り出して聞き入りました。

感想など
 原告代理人の反対尋問は予定時間を超過するほど、熱の入ったものでした。証人3人に対し、波状攻撃のように矢継ぎ早に質問をしていったのですが、いずれも核心を突いた鋭い質問で、最初から最後まで法廷には緊張感が漲っていました。

 傍聴席には双方の支援者が座っており(数は原告の支援者の数のほうが圧倒的に多い)、原告代理人が質問しているとき、資料を出すのに少し手間取っていると、傍聴席から「早くしろよ」というヤジがあったり、不規則発言などもあり、裁判長から「傍聴席は静かにしてください」と注意を受けていました。また、被告席には、田代都議や土屋都議とともに訴えられている古賀俊昭都議の姿もありました。

 裁判のあと、弁護士会館で報告集会がありました。

 この日は「金崎裁判」(※)の判決がありました。「『ここから』裁判」が始まる前に「勝訴」の判決を知った支援者のみなさんは、満面笑顔で喜びを分かち合っていました。※ 七生養護学校の校長を、1998年から2002年に務めた金崎満さんは、「そこで行われていた教育が不適切である」として、03年9月に停職一ヵ月の懲戒処分と校長降格の分限処分を受けた(当時は、都立板橋養護学校校長)。その処分取消請求の裁判。

産経記者「記憶なし」連発 養護学校の性教育裁判 | 「『ここから』裁判」が始まる前、支援者らに「金崎裁判」の判決報告が行われた
「『ここから』裁判」が始まる前、支援者らに「金崎裁判」の判決報告が行われた

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