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	船橋真二郎

ＫＯダイナマイト・内山の強打不発=ボクシング
タイ王者に大差判定勝ちも第７ラウンドに不覚のダウン

2007年02月11日

ノックアウトダイナマイト三番勝負の第１弾にタイ王者・ムアンファーレックを迎えた内山高志が渾身の右を叩き込む【山口裕朗】

　誰も予想していなかったであろう最終第１０ラウンド開始のゴングが鳴り響く。ラウンド中盤、幾たびとなく叩き込んできた渾身の右を放った後で、内山高志（ワタナベ）がわずかに首をかしげる。攻撃が散発に終わり続けていることは自分自身、十二分にわかってはいたが、あと一歩踏み込んで行くことはどうにもできない。そして、攻勢に出てきたタイ王者とロープ際でもつれ合うようにして打ち合う中、ついに試合終了を告げるゴングが打ち鳴らされるのである。内山自慢の強打不発の伏線は、第１ラウンドにあった。

ノックアウトダイナイマイト三番勝負・第１弾

花道の左右に並ぶのぼりの中、内山が入場。場内の期待は豪快なＫＯ勝ちだったが……【山口裕朗】

　その破格の強打から、“ノックアウトダイナマイト”と呼ばれる内山が２月１０日、水道橋の後楽園ホールに迎えたのはタイ国スーパー・フェザー級王者のムアンファーレック・ギャットウィチアン。「ノックアウトダイナマイト三番勝負」と銘打たれたこの日の興行は、内山とアジア各国のナショナル王者との３連戦をビー・タイトプロモーションがプロデュースする第１弾だった。

　昨年１２月の第３回ビー・タイト（Ａ級ボクサー４回戦賞金トーナメント）決勝の前座で、このプレマッチとも言えるインドネシアスーパー・フェザー級王者モセス･セランとの対戦を３ラウンドＫＯで制し、ＯＰＢＦ東洋太平洋スーパー・フェザー級９位にランクインした内山。アマ４冠から鳴り物入りでプロデビューし、ここまで５連勝（４ＫＯ）のホープが、近い将来のタイトル獲得を視野に、いよいよ動き始めたのである。

　一方、対戦相手のムアンファーレックは元ムエタイ王者（ラジャダムナン認定）で、ボクシングのリングでも相応の実績を残してきている。“バーン”の愛称で日本でも知られる存在だが、歴戦の猛者もこの１月で３６歳。内山の豪快なＫＯ勝利にかかる期待は高まっていた。

試合の流れを決めた一発のカウンター

第１ラウンド、ムアンファーレックのカウンターを境に警戒心を強めた内山の攻撃は単発に終わる【山口裕朗】

　観衆の期待を一身に受け、リングインした内山は上々の滑り出しを見せる。左を突いて距離をとり、強烈な右をフォロー。さらに内山が、ムアンファーレックのガード越しに左フックを叩きつけたところで、その期待に違わぬ豪腕ぶりに場内にどよめきが起こる。しかし、タイ王者にはその会場の声に合わせ、わざとらしく驚いたような表情を作って見せる。構わず連打をフォローする内山。下がるムアンファーレック。そして、ほとんど手を出さないムアンファーレックを難なくロープ際まで追い込み、左右の強打を叩き込まんとした次の一瞬、ふらりとよろめいたのは内山の方だった。待ち構えていたかのようなムアンファーレックのクロス気味の右が、内山をとらえていたのだ。

「１回合わせられてからは『もしかしたら、ここも狙ってるんじゃないか』と、行けなくなってしまって」
とは試合後の内山の弁。その通り、この一発がその後の試合の流れを決定付ける。以降、主導権こそ内山の側にあり続けたものの、カウンターを警戒する余り、強烈な右も、叩きつけるようなボディショットも、散発に終わってしまうのである。

タイ王者の老かいさに苦しめられ、内山の強打不発

第７ラウンドには不覚のダウン。この苦い経験を糧に予定されているアジア圏の王者との第２弾に再出発を計る【山口裕朗】

　日本のホープの脳裏にカウンターを焼き付けたムアンファーレックは、それを利用し、ベテランの老かいさを発揮する。ベタ足でのらりくらりとリングを動き回りながら、内山の強打をもらうたび微笑んで見せたり、「もっと来い」と手招きしたり、あるいはぶるぶると両膝を震わして、怖がっているようなポーズを取って見せたり。ラウンドが進むに連れ、顔を腫らしていくムアンファーレックにダメージがないはずはないが、時おり打ち終わりを狙うだけでなく、そのような姿を見せ続けることで「何かあるかもしれない」と、内山の警戒心を解かさぬ戦略ではなかったか。そして、
「深く入っているようで、右ストレートは巧く流されていた」（内山）
とダメージを最小限に食い止めんとする上体の巧みな動きも駆使。勝ち目は薄くとも倒されないことを主眼に置いたタイ王者の試合運びと慎重な構えの内山というフラストレーションの溜まる展開に、会場の期待は次第にしぼんでいく。その場内が再び湧くのは、第７ラウンドのことだった。

　第５ラウンドに入り、再びまず左を突いてから試合を組み立て直そうという動きを見せ始めた内山は、リズミカルとまではいかなかったが徐々に手数を増し始めていた。迎えた第７ラウンド終了間際、内山はムアンファーレックをコーナーに追い詰め、左右のコンビネーションで攻め立てる。だが勢いに乗った内山に再びの悪夢。ラウンド終了ゴングとほぼ同時、一瞬の隙を突いたムアンファーレックの右が内山をとらえると、すとんとマットに倒れこんでしまった。
「ダメージはなかった。タイミングよくノーモーションで右を合わせられただけ」（内山）
　だが結局、再びの一発でペースアップの出鼻をくじかれた内山はその後も老かいな王者を崩しきれないまま、プロ二度目となる試合終了のゴングを聞くことになった。

「焦りはなかったけど、やじはよく聞こえたし、『つまんねえ試合してるな』っていうのは３ラウンドくらいから自分でもわかっていた。（３６歳という年齢に）なめていた部分は確かにあったけど、自分の弱点、欠点がわかったので良い経験になった」
と試合後の内山。
「強打に任せてノーガード気味に打ち込んでいくところがあったので、いつかこういう（倒される）ときが来るのではないかと危惧（ぐ）していました。良い薬にして、もう一度、基本からやり直させます」
と再出発を誓ったワタナベジムの渡辺均会長は、この日の試合内容にも路線変更せず、５月頃に予定される内山の次戦に、再びアジア圏の王者を迎える構えだ。

中森が３度のダウンを奪い、小野寺の１７連勝阻む

３度のダウンを奪い、１６連勝中の小野寺との注目の一戦を制した中森（左）【山口裕朗】

　この日のセミファイナルには注目のホープ対決が組まれた。２００４年度の全日本スーパー・ライト級新人王で翌年のＢ級トーナメントウェルター級覇者、昨年はビー・タイトライト級を制し、デビュー以来、無傷の１６連勝（６ＫＯ）を続ける日本スーパー・ライト級３位小野寺洋介山（オサム）と、２００３年度の全日本ライト級新人王で、１８勝（１２ＫＯ）１敗１分という好戦績を残す日本ライト級７位中森宏（平仲）の激突。

　試合は序盤からシャープな動きを見せた中森が、定評ある小野寺の回転の速い連打を出させず、持ち前のダイナミックな攻撃を展開し、第３ラウンドと第４ラウンドに立て続けにダウンを奪って優位に立つ。第５ラウンドに入ると一発を狙い始めた中森の足が止まり、小野寺の反撃を許すシーンもあったが、迎えた第７ラウンド序盤、中森が前に出てくる小野寺に右をカウンター。一転して飛びかかるように攻勢に転じた中森の左アッパーが強烈にアゴをとらえると、たまらず小野寺はこの試合３度目のダウンを喫する。何とか立ち上がり、再開に応じた小野寺だったが、その直後にダメージを見て取ったオサムジム・渡辺治会長がタオルを投入。注目の一戦は中森が制した。

　２３歳とまだ若い中森の圧勝ではあったが、序盤２度のダウン後の加撃はいただけなかった。センスもあり、華も感じさせる選手だけに余計に残念でならない。若さゆえ許されることでは決してないし、今後の自制を促したい。また、この明らかな反則行為に対して、減点で注意を促さなかったレフェリーの怠慢も解せない。一歩、間違えれば危険な状況も起こり得るリング上である。厳格な対処を求めたい。

■第４０４回ダイナミック・グローブ
２月１０日（土）　東京・後楽園ホール

＜メーン　６０ｋｇ契約１０回戦＞
○内山高志（ワタナベ／東洋太平洋スーパー・フェザー級９位）
１０Ｒ判定　（３－０　吉田９８－９２　伊達９８－９２　土屋９８－９２）
●ムアンファーレック・ギャットウィチアン（タイ／タイ国スーパー・フェザー級王者）

＜セミファイナル　スーパー･ライト級８回戦＞
○中森宏（平仲ボクシングスクール／日本ライト級７位）
７Ｒ３８秒ＴＫＯ
●小野寺洋介山（オサム／日本スーパー・ライト級３位）

＜第６試合　５５．７ｋｇ契約８回戦＞
●斎藤憲一（協栄）
８Ｒ判定　（０－３　島川７２－８０　吉田７２－７９　マーチン７３－８０）
○三浦数馬（ドリーム／日本バンタム級８位）

＜第５試合　ライト級６回戦＞
●岩下幸右（グリーンツダ）
６Ｒ判定　（０－３　島川５４－６０　葛城５３－６０　土屋５４－６０）
○三垣龍次（Ｍ．Ｔ）

＜第４試合　５８ｋｇ契約６回戦＞
●内山卓也（Ｆ．Ｉ）
６Ｒ判定　（０－３　島川５６－５９　マーチン５４－６０　伊達５５－６０）
○伊藤健剛（本多）

＜第３試合　フェザー級６回戦＞
●吉村厚志（グリーンツダ）
６Ｒ判定　（０－２　伊達５８－５８　マーチン５６－５７　土屋５７－５８）
○笛木亮（ジャパン・スポーツ）

＜第２試合　５０ｋｇ契約４回戦＞
○安西政人（ワールドスポーツ）
４Ｒ判定　（３－０　島川３９－３７　マーチン３９－３７　葛城４０－３７）
●前田健太（ワタナベ）

＜第１試合　６８ｋｇ契約４回戦＞
○益田智文（セレス）
４Ｒ判定　（２－０　土屋３９－３８　伊達３８－３８　吉田３９－３８）
●永田亮二（沼田）

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