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今どきお産事情:/5 広がる、快適な出産 自由な姿勢、母子触れ合い…

 ◇妊娠意欲高まる効果/WHOも科学的有効性を指摘

 出産で満足感を覚えたり、新たな自分を発見したりした女性は、子どもへの愛情を高め、次の妊娠への意欲も高まる--。三砂ちづる津田塾大教授らが出産後の約600人を対象に実施した6年半の継続調査でこんな傾向が浮かび上がった。

 豊かな出産を体験したと感じる鍵は、夫の立ち会いや温かいケアを受けた実感だった。だが、膣(ちつ)から肛門(こうもん)までの一部を切る会陰(えいん)切開や、陣痛誘発・促進剤の使用などの医療介入が多いと満足度が低くなっていた。

 世界保健機関(WHO)は96年、正常出産での産科医療・ケアについて科学的な有効性と有害性を検証したガイドブックを作成。その日本語版「WHOの59カ条--お産のケア実践ガイド」(戸田律子訳、農文協)も出版された。

 例えば、産婦の姿勢と動きを自由にし、あおむけ以外の姿勢を勧めること、母親と赤ちゃんが早期に肌を触れ合わせ、産後1時間以内に授乳を開始できることは「有効」と判断。慣例的な浣腸(かんちょう)や剃毛(ていもう)は「有害または無効」としている。会陰切開の多用や慣例的な実施も有益な効果はなく、むしろ害を及ぼしうるとしている。

   ◇   ◇

 日本は、周産期死亡率と妊産婦死亡率はいずれも低く、安全面で世界最高水準にある。

 また、この10年で夫の立ち会いや自由な姿勢で産む「フリースタイル出産」のすそ野も広がった。豊かな出産を実現しようと、日本看護協会などは、病院や診療所で助産師が妊婦健診や保健指導をする「助産外来」や、リスクの低いお産を助産師が主体的に介助する「院内助産システム」の普及に取り組み始めた。出産ジャーナリストの河合蘭さんは「産科医不足の中、医師がハイリスクの妊娠に集中できるようにするためにも重要な動きだ」と注目する。

 だが、今なお初産のほぼ全員に会陰切開をしたり、「有効」なケアが受けられない施設がある。バースコーディネーターの大葉ナナコさんは「日本は科学的な根拠より経験則が優先されている」と指摘する。日本産科婦人科学会などが発行した「産婦人科診療ガイドライン 産科編2008」の作成委員長、水上尚典・北海道大教授は「安全性が最優先され、快適性がないがしろにされてきた可能性は十分ある。だが、安全性を担保し快適性を追求するには、人手もお金もかかる」と言う。

 一方で、出産する女性の意識も大切だ。三砂教授も「妊娠中にどんな生活をしていても、病院に行けば安全に産ませてもらえると思っている女性も多い。自分で体を整え、自分で産むという意識を持ってほしい」と呼び掛ける。=つづく

 ◆記者の体験

 ◇誕生直後に抱き感動

 昨年10月、予定していた豊倉助産院(横浜市)ではなく、嘱託医のいる病院で産むことになった。妊娠42週を超えたためだ。薬剤などによる誘発をすることになったが、その前に陣痛が始まり、夫と助産院の豊倉節子院長が駆け付けてくれた。

 あおむけは産みにくい姿勢だと聞いていたが、分娩(ぶんべん)台に乗った瞬間、不快さでパニックになりかけた。頼んで足の固定を外してもらい、横向きになって数時間息んだ。トイレに行ったのを機に、産後の休息用ベッドに移動した。豊倉院長に促され、手を伸ばすと赤ちゃんの頭が出ていた。もう少しだ。背中にクッションをあて斜め横向きになり、夫の首にしがみついて息み続けた。

 頭に続いて肩が出るぬるりとした感触を感じた。次の瞬間、へその緒の付いた赤ちゃんが、私のおなかの上に乗せられた。「午前6時3分ね」。豊倉院長の声を耳に刻んだ。予想以上に重い体を両手で抱きしめ、決めていた名前を呼んだ。うれしさと安堵(あんど)、生まれたての命を抱いた感動で涙があふれた。夫がへその緒を切った後、初乳をあげた。初めてなのに上手に吸うのが不思議だった。

 陣痛からお産まで自分の意思の及ばない体の声に従って進むと実感した。全精力を使い果たす重労働で、育児にも体力がいる。妊娠中は食事や運動、睡眠など指導を受けた。いずれも、お産の機能を目覚めさせ、必要なエネルギーを蓄えるために不可欠だったと思う。【須田桃子】

毎日新聞 2009年3月13日 東京朝刊

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