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拉致と爆破テロ―北朝鮮の非道を思い知る

 息をのむ思いの対面だったに違いない。それは涙で始まった。

 「抱いてもいいですか」。金賢姫元工作員(47)は日本語でそう話しかけ、田口八重子さんの長男、耕一郎さん(32)を抱き寄せた。

 金元工作員は30年近く前、拉致被害者の田口さんから北朝鮮で日本語と日本の習慣を教えられた。

 拉致された時、1歳だった耕一郎さんに母の記憶はない。面談で驚くような新事実はなかったかもしれない。ただ、見知らぬ母親像のすき間をいくらかでも埋めることはできたろう。

 会えてよかった。これからも折に触れ、こういう機会があってほしい。

 この面談を見て、幾つもの悲劇が重なった歴史を改めて思い起こす。

 金元工作員は「田口さんは生きている。希望を持って」と励ましたが、自ら犯行に加わった87年の大韓航空機爆破事件の後は、韓国で暮らしている。田口さんがその後どうなったのか、事情は知らないに違いない。

 日本政府は17人の拉致被害を認定している。日本に戻れた5人のほかの被害者について、今回、新たな消息はつかめなかったと見られる。

 飛行中に爆破され、ビルマ沖に消えた大韓機には115人が乗っていた。その犠牲者の家族と金元工作員との本格的な面談はいまだできず、家族らの思いは満たされぬままだ。

 そして金元工作員本人も、悲劇に巻き込まれたひとりでもある。恵まれた家庭の出身だが、学生時代に工作員にさせられた。事件で死刑が確定後、特赦を受けて韓国内にひっそりと暮らす。両親と妹弟の消息は分からない。

 拉致も爆破テロも、朝鮮半島の南北分断と、激しい対立のなかで起きた。北朝鮮という特異な独裁国家が手を染めた、犯罪のむごさを思う。

 北朝鮮に融和姿勢をとった韓国の前政権のころは、金元工作員の存在を目立たせたくなかったのだろう、今度のような面談はできなかった。それが実現したのは、今の李明博政権が北朝鮮政策を見直したためだ。

 韓国も多くの拉致被害者を抱える。これを機に拉致問題の解決に向けて、日韓の連携をさらに探りたい。

 「北朝鮮のプライドを守ってやりながら、心を動かせる方法を考える必要があるのではないか」。金元工作員は面談後の会見でそう語った。

 北朝鮮は核放棄の交渉を空転させ、今は人工衛星の打ち上げと言ってミサイル開発を強行しようとしている。

 過去のおぞましい犯罪や現在の行動を許すわけにはいかない。ただ、圧力一辺倒で打開できないこともまた現実である。変わらぬ怒りと悲しみを抱きつつ、対話と圧力を組み合わせて北朝鮮を動かす環境をつくっていく。それしか道はないのではないか。

フィリピン家族―森法相はここで英断を

 一家は埼玉県蕨市で暮らしている。36歳の夫は、内装解体会社で後輩に仕事を教える立場になった。38歳の妻は専業主婦。13歳の娘は、音楽の部活動に打ち込む中学1年生だ。

 どこにでもいそうな3人家族。フィリピン人のカルデロン一家である。

 一家は17日に強制送還されるかもしれない。両親が90年代前半に、それぞれ偽造旅券を使って入国したからだ。

 妻は06年に不法在留で逮捕され、執行猶予付きの有罪となった。昨年9月には一家の国外退去処分が確定した。

 退去処分になっても、家族の事情や人道的配慮から法相が滞在を認める制度がある。この在留特別許可を一家は求めたが、認められなかった。

 法務省の姿勢はこうだ。極めて悪質な不正入国だ。十数年滞在した事実はあるが、ほかの不法滞在者への影響を考えると厳格な処分で臨むべきだ。裁判所も退去処分を認めている。

 法律論はその通りだ。だが、だからといって子どもの幸福をないがしろにしていいわけはない。

 彼女は日本で生まれ育ち、日本語しか分からない。「母国は日本。家族とも友だちとも離れたくない」という。思春期のごく普通の女の子だ。

 同じようなケースで、子どもが中学生以上だった場合には在留が認められたことがある。「処分が出た時に長女は小学生。中学生になったのは訴訟で争ったからで、すぐに帰国した人との公平を欠く」という法務省の説明に、説得力はあるだろうか。

 法務省も、近所の親類に預けることを前提に長女だけに在留許可を出し、両親が会いに来るときは再入国を認めるとの案も示した。そこまで配慮できるのなら、森法相はいっそ一家全員に在留特別許可は出せないものか。

 彼女の望みをかなえることが、日本社会に不利益を及ぼすとは思えない。

 長女の学校の友人や地域住民らからは、一家の残留を求める嘆願書が約2万人分も集まっているという。蕨市議会は「長女の成長と学習を保障する見地から一家の在留特別許可を求める」との意見書を採択した。

 一家はすでに地域社会を構成する隣人として認められ、職場や地域に十分貢献している。一人娘は将来、日本を支える一人になってくれるはずだ。

 日本に不法に残留する外国人は約11万人とされる。日本社会に溶け込み、いまさら帰国しても生計が立たない人々は多いだろう。在留特別許可も年1万件前後認められている。

 日本社会ではすでに外国人が大きな担い手になっている。今回のようなケースはこれからも起きるだろう。いまの入管行政でそれに対応できるのか。社会の一員として認めるべき外国人は速やかに救済する。そんな審査システムをつくることが検討されていい。

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