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社説

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民主党―この不信にどう答える

 「日本の立て直しに向け、あらゆる現場で政官業の癒着構造を追及する」

 3年前、小沢一郎氏が民主党代表に選ばれたときの公約の一節である。

 だが今、準大手ゼネコンの西松建設による違法献金疑惑で公設秘書が逮捕された事件は、そんな公約とは似つかわしくない小沢氏の「もう一つの顔」を浮き彫りにしつつある。その落差はあまりにも大きい。

 だからなのだろう、朝日新聞の世論調査では、57%が小沢氏は代表を辞める方がよいと答えた。小沢氏の説明に納得できないという人は77%にのぼった。小沢氏本人だけでなく、民主党は世論の強い失望と不信とを重く受け止めなければならない。

 事件は捜査中で、全体像はなおはっきりしない。自民党の有力議員たちにも、小沢氏と同様に、多額のカネが渡っていたことも浮かび上がってきた。

 ただ、だからといって小沢氏の政治団体が、大規模な公共事業を受注するゼネコンから、ダミーと見られる団体を通じて突出した額の献金を受け取っていた事実は動かしようがない。

 小沢氏は逮捕された秘書の容疑を否定し、「犯罪的な行為はいっさいしていない」と反論している。西松建設からのカネだとはまったく知らなかった、というのが釈明の根幹だ。

 しかし、ゼネコンが巨額の献金をしながらわざわざ正体を秘すというのは何とも不自然だ。何の見返りも期待しなかったということなのか。

 かつて小沢氏は、自民党最大派閥の有力者であり、やはり検察の訴追を受けた田中角栄元首相、金丸信元自民党副総裁の側近だった。自らも「金権」批判にさらされた過去がある。

 そんな小沢氏のもとで民主党がまがりなりにも結束し、次の総選挙での政権交代が現実味をもって語られるまでになったのはなぜなのか。

 自民党政権のふがいなさもあるだろう。一昨年の参院選挙で歴史的な大勝を導いた実行力への期待もある。だが、それだけではあるまい。

 旧来の利権構造から抜け出せない旧体制を打ち破る。民主党はこう党の基本理念にうたい、自民党とはまったく異なる政治の実現を目指すと訴えてきた。この主張がようやく有権者に届き始め、多様な政治潮流をかかえた党を団結させてきたのではなかったか。

 それなのに、土建政治にどっぷり漬かったかのような小沢氏の姿を見せつけられ、有権者が裏切られた思いを抱いているのは間違いない。

 今後、捜査がどう進展するかはわからない。だが、有権者の不信をどう受け止めるか。政治変革の旗振り役として、小沢氏は本当にふさわしいのか。党をあげて率直な議論を始めるべきだ。政権交代への国民の期待をしぼませてはならない。

チベット50年―力とカネでは治まらない

 チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世が亡命するきっかけになった「チベット動乱」から、今日でちょうど半世紀になる。

 去年の今ごろ、中国チベット自治区のラサなどで騒乱が続いた。北京五輪の聖火リレーはチベット問題をめぐり各地で騒然となった。昨年の中国と世界をつないだキーワードが「五輪とチベット」だったとすれば、それはいま「経済」にとって代わられたようだ。

 温家宝首相は1月末からの欧州歴訪の際に「中国が成長を維持することが世界経済への貢献になる」と胸を張った。確かに潜在的な成長力のある中国にがんばってもらわないと、経済危機はさらに深まるかもしれない。

 その中国への気遣いからか、人権派のイメージが強いクリントン米国務長官も、先の訪中で「人権批判は世界経済危機や気候変動などの議論を妨げてはならない」と語った。続いてあった日中外相会談でも、チベットや人権は本格的に取り上げられなかった。

 国際世論におされて再開した中国当局とダライ・ラマ側との対話は途絶えたまま。現実の情勢はむしろ深刻さを深めている。それにもかかわらず国際社会の関心が薄れていくのは残念だ。

 騒乱のあったチベット住民居住地への外国メディアの立ち入りは厳しく制限されている。詳しいことは分からないが、50周年記念日前から大量の治安部隊や警察が動員され、緊張が高まっていると伝えられる。実質的には「戒厳令」という地域もあるようだ。

 ダライ・ラマは「チベット人の挫折感と中国に対する憤怒は高まっている」と嘆き、当局との新たな衝突の可能性を指摘する。

 しかし、北京で開会中の全国人民代表大会(全人代)に参加したチベット自治区の幹部は「情勢は安定している」と話す。50周年にあわせ、当局はチベットの発展ぶりを強調する展覧会を開いたり、白書「チベット民主改革の50年」を発表したり、「安定と繁栄」のキャンペーンに躍起だ。

 共産党・政府はチベット自治区に多額の投資をし、道路や発電所、病院などを整備してきた。一方、ダライ・ラマを批判したり、共産党統治の正しさを強調したりする教育も続いている。

 ある程度、暮らし向きはよくなったかもしれない。しかし、どこまでチベット住民の心情を理解し、信仰や文化の独自性を尊重できたか。カネとこん棒で宗教心は抑えられまい。

 20年前の3月、衝突が続いたラサに戒厳令が出された時、チベット自治区のトップは、現党総書記の胡錦濤氏だった。その胡体制はいま、調和のとれた「和諧(わ・かい)社会」を目指す。ダライ・ラマを独立派と決めつけ、対話すら拒んでいるようでは、「和諧」の実現はほど遠いと言わざるを得ない。

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