Wed, March 04, 2009 stanford2008の投稿

【事務所報告】桜井淳所長の最近の講演内容-敦賀1号機は即刻閉鎖せよ-

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【講演要旨】現在、世界で運転中の軽水炉で、最も古いグループに分類されるものは、あと2ヵ月から1年半で、設計寿命の40年を迎える米オイスタークリーク(BWR, 電気出力65.0万kW, 臨界日1969.5.3), 米ナインマイル1号機(BWR, 電気出力63.5万kW, 臨界日1969.9.5), 敦賀1号機(BWR, 電気出力35.7万kW, 臨界日1969.10.3), 美浜1号機(PWR, 電気出力34.0万kW, 臨界日1970.7.29)、福島第一1号機(BWR, 電気出力46.0万kW, 臨界日1970.10.10)であって、それらは、世界的には、"先行炉"(分かり易い表現をすると試験炉)と位置付けられていますが、米国では、"先行炉"については、あと20年間の寿命延長をしない方針になっており、日本では、最近まで、明確な方針は示されていませんでしたが、日本原電は、2月下旬に、「敦賀3号機と4号機の設置作業が遅れているため、当初の予定を変更して、敦賀1号機をもう少し運転継続する」と発表しましたが、この運転継続は、寿命延長を意味しており、もし、実施されるのであれば、設計寿命40年を基準にすれば、世界で最初の"寿命延長炉"となり、その動向が注目されますが、私は、敦賀1号機については、即刻閉鎖すべきと考えており、その理由は、(1)初期の軽水炉については、設計寿命が40年間と明記されているわけではなく、大きな不確実性の中にあること、(2)耐震設計に大きな不確実性があること、(3)電気出力が低くて経済的メリットがないこと等で、日本原電の主張するような単なる新設作業の遅れという単純な理由では、運転継続すべきではありません。

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桜井淳所長の村上春樹『ノルウェイの森』(講談社文庫)の書評-470万部歴史的ベストセラーの秘密-

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村上春樹『ノルウェイの森』が発売された当時、関心がなく、読みませんでした(表題はビートルズの曲名)。しかし、470万部の歴史的ベストセラーの記録を達成したことから、何がそれほどまでに受け入れられたのか知りたくて、2003年に発売された講談社文庫版を一気に読んでみました。この作品は、村上氏が40歳頃にまとめたもので、内容は、大学生の"性"と"生"("生"は建設的に生きるという意味)が克明に、しかも、みずみずしく、描かれています。そこで描かれている"性"と"生"の両者とも、本当は、非常に深刻な側面があるにもかかわらず、さりげなく、本当に、さりげなく、淡々と展開されています。"性"の描写が多く、その内容が、その頃の年齢の大学生の男女の標準的な例なのか、読者へのサービス精神なのか、判断しかねますが、村上氏が、一番言いたかったことは、"性"よりもむしろ"生"にあり、前者を廃退的に描き、すなわち、登場する男女大学生(元大学生含む)の約半数が、原因は異なるものの、みな、何らかの心の病を患い、自殺してしまうというストーリーにより、"性"よりもむしろ"生"の大切さを訴えているように受け止めました。読者の多くは女性でしょう。それらの女性は、"性"の描写に関心があったのではなく、この世の中、"生"の難しさに病み、克服の道しるべを見出そうとしたように思えました。深刻な内容をこれほどさりげなく、そして、最後の数行で、将来の可能性を示唆する当たり、思わず、さすがと唸ってしまいました。なかなか面白い作品です。

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桜井淳所長の『数学史入門』(ちくま学芸文庫)と『デカルトの数学思想』(東大出版会)に対する書評

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早いもので駒場キャンパスに通ってまる5年になります。いろいろな勉強してきましたが、これから、ひとつひとつ、整理して、気持ちを切り替えて行かなければなりません。まず、佐々木力『数学史入門』(ちくま学芸文庫、2005)ですが、古代ギリシャの数学からニュートンとライプニッツによる微積分まで、見事な論理化です。原稿を2週間で仕上げたというのは、東大理学部数学科と東大大学院数理科学研究科での10年間の講義ノート(「あとがき」、p.214)があって初めてできることです。記載内容の特徴をいくつか挙げれば、(1)数箇所に著者の建設的な歴史認識が記されていること、(2)数箇所でクーンやマホーニィの業績を引用し、高く評価し、特に、関係箇所で、クーンの構造以来の一番重要なキーワード「通約不可能」(incommensurable)を分かりやすく示していること、(3)歴史的一次資料に当たって、それを引用しつつ、論理展開していること、(4)文献の孫引きを決してせず、自ら、必ず、一次資料に当たり、熟読吟味し、内容を確認しており、時には、注として、他の引用者の誤りまで示して正していることで、特に、(3)(4)は、当たり前のように思われがちですが、誰しもなかなか100パーセント実行できず、改めて、肝に銘じねばならないと自身に言い聞かせました。一般論からすれば、よい著書か否かは、(3)(4)に着目すれば判断できます。その意味では『数学史入門』は大変優れた内容です。つぎに、佐々木力『デカルトの数学思想』(東大出版会、2003)(9年間かけてまとめたプリンストン大学歴史学博士論文(600p.に及ぶ例のない分量)の日本語版。当時、プリンストン大学歴史講座には、世界でもその分野のトップクラスの研究者であるクーン、ギリスピー、マホーニィが在籍)を読み始めて5年になります。いつまでもこだわっているわけにも行かず(この問題が、長い間、喉に、小骨のように引っかかり、気になっていました)、問題を整理するために、いま、暫定的に、感想を述べておきます。最初に、全8章を熟読吟味し、2回目は、特に、オリジナリティの高いと教わった「第一章デカルトとイエズス会の数学教育」、「第四章『精神指導の規則』の数学的背景」、「第五章1637年の『幾何学』」、「第六章アリストテレスにおける「普遍学」」、「第八章17世紀の「普遍数学」」を特に注意深く読み、数回繰り返し熟読吟味してみました。文章が軟らかく、分かりやすいため、たとえ、分量が多くても、苦になることはありませんでしたが、私には、数学研究の経験がないため、さらに、その分野の多くの一次資料に当たった苦しみの経験がないため、オリジナリティの高いとされる章の絶対的価値が分かりませんでした。ただし、「とりわけ、彼(引用者注 ルネ・デカルト)が近代の代数解析的数学の創始者であるフランソワ・ディエトの著作を読んだかどうかを確かめることは、私の長年の念願であった」(「序文」、viii)に記されているとおり、歴史的な問題に挑んだことは、よく分かりました。記載内容と引用文献から判断して、歴史的成果であることは、よく理解できましたが、細部に渡って理解できたかというとそうではなく、全体の三分の一くらいしか本当の意味が分からなかったのではないかと反省しています。やはり専門外のことであるため、微妙な問題の解決のための作業内容と難易度が分からないために、価値判断ができませんでした。それから、あえて言えば、「結論」のまとめ方にやや違和感を覚えました。と言うのは、普通、「結論」には、それまでの議論でオリジナリティの高い箇所を強調するための総まとめと解釈されていますが、この本では、必ずしもそうなっておらず、新たな文献を引用し、さらなる考察を続けていますが、そのような形式には、初めて出会いました。この点に違和感を持ちました。この本で示された研究の方法と表現法は、特に論証の必要十分性について、自身の学位論文をまとめる上で大変に参考になりました。その意味では感謝しています。その分量と内容をまとめられる忍耐強さが何によって養われたのか、認識してみたいとも思いました。私が『資本論』(向坂逸郎訳、岩波文庫版、1969)を十数回読み返したのはそのためでした。私なりに忍耐の根源が理解できたように思えます。察するに、仮に、佐々木先生が、この本の認識と基準のレベルで、東大大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系(いわゆる科史・科哲)で学位審査をされたならば、おそらく、みな、不合格になることでしょう。

Wed, March 04, 2009 stanford2008の投稿

桜井淳所長から東大大学院人文社会系研究科のH先生への手紙 -神学研究の方法 19-

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H先生


私は「神は核を選択したのか」という疑問を持っております。と言うのは、ユダヤ教とキリスト教の国であるイスラエルは、すでに、約200発のプルトニウム原爆を保有しており(核実験をせずに保有しているのは世界でイスラエルだけです)、いっぽう、歴史的にたどれば、イスラーム教の国であるイラクは、湾岸戦争直前に、建設中の研究用原子炉(仏国の技術)がイスラエルの空爆によって破壊され、やはり、イスラーム教の国であるイランは、最近、ウラン原爆を製造するためにロシアから技術導入してウラン濃縮遠心分離器を運転・増設中、さらに、ごく最近、シリアが研究用原子炉(米国は北朝鮮の技術供与との疑惑を持っております)を建設中でしたが、イスラエルの空爆で破壊されました。中東各国は核保有の方向に向かっていることは確かです。

ここでイスラエルのプルトニウム原爆製造施設について少し詳しく記してみます。原爆製造施設はイスラエル南部のネゲブ砂漠(旧約聖書には、モーセが、ヘブライ人(ユダヤ人)を率いて、約束の地カナンを目指して、長い間、さ迷った地として記されております)の中のディモナ(死海の南西数十km)という地名の地下に設置されております。プルトニウム生産炉と核燃料再処理施設は仏国の技術で建設されました。熱出力40MWの重水減速型重水冷却炉であるプルトニウム生産炉は、1960年頃に建設が開始され、1963年から運転が開始されました。いっぽう、年間40kgのプルトニウムを分離生産できる核燃料再処理施設は、やや、建設が遅れ、1962年に建設が開始され、1966年に運転が開始され、1972年から本格的な生産運転がなされました。イスラエル政府は、プルトニウム原爆製造施設の存在とプルトニウム原爆保有の真実を秘密にしておりましたが、エンジニアとして1977年からその原子炉施設で働いていたモルデカイ・バヌヌが、1986年に、英国の「サンデー・タイムズ」に対し、施設の証拠写真と詳細情報を提供し(モルデカイ・バヌヌは、国家機密漏洩罪で、長い間、収監されておりました)、初めてその存在が発覚いたしました。保有数200発という数字はその時に明かされたものです。

私は、「神は、理性的であり、最高の知性により、問題解決に努める」と信じておりますから、いまのような安全を脅かす状況を懸念しております。来年度になり、機会がありましたら、ぜひ、このような問題についても、質疑応答させていただきたいと念願しております。


桜井淳
Wed, March 04, 2009 stanford2008の投稿

桜井淳所長から東大大学院人文社会系研究科のH先生への手紙 -神学研究の方法 18-

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H先生



それでは来年度春からよろしくお願いいたします。基礎的な勉強は済ませておきたいと考えております。

最近、中沢新一『チベットのモーツアルト』(講談社文庫、2003)『梅原猛著作集第9巻-三人の祖師-』(小学館、2002)を熟読いたしました。前者は、中沢先生が、まだ、東大人文科学研究科博士課程の時に、チベットの仏教四大宗派のひとつに1年半ほど体験入信した際のフィールド研究で、後者は、最澄、空海、(空海と最澄のやり取りやしこりがよくまとめられています(pp.260-274))、親鸞の人生と教えを分かりやすくまとめたものです。得るところの多い内容です。


もう少し詳しく記すと、中沢先生は、宗教哲学を饒舌に語っていますが、奇妙に思えるのは、体験入信した際のフィールド研究の記載があまりにも少ないということです。フィールドノートの一部を示したのは、pp.21-26(1980年7月10日)のわずか6p.だけであり、フィールドノートではないが、体験を基に記しているのは、p.23とp.307から始まるわずかな箇所に過ぎません。他の箇所でも体験入信の知識が生かされているのかもしれませんが、そのことが記されていないため、第三者には、まったく判断できません。体験を基にした箇所にわざわざそのことこと記したことから判断すれば、記していないところは、無関係ということでしょう。1年半ほど体験入信した際のフィールド研究を基にしているのであれば、フィールドノートを具体的に引用しながら、そのまま、それがわかるような記載法で、1冊に仕上げることができると思うのですが、そうしていません。そのことは誰が読んでも奇妙に思えるでしょう。東大教養学部での中沢人事問題(本欄バックナンバー参照)の時にこの本を読んだひとたちは、どのように受け止め、評価したのでしょうか。私は、表題の「チベットのモーツアルト」をキーワードに位置づけるのであれば、否定的な評価をせざるを得ませんでした。

あえて歴史的に記せば、ユダヤ教、仏教、ヒンドゥー教、キリスト教、イスラーム教の経典の共通点は、ひらたく言えば、人間の思考と行為の好ましい指針を示していること、それから、心と身体の病からの救済の指針を示していることでしょうか。それらには、関係経典があまりにも多く、基礎的な文献に目をとおすだけでも、なかなか大変な作業のように思えます。


桜井淳

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