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検察は説明責任果たせ 解けぬ疑問に今こそ '09/3/4

 「わが国最強の捜査機関」を自負する東京地検特捜部は、その絶大な権力ゆえに、政治力学を揺さぶる捜査着手に関しては自制的な姿勢を是としてきた。しかし、小沢一郎民主党代表の資金管理団体をターゲットにした三日の強制捜査は、衆院選や政権の行方に大きな影響を及ぼすことは必至であり、民主党からは「国策捜査」「陰謀」との批判も高まる。なぜ、今なのか。検察当局は国民の疑問に対し、説明責任を果たさなければならない。

 定額給付金をめぐる第二次補正予算関連法案の衆院での再可決は四日に迫っていた。与党から造反も予想され、麻生政権の「がけっぷち状況」がさらに深まる可能性もあった。特捜部の捜査は、追及する民主党の旗頭に「政治とカネ」で痛打を浴びせる結果となった。

 今回の事件は、政治資金規正法違反容疑とされた献金が二〇〇三〜〇六年分で、一部の容疑は時効が三月末に迫っていた。また、四月には特捜部の編成が人事異動で大幅に変わることから、急ぎ着手する必要に迫られたという事情もあっただろう。

 過去の政界事件も、金丸信・元自民党副総裁、村上正邦元労相の逮捕など三月着手のケースが目を引く。

 それでも「なぜ、今」の疑問は解けない。さらに、西松建設絡みの献金を受け取っていたのは小沢代表の資金管理団体だけではない。

 官僚政治打破を訴える小沢代表に「霞が関」の不信感は強まっていた。政権交代の可能性が高まる中で、検察当局に「選挙の顔」を狙い撃ちする意図は本当になかったのか。

 一方、小沢代表には、検察当局にもまして国民への説明責任がある。

 企業や労働組合などによる献金は「政治腐敗の温床になる」との指摘を踏まえて徐々に制限され、政治資金規正法改正で二〇〇〇年一月から政治家個人に対しては全面的に禁止された。

 しかし政治家個人の事実上の「財布」ともいえる政党支部には認められ、企業献金が支部から個人の資金管理団体に迂回うかいする例は多い。今回のケースは、企業側が政治団体という隠れみのをつくり、政治家の資金管理団体に献金していた。双方とも法の精神を逸脱しているのは明らかだ。

 支持率下落に歯止めがかからない麻生政権の失速と対照的に、次期衆院選での政権奪取が現実味を帯びていた民主党にとって、手痛いダメージとなるのは間違いない。

 問題はその後の対応である。小沢氏はこの日の党幹部会で「すべてきちんと処理している」と説明しただけで、記者会見の要求を突っぱねた。メディアの世論調査の「首相にふさわしい人」で、麻生太郎首相に大差を付けている党首が取る態度だろうか。

 民主党はこれまでも閣僚や与党議員らの疑惑が表面化すると、説明責任を果たすよう強く求めてきた。口を閉ざす小沢氏を許すようでは「透明性」を掲げてきた党の看板は泣く。

 「次の首相に最も近い人」だからこそ、率先して説明責任を実践しなければいけない。(共同通信社会部長・宮城孝治、政治部長・橋詰邦弘)




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