2006年02月25日

●フィギュア・エキシビジョン


今朝、トリノ・オリンピックのフィギュアのエキシビジョンが行われたのを観た。




私は 以前『カタリナ・ビット』という記事で述べた様に、フィギュアの本戦を観るのも好きだけど、最も大好きなのは 闘いが終わった後で行われるエキシビジョンが大好きなのだ。


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このエキシビジョンとは ハッキリ言って、ショーであり競技では無い。


にも関わらず、競技の場であるオリンピックにおいて 唯一、競技ではない公式イベントとして存在するわけで このフィギュアのエキシビジョンは オリンピックだけに限らず、世界大会など大きなフィギュアの国際大会でも最終日に行われ、フィギュア・ファンの中には「本戦はどうでも良い、俺はエキシビジョンが観たいんだ」と公言して憚らないファンがいるほどで かくゆう私も それに近い。^^;


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しかし、今朝観て あらためて思ったけど、


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オリンピックのエキシビジョンは他の国際大会とは比べようもなく素晴らしいね。


選手達は 長い期間、オリンピックに勝つ為に必死で練習を積んでくる。


マスコミを筆頭に いろんなプレッシャーに責め立てられ、本戦ではミスをしないようにと いろんな緊張に縛られる。


だから、そんな場で「場の雰囲気を楽しむ」なんて真似は生易しい事では無く、どんなにリラックスして笑顔を浮かべていても やはり、どこかに張りつめたものがある。


たとえば、女子シングルで三位になったアメリカのコーエンは 哀しいかな、そんなプレッシャーに弱いようで 過去の大会でもそうだが、SPでは素晴らしい成績なのだが、本戦では緊張に負けたかの如く転倒するなどミスを連発してしまう。^^;


昔、1976年のインスブルック、1980年のレイクプラシッド大会に 渡部絵美という選手が日本から出場した。


特に1980年のレイクプラシッドの時には「絶対に金を獲ってくれるんじゃないか」という物凄い期待が彼女を押しつぶしたと言って良い。


私は いつも思うんだけど、なんで期待するならば 選手が万全の態勢で臨めるように そっと静かにほっといてあげないのだろう?と。


まぁ、世界で優勝するぐらいの選手になるためには ちょっとやそっとの取材攻勢やプレッシャーなんかに負けちゃいけない…というのは判らなくも無いが、ファンであるならば 選手の邪魔をしないのも大事なマナーだと考えるべきなんじゃないかな


で、結果的に1980年のレイクプラシッド大会に 渡部絵美は6位に終わる。


この時、4位に終わったのが スイスのデニス・ビールマンで 


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そう、今ではお馴染みのビールマン・スピンを世界で初めて 国際大会で披露した選手。


このビールマンこそ、「金メダル確実」と前評判の高かった選手だったが やはり、プレッシャーに負けたかの如き失敗を犯し、メダルを逃した。


ちなみに、今回の荒川静香で評判になった「イナバウア-」とは 昔、西ドイツの「イナ・バウアー」という選手が初めて行った技だから、「イナバウアー」と名が付き呼ばれているが、この「イナバウアー」というのは


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荒川のように仰け反った上半身の方に目がいってしまうようだけど、実は 身体全体のポーズが「イナバウア-」ではなく、


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下半身の形の事が「イナバウアー」で 試しにやってみると判るけど、左足のつま先を 身体の真左に向け、左膝を90度近くまで曲げる そして、右足を身体の後ろに出来るだけ膝を伸ばして下げ、右足のつま先は身体の真右に向ける… (右に回転する場合は 左右を逆に)


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その下半身の姿勢を維持して 出来るだけ直線的に左に平行移動する技を基本的に「イナバウアー」と呼び 荒川が見せる上半身を仰け反らせるポーズは 身体の柔らかさや美しさを表現するものなのであり、当然、難度が数段高いのだ。




さて…、1988年のカルガリー大会の時に 日本から 伊藤みどり、八木沼純子が出場し、特に その時の伊藤みどりは 今では多くの選手が見せる「トリプル・アクセル(3回転半ジャンプ)」を 当時、世界で初めて跳べる選手として大きな期待が寄せられた。


で、実は その時までフィギュアのコアなファン以外、フィギュアにエキシビジョンがある…と言う事を(国際大会でメダルを獲った選手がいなかった為)知られていなかったのだが、このカルガリーの時に有力選手だったカタリナ・ビットが 大会前のインタビューで なにげに伊藤みどりについて「観客はゴム・ボールがピョンピョン跳ねるのを見に来ているわけでは無い」と発言した事が「フィギュアスケートは、芸術かスポーツか」という論争を生み 後に「コンパルソリー」と呼ばれていた規定種目が廃止されるキッカケともなる。


結局、本戦では カタリナ・ビットがカナダのマンリーやアメリカのトーマスに僅差ながらも得点が上回り金メダルに輝いたのだが、芸術性が乏しいながらも躍動感溢れる伊藤みどりの演技に観客がスタンディングオベーションで絶賛した結果、当時はメダルを取らなければ出場できないとされていたエキシビジョンに 伊藤みどりは特別参加を許され、それを日本国内に衛星中継した事から「エキシビジョン」を 初めて目の当たりにしたファンが多いのである。


でね、その当時の日本人達は マスコミに煽られたせいもあり、「伊藤みどりが 絶対に金メダルを獲る」って信じていたし、実際に 本戦の演技を他の選手とも見比べて「せめて三位でも良かったんじゃないの?」と 競技採点に不信感を抱いた人も多かったのだが…


エキシビジョンを観て「あ~ これじゃ勝てない」「根本的な実力や考え方が 全然、世界のトップレベルと違うじゃん」と 思い知らされたのである。


と言うのは、そのエキシビジョンで 本戦と同じ曲で同じプログラムを必死に演じ、同じ様にミスをしてしまった伊藤みどりに対して ビットやトーマスは 本戦を終え メダル獲得という栄誉の喜びもあるのだろうけど 実にリラックスして優雅に しかも、観ている者も感動するぐらいに 楽しそうに舞っている。


しかも、最初から「私はメダルを獲るんです」と確信していたかの様に エキシビジョン用の衣裳と曲と振り付けまで用意していて 挙げ句の果てには東ドイツのカタリナ・ビットが アメリカのマイケル・ジャクソンの曲で 見事にムーンウォークを滑って魅せたのだ。


そういう姿を見た当時の日本の多くのファンは「底力が 全然、違ってるんだから 伊藤みどりが5位になれただけでも 実は”凄い”と喜ぶべきだった…」と認識を改めたのだ。


で、こう言うと 世の女性達から怒られるのだろうとは思うけど…


伊藤みどり、渡部絵美… たしかに人気・実力共に 当時の日本ではトップ・スケーターだったのだが、世界大会やオリンピックで観る他国のトップ選手達と比べ 日本人独特の ずんぐりむっくりな体形や 御世辞にも軟らかいとは思えない身体の柔軟性など バレエ等の いわゆる芸術的分野の素養の乏しさは如何ともし難いのかな…と思っていたわけだが…


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荒川、村主、安藤… 今回の3選手を観ていて ついに、日本の選手も全く他国の選手と遜色ないレベルに達したのだな…という感慨が深い。


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で、とうとう荒川が金メダルに輝き、迎えたエキシビジョンを観て…


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私は 本当に感動して泣いたね。^^


昔、初めて観たエキシビジョンでの感動が甦り、それが日本の選手の姿だという事に感動し、スルツカヤやコーエンなんか足元にも及ばない優雅な軟らかい滑りを


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エキシビジョンで見せつけてくれて プレッシャーなどから開放された時の本当の底力の違いの しかも、そのレベルの高さを魅せてくれたのに心底、感動した。


たぶん、このエキシビジョンは 一生忘れられないと確信する。


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ラストのスピンの左手の動きには まさに水面に浮かぶ白鳥が見えたもん。


あの時のビットのエキシビジョンを塗り替えてくれる記憶のプレゼントに 只々、感謝するばかりだ。


【管理人追記(2月26日)】

Wenさんへのコメントに書いた事なんだけど…

浅田麻央か安藤美姫 御願いだから 次のオリンピックのフリーで「朔と亜紀」で滑ってくれないかなぁ…


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【管理人追記(2月28日)】

Mintさんから頂いたコメントに関連する画像を 上に2枚追加しました。



記述者:ブタネコ | 掲載日時:2006年02月25日 20:34 このエントリをlivedoorクリップに追加 このエントリーのlivedoorクリップ被リンク数 このエントリーを含むはてなブックマーク このエントリーのはてなブックマーク被リンク数
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コメント

いやいや~勉強させていただきました。ありがとうございます。
ブタネコさんて本当に博覧強記でいらっしゃる。
フィギュアの歴史にあらためて思いを馳せました。
伊藤みどりのエキシビジョンで世界の壁を痛感したというところ、興味深かったです。
「イナバウア-」についてもご教示いただき、そうだったのかと目からウロコでした。
記事全文に賛同です。
>ファンであるならば 選手の邪魔をしないのも大事なマナーだと考えるべきなんじゃないかな
同感です。
>ついに、日本の選手も全く他国の選手と遜色ないレベルに達したのだな…という感慨が深い。
わかります。
(ありきたりの反応しか書けなくてすみません^^;)
荒川選手は本当に光り輝いていましたね。日本人として誇らしく思いました。
優雅で華麗で美しくて・・・躍動感に満ちていたところがまた素晴らしく、それが一番嬉しかったです。
荒川選手には心からおめでとうとありがとうを言いたいです。

コメント by HAZUKI | コメント受信日時 : 2006年02月25日 23:39

このエキシビジョンも、完全保存版でございます。

歌詞ありの曲で、選手の皆さんもリラックスして観客との一体感もあり、素晴らしい限りですね。

あの荒川選手の上体後ろ反りのイナバウアーは「アラカワSP」と改名でもいいのではと、ベタながら思う次第です。


コメント by Wen | コメント受信日時 : 2006年02月26日 02:01

★ HAZUKI さん

エキシビジョンの放送の解説者も言ってましたが、荒川が 挙げた足を下ろす時やスパイラルからスピン、ジャンプから降りた後、次への態勢へと移行する時のスケーティングが実に滑らかで フワッと軟らかいのが 物凄く優雅に映り、今までの日本人には見られなかったテクニックの高さを垣間見て唸りました。^^


★ Wen さん

ホント、永久保存版ですね コレ^^

で、ふと思ったんですけど、浅田か安藤が「朔と亜紀」を使って 次のオリンピックに出てくれないかな…

それ、想像しただけで泣けてきた(ToT)

コメント by ブタネコ | コメント受信日時 : 2006年02月26日 04:18

遅塚オリンピック団長のコメント等々↓

http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20060227k0000m050055000c.html

これ見て腹立ってくるのは私だけでしょうか?

最低の結果?何故お前が言う?
国民に謝罪?選手は何か悪いことをしたのか?
スノボーで見通しの甘い報告をされた?お前は助っ人外国人を数字だけで判断する巨人のフロントか?

選手はおのれの五輪団長としての成績を考慮してメダルを獲らなければならないのか?

そりゃ、がんばった選手に結果が伴わなかったのは残念だけどさー
多分この人たちはこのエキシビジョンなんて観てないんだろーね

「サクと亜紀」かー
想像すると、合ってるとは思うけど何か別の感情が入り込んで、演技に集中できないかも・・・

コメント by うごるあ | コメント受信日時 : 2006年02月27日 05:07

★ うごるあ さん

どのスポーツも協会には そういう勘違い爺ぃが沢山います。^^

競技によっては そういう爺ぃ達に嫌気がさして支援者達が手を引くケースが多いです。

コメント by ブタネコ | コメント受信日時 : 2006年02月27日 21:01

takuさんのブログでブタネコさんを何回か拝見してました。
密かにブタネコさんのブログも拝見してました。
実は私もエキシビジョンが大好きで、SPやフリーよりも、エキシビジョンが見たい!って
思って見てました。
ビールマン選手、懐かしいです。あのスピンを初めて見た時は本当に驚いたし
あの柔らかさは真似できないなーって感じました。

今回のエキシビジョンは、バイオリニストが演奏して、その曲で滑る選手がいて
普段じゃ見られない、貴重なエキシビジョンだったと思います。

個人的には荒川選手を含めて、もっと遊びの要素を含んだショーにして欲しかった。
衣装も自由だし、曲も自由だから、エキシビジョンならではというのが欲しかったですね~。
そういう意味では、選手の名前は忘れましたが、イタリアの選手で
帽子を被って出てきた選手の演技はなかなか楽しかったです。

しかしメダルを期待する気持ちはわかるけど、ブタネコさんと同じで
もっと静かに見守って欲しかったって感じがします。
過熱しすぎていて、期待しすぎてる。
それにメダルが少ないからって、謝罪するってのもおかしいですよね?
元々「参加する事に意義がある」ってはず。
オリンピックという、世界で一番大きな大会に参加できただけでもすごいのに…。

何だか複雑ですね。

イナバウアーの本当の姿を教えてくださってありがとうございます。
大変勉強になりました。

コメント by Mint | コメント受信日時 : 2006年02月28日 03:53

★ Mint さん


コメントありがとうございます。^^


>ビールマン選手、懐かしいです。あのスピンを初めて見た時は本当に驚いたし
>あの柔らかさは真似できないなーって感じました。


そう、ビックリしましたねぇ… 私も、よく覚えてます^^;


>個人的には荒川選手を含めて、もっと遊びの要素を含んだショーにして欲しかった。
>衣装も自由だし、曲も自由だから、エキシビジョンならではというのが欲しかったですね~。


長野の時は男子シングルの選手達が派手に魅せてくれましたっけ…^^


>もっと静かに見守って欲しかったって感じがします。
>過熱しすぎていて、期待しすぎてる。
>それにメダルが少ないからって、謝罪するってのもおかしいですよね?


そう、本当のファンであるならば 無闇に騒がず、そっと見守ってあげれば良いのです。^^

騒げば騒ぐほどロクな結果にはならないんですからね^^

と、私は思うので南東北のヒャッホイ野郎とは一線を画して 静かに綾瀬はるかを見守ろうと… あ、余計でしたね^^;


私も 南東北… あ、もとい、神ブロガーtakuさんのところで Mintさんのコメントを何度も拝読させて頂いておりますので コメントを頂戴できたのは嬉しい限りです。

なので、頂戴したコメントの関連画像を記事に2枚追加させて頂きました。

今後とも よろしく御願い申し上げます。^^

コメント by ブタネコ | コメント受信日時 : 2006年02月28日 04:21

追加画像、ありがとうございます!
実は我が家の子供達がバイオリンを習ってまして、あ、でもセレブでも何でもないです。ビンボーな中をやりくりして、かろうじてレッスンできてるって状態です。

まぁ、そんな環境なので、あのバイオリンの演奏でスケートってのは驚きました。
スケート靴を履いてなかったから

「あれでこけて、バイオリンが壊れたどうするんだろう?」

と余計な心配をしてました。(笑)

プルシェンコも会場に投げキッスをしながらの演技でしたね~。
そうそう!長野オリンピックの時は、男子シングルが結構楽しめました。
やっぱりエキシビジョンはこうでなくちゃ!
そういう意味では荒川選手も、遊んで欲しかったなぁ。
曲はやっぱりセカチュー?(笑)

コメント by Mint | コメント受信日時 : 2006年03月02日 12:09

★ Mint さん

もし、安藤美姫がエキシビジョンに出ていたら… いつぞやの時のように楽しい物が見れたんじゃないか?と想像してます。^^;

コメント by ブタネコ | コメント受信日時 : 2006年03月02日 18:04

「イナ・バウアー」
ドイツっぽい名前だな~と思っていたんですが
なるほどホントにドイツの方の選手名だったとは
それに下半身の動きに対しての技術だったんですねぇ
ニュースでも知ることのできなかった知識を
こちらで知ることができましたよ
ブタネコさんありがとう!

フィギュアって正直あまり興味なかったんだけど
荒川のおかげで感動させてもらいました

コメント by えどん | コメント受信日時 : 2006年03月03日 18:02

★ えどん さん

>フィギュアって正直あまり興味なかったんだけど
>荒川のおかげで感動させてもらいました

NANAより?

Ψ(`∀´)Ψ ケケケ

コメント by ブタネコ | コメント受信日時 : 2006年03月03日 21:04

はじめまして!トリノフィギュアエキシビジョンで荒川選手のアンコールでかかっていた曲名を知りたいのですがご存知の方いらしゃいましたらお教えください。

コメント by 多田正好 | コメント受信日時 : 2006年04月08日 22:53

★ 多田 さん

エキシビジョンの曲名は

「You raise me up」

です。

コメント by ブタネコ | コメント受信日時 : 2006年04月08日 23:03

★ 多田 さん

すいませんでした。

自分のレスを読み直したら 勘違いしている事に気づきました。

アンコールの曲ですね^^;

映像を見直して、曲も聴き直しましたが 私には判りませんでした。

お力になれずにすいません。

コメント by ブタネコ | コメント受信日時 : 2006年04月10日 00:21
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