NVIDIAは3月3日、ドイツで開催されるCebit 2009の開幕に合わせて、パフォーマンスセグメント向けのGPU「GeForce GTS 250」を発表した。本製品は2008年6月に発売されたGeForce 9800 GTX+のリニューアルモデルとなる。この製品の特色をチェックしてみたい。 ●9800GTX+から設計を見直したモデル
今回発表されたGeForce GTS 250は、GeForce 9800 GTX+のリニューアル版だ。製品名がGeForce GTX 280/260で使われたものと同じスキームに変更されているが、これはアルファベット三文字で製品セグメント、数字でモデルを示す。従来は数字でセグメント、アルファベットでモデルを示していたので、まったく逆になる。 あくまで例えとなるが、GTS 280、GTS 250という製品があったならば、これらは同じセグメントのバリエーションモデルということになり、GTX 250、GTS 250という製品があったならば、これらはセグメントが異なるまったく違った製品という位置付けになる。NVIDIAは今後、このルールで製品を投入していくので、このスキームの読み方を覚えておくべきだろう。 【表1】GeForce GTS 250の仕様
GeForce GTS 250の仕様は表1に示したとおり、基本的にはGeForce 9800 GTX+と同じである。55nmプロセスで製造されるG92プロセスのコアを使用しており、各種クロックもまったく同じになっている。唯一の違いはビデオメモリの容量で、GeForce 9800 GTX+では公式には512MBのみがラインナップされていたのに対し、GeForce GTS 250では512MBモデルに加え、1GBモデルがラインナップされるようになった。 価格は512MBが129ドル、1GBが149ドルとなっており、現在の為替レートを考慮すれば1GBモデルも1万円台で発売されるだろう。GeForce 9800 GTX+も今でこそ1万円台の製品が存在するほどだが、ビデオメモリが増量されて、かつ同等価格帯となれば、その魅力は強くなるだろう。 今回テストに用いるのは、MSIの「N250GTS」である(写真1、2)。この製品はMSIオリジナルのクーラーが搭載されているが、リファレンスデザインではGeForce GTX 260のクーラーを一回り小さくしたものが採用される(図1)。
本製品は1GBのビデオメモリを搭載する製品となるが、裏面にメモリチップはなく、表面の8枚のみで1GBを実現している(写真3)。1Gbitのメモリチップ8枚で1GBとなる。 また、SLI用のコネクタは2系統装備(写真4)。これはGeForce 9800 GTX+同様に3-way SLIをサポートすることを意味する。また、NVIDIAの資料によれば、GeForce 9800 GTX+とGeForce GTS 250の組み合わせによるSLIもサポートするとされている。 さて、スペック面ではGeForce 9800 GTX+との違いが少ないGeForce GTS 250であるが、基板は大きく見直されている。GeForce 9800 GTX+では10.5インチサイズだったボード長が、GeForce GTS 250では9インチに縮められた(写真5)。 さらに、リファレンスボードの消費電力が150W未満へ抑制された。この150Wというのは、PCI Expressスロットと6ピン電源端子で供給可能な電力となる点で意味がある。GeForce 9800 GTX+では6ピン×2を接続する必要があったのに対し、GeForce GTS 250は6ピン×1で足りるのである(写真6)。GeForce 9600 GTにも電源端子をもたずカードサイズが小型化された製品の発売が確認されているが、本製品も似たようなコンセプトを持たせたものといえるだろう。
ところでNVIDIAのGPUといえば、CUDA対応のアプリケーションが地道に増えている。その流れで、昨年夏ごろから話題になっていたArcSoftのアップスケーリング技術「SimHD」を搭載した「TotalMedia Theatre」を試す機会を得た。 現在のバージョンでは、CUDAまたはCPUによるアップスケール処理を指定できるほか、画面を分割してアップスケール処理を適用した場合と適用しない場合を見比べる機能が搭載されている(画面1)。画面2は、HQV Benchmark(DVD版)の映像を1,920×1,080ドットで表示したもの。デジカメで撮影したものであるが、それでもアップスケール処理を施した右側の映像は、橋のディテールがはっきりしていることが分かる。 問題はこれをCPUに処理させた場合、CPU使用率がかなり高くなるということである。ここではCore 2 Extreme QX9770というハイエンドなCPUを使用しているにも関わらず、CPU使用率は常時80%前後を推移していた(画面3)。しかし、この処理をCUDAで行なった場合、CPU使用率は10%未満に収まる(画面4)。この違いがCUDAのメリットだ。
●ビデオメモリ増量の効果と消費電力に注目 ベンチマーク結果の紹介に移る。テスト環境は表2に示したとおりで、ここではGeForce 9800 GTX+との比較を行なう。ドライバはGeForce GTS 250のレビュー用に配布された「182.06」を使用している。 【表2】テスト環境
「3DMark Vantage」(グラフ1〜2)の結果は、GeForce GTS 250がわずかにスコアを伸ばすという結果になった。Feature TestもStream Outでわずかに遅い傾向にあるが、シェーダの処理性能は上がる傾向が見て取れる。動作クロックが同一の両製品であるが、フレームバッファの容量差でスコアを伸ばした可能性は高い。
「3DMark06」(グラフ3〜5)も3DMark Vantageと似たような傾向にあり、GeForce GTS 250がわずかにスコアを伸ばす傾向が見て取れる。SM2.0とHDR/SM3.0といったテストの違いや、解像度やフィルタなどの条件による、明確な傾向の違いはなく、わりと素直にスコアを伸ばした格好になった。
「Call of Duty:World at War」(グラフ6)も、GeForce GTS 250によって性能が向上。フィルタを適用しない状態よりも、フィルタを適用した条件のほうが性能の伸び率が大きい傾向にある。ビデオメモリ容量が増したことによる効果と見ていいと思うが、わずかに数%の違いであり、こういう傾向がある、程度に理解しておけば十分だろう。
「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ7)もCall of Dutyと似たような傾向になった。ただ、こちらはフィルタ適用時のスコアの伸びがより顕著。1,920×1,200ドットのフィルタ適用時には7%の伸びを見せており、GeForce GTS 250の良さが目立っている印象を受ける。
「Crysis Warhead」(グラフ8)はGeForce GTS 250が非常に大きな伸びを示した。低解像度でも25%以上、負荷が高まることでその差は開き、1,920×1,200ドットのフィルタ適用時には50%の伸びを見せている。非常に負荷の高いアプリケーションであるため、ビデオメモリ容量の差がより発揮されたとみることもできるが、それにしても大きな差であり、GeForce GTS 250に向けたドライバのチューニングが進んでいるという可能性もありそうだ。
「Enemy Territory: Quake Wars」(グラフ9)は、ほとんど差のない結果となった。わずかにGeForce GTS 250が良い結果を出す傾向にはあるものの、テスト条件などによる明確な差もなく、多少の高速化が期待できる程度といえる
「Far Cry 2」(グラフ10)は、Crysis Warhead並みにはっきりした差を示した。低解像度では10%台の伸びだが、1,920×1,200ドットのフィルタ適用時には55%の差となっており非常に効果が大きい。ドライバの影響という可能性も捨てられないが、GeForce GTS 250の恩恵が得られるアプリケーションになっている。
「Left 4 Dead」(グラフ11)は負荷が軽めのアプリケーションということもあってか、性能の差は非常に小さい。最高負荷の条件ではさすがに性能を伸ばしているが、実用的にはほとんど差がないレベルといえる。
「LOST PLANET COLONIES」(グラフ12)はちょっと意外な結果で、GeForce 9800 GTX+のほうが良い結果を出すシーンが少なくない。とくにGPUの影響が大きいAREA2のテストでは、低解像度ではGeForce GTS 250のスコアがはっきりと伸び悩んだほか、ここまで好結果を見せてきたフィルタ適用時のスコアも伸びない。 ハードウェアのスペックからすれば考えられない結果になっており、GeForce GTS 250に向けたドライバのチューニングが進んでいないことに起因していると想像される。こうした結果が出る可能性があることは気に留めておくべきだろう。
「Unreal Tournament 3」(グラフ13)は負荷が軽い部類のアプリケーションとなるが、性能は微増といったところ。Call of DutyやLeft 4 Deadに近い結果となっている。
最後に消費電力の測定結果である(グラフ14)。電源端子が6ピン×1になったのもGeForce GTS 250の大きな特徴であるが、実際の消費電力も大きく減少する結果となった。アイドル時で40W、負荷がかかっている状態でも20〜30Wになっている。同じGPUであることを考えると、かなり大きな差といってよく、好感を持てる結果だ。
●インパクトは小さいが消費電力の価格には魅力 以上のテストの通り、性能面では多くのアプリケーションで微増という結果であり、この点でのインパクトは弱い。もっとも、ビデオカードとしてのスペックは前モデルのGeForce 9800 GTX+と同じで、ビデオメモリ容量のみが増えただけなので、性能面に大きな期待を抱くべきでないだろう。 一方で消費電力の低下は大きなメリットといえる。ボードサイズの短縮、電源端子の減少もあり、導入に際してケースや電源ユニットへの要求が下がったことは、ハイエンド製品を導入する敷居が下がったといえるだろう。 価格は冒頭でも記したとおり、1GBモデルが149ドル。価格が落ち着けば15,000円強の製品が登場してもおかしくない設定であり、これまでミドルレンジ製品を使っていたユーザーにとって、魅力あるアップグレードパスになり得る製品といえる。 □関連記事 (2009年3月3日) [Text by 多和田新也]
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